artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス│2015年03月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
現代日本写真アーカイブ 震災以後の写真表現2011-2013
「写真は東日本大震災をどう引き受け、いま何ができるのか――美術館から画廊、小さなアトリエまで、足で回って写真作品を実際に鑑賞し、それを紹介・批評した450を超える「震災後の写真」の記録3年分を所収する。現代日本写真を知るための「読む写真事典」。」 [出版社サイトより] 初出は当サイトの「artscapeレビュー」欄。
後美術論
『美術手帖』2010年11月号から連載されている美術評論家・椹木野衣による評論『後美術論』のうち、14回分を収めている。後美術(ごびじゅつ)とは、美術や音楽といった既成のジャンルの破壊を行なうことで、ジャンルが産み落とされる前の起源の混沌から、新しい芸術の批評を探り当てる試み。
PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015
京都で初めてとなる大規模な現代芸術の国際展PARASOPHIAのカタログ。4種類のカバーデザイン、350ページにおよぶ作られたカタログには膨大なテキストが収められているが、そのほとんどは既出のテキストで、いわば作家とキュレトリアルチームの共同作業から生まれたアンソロジー。展示会場の順序とは異なる構成で、本というメディアを使った展示が試みられている。
キュレーションの現在 アートが「世界」を問い直す
さまざまな領域で使われるようになり、広く知られるようになった「キュレーション」という言葉。アートの世界でも学芸員に限らず、インディペンデント(独立系)のキュレーター、アーティストや批評家によるキュレーション、国際展や地域のアートプロジェクトの活発化、ゲスト・キュレーター制の浸透といった状況の変化により、方法も担う役割も多様化してきました。本書はゼーマン以後のキュレーションの歴史から始まり、まさに「いま」最前線を走っている方々の、生の声を収録した一冊となっています。本書に集められた言葉は、キュレーションの「いま」を表すだけでなく、必然的にその未来の行方を指し示すものとなるでしょう。[出版社サイトより]
展覧会のグラフィックデザイン
ポスター、チラシなど展覧会の宣伝物には個性的なデザインや凝った印刷加工が多く、デザインの現場で参考になる要素が詰まっています。100 点超の事例からデザインの工夫を解説します。[出版社サイトより]
なnD 3
雑誌「なんとなく、クリティック」「nu」「DU」の編集人3人による「なnD 3」の3号目。この冊子は、普段はそれぞれの仕事をしている3人が、「なnD」欲が湧き上がってきたときに1週間くらいで集中して作られている。これは、雑誌とも書籍ともZINEとも異なるナニモノかを発明しようとする密かな実験の場でもある。
2015/03/12(木)(artscape編集部)
山崎弘義『DIARY 母と庭の肖像』
発行所:大隅書店
発行日:2015年2月25日
山崎弘義は森山大道に私淑し、ストリート・スナップを中心に発表してきた写真家だが、2001年9月4日から母親のポートレートを撮影し始めた。少し後には自宅の庭の片隅も同時に撮影し始める。母が86歳で亡くなる2004年10月26日まで、ほぼ毎日撮影し続けたそれらの写真の総数は3600枚以上に達したという。本書にはその一部が抜粋され、日記の文章とともにおさめられている。
山崎がなぜそんな撮影をしはじめたのか、その本当の理由は当人にもよくわかっていないのではないだろうか。認知症の母親の介護と仕事に追われる日々のなかで、「止むに止まれず」シャッターを切りはじめたということだろう。だが、時を経るに従って、その行為が「続けなければならない」という確信に変わっていった様子が、写真を見ているとしっかり伝わってくる。単純な慰めや安らぎということだけでもない。むしろ、カメラを通じて、日々微妙に変貌していく母親、人間の営みからは超然としている庭の植物たちを見つめつづけることに、写真家としての歓びを感じていたのではないかと想像できるのだ。あくまでも個人的な状況を記録したシリーズであるにもかかわらず、普遍性を感じさせるいい仕事だと思う。
なお、発行元の大隅書店からは、昨年『Akira Yoshimura Works/ 吉村朗写真集』が刊行されており、本書は第二弾の写真集となる。あまり評価されてこなかった、どちらかといえば地味な労作を、丁寧に写真集として形にしていこうという姿勢には頭が下がる。
2015/03/01(日)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2015年02月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
アゲインスト・リテラシー --グラフィティ文化論 Against Literacy: On Graffiti Culture
美術作家・大山エンリコイサムによる、日本初の本格的なグラフィティ文化論。
4章で構成され、1章ではバンクシー、BNE、ラメルジーほか8人の重要な作家を論じる。2章では、20世紀初頭のニューヨークを舞台にグラフィティ文化の成り立ちを探り、落書きと都市の文化史を綴る。3章は舞台を日本に移し、グラフィティ文化の受容と展開の事例として現代日本を文化論の点から考察し、4章では美術批評の文脈から現代のグラフィティ文化を論じる。
本書は、グラフィティ文化の入門書、批評の書であり、美術家である著者のステートメントでもある。
グラフィティ文化と現代美術の接点から導出される「文脈的なリテラシー(フリード)」「感性的なリテラシー(ソンタグ)」というキーワードを手がかりに、さまざまな文脈やリテラシーによって複雑に編成された現代の文化状況のなかで、硬直する思考に抵抗(against)し、しなやかな感性を発揮するためのガイド。[出版社サイトより]
岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ
約400ページ、原画多数掲載。幻の名作「平成枯れすすき」をはじめ、単行本未収録作品8作も収録。一人の少女=マンガ家が見つめたあの時代、その行方。300点以上の原画をはじめ、学生時代のイラストやスケッチ、掲載誌の数々で見る、ついに実現した初の大規模展覧会の公式カタログ。[本書帯より]
TANGE BY TANGE 1949-1959/丹下健三が見た丹下健三
TOTO出版創設25周年記念出版。本書では、丹下健三が、処女作である「広島平和会館原爆記念陳列館」(1952年)を手掛けていた1940年代後半から初期代表作のひとつである「香川県庁舎」(1958年)が完成するまでの10年間(1949~59年)に、丹下自らが撮影した35mmフィルムのコンタクトシートを通して、丹下健三の建築家としての初期像を探ります。[出版社サイトより]
2015/02/03(火)(artscape編集部)
神藏美子『たまきはる』
発行所:リトルモア
発行日:2015年2月8日
まさに「私小説/私写真」。神藏美子の前作『たまもの』(筑摩書房、2002年)は現在の夫「末井さん」と前夫の「坪ちゃん」との不思議な「三角関係」を描ききった作品だが、それから12年かけてようやく続編というべき『たまきはる』が刊行された。それだけの時間を費やしたということは、神藏が「私小説/私写真」の魔物に魅入られてしまったということだろうか。「あとがき」によれば「『たまきはる』に向かうことが、苦しくて苦しくて、逃れられない牢獄のように感じて、何年も過ごしていた」ということだが、「私」と向き合うことは、その毒を全身に浴び続けることでもあるのが、写真からもテキストからも伝わってきた。
とはいえ、『たまきはる』は「読ませる」写真集としてしっかりとでき上がっていた。何よりも夫・末井昭をはじめとして、両親、イエスの方舟の千石剛賢、作家の田中小実昌、アートディレクターの野田凪、ロックバンド、銀杏BOYZの「ミネタくん」、障害者プロレスの「がっちゃん」といった、生と死の間を漂う登場人物たちの悲哀と輝きが、決して押し付けがましくなく描かれている。特に、学生時代に撮影したという寺山修司のポートレートは驚きだった。「こんな写真を撮らせていたのか」というショックがある。写真も文章も、時間軸を無視して行きつ戻りつするのだが、そこにむしろ生活と経験に裏打ちされたリアリティがあるように感じた。あと何年かかるのかはわからないが、ぜひ撮り続け、書き続けて次作をまとめてほしいものだ。
なお、写真集にあわせてNADiff Galleryで「たまきはる──父の死」展が開催された(2014年12月12日~2015年1月30日)。こちらは、映画の録音技師だった父親の死の前後の写真を中心に構成している。
2015/01/15(木)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2015年01月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
せんだいスクール・オブ・デザイン 2013-2014年度年次報告書
2010年秋に始まったせんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)の年次報告書。SSDは東北大学の都市・建築学専攻が中心となり、地域の課題に取り組むクリエイティブな人材を育てる教育プログラム。本書では2013〜2014年に行なわれた多様なプログラムの成果について報告している。
生成のビジュアル─触発のつらなり
2013年10月19日〜12月1日にタクロウソメヤコンテンポラリーアートで開催された展覧会のカタログ。栗田大輔、星野太、服部浩之によるレビューと浅井裕介、大山エンリコイサム、村山悟郎によるアーティストトークを収録。
photographers' gallery press no.12
photographers' galleryがアニュアルで発行している写真批評誌。今号の特集は「爆心地の写真 1945-1952」。原爆被曝当日に撮影された松重美人の5枚の写真、広島県観光協会が1949年に発行した『LIVING HIROSHIMA』等をとりあげている。
庭園美術館へようこそ 旧朝香宮邸をめぐる6つの物語
「2014年11月、リニューアル・オープンする東京都庭園美術館。本書はリニューアル記念として刊行される美術館読本。旧朝香宮邸を巡る6つの物語は、新しい未来への物語の序章に……。……作家、漫画家、音楽家の6名による、旧朝香宮邸をめぐるアンソロジー。」[出版社サイトより]
伊東豊雄 子ども建築塾
「2011年4月からスタートした「子ども建築塾」では、恵比寿にあるスタジオを拠点に、小学校高学年の子どもたちが一年をかけて建築・街を観察し、学び、模型をつくり、住みたい家や街のなかの建築を創造し、提案するという独自の建築教育を行なっています。建築家・伊東豊雄はなぜこのような活動を始めるにいたったのでしょうか。……「いま僕にとって一番楽しい時間」と伊東が語る子ども建築塾の実践と成果を紹介しながら、創造教育の可能性について考えていきます。」[出版社サイトより]
日本メディアアート史
「草月アートセンター、大阪万博、つくば科学博、ARTEC、セゾン文化、ARTLAB、ICC、そして大学教育のなかで──芸術家たちはテクノロジー/マスメディア/社会といかにして切り結び、芸術表現を生み出してきたのか。新進気鋭の研究者による待望の通史が登場!」[出版社サイトより]
たまきはる
前作『たまもの』から12年。60ページに及ぶ文章と168点(カラー70点)の写真で、父の死、友人の死、夫の末井昭との関係、それらを照らした聖書の解釈など、揺れ動く人生を綴る究極の「私小説/私写真」。
2015/01/15(木)(artscape編集部)