artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
山本昌男『小さきもの、沈黙の中で』
発行所:青幻舎
発行日:2014年12月10日
やや前に刊行された作品集だが、山本昌男の新作を取り上げておきたい。山本はどちらかといえば、日本より欧米諸国で評価の高い写真家で、小さいプリントを、「間」を意識しながら、撒き散らすように貼り付けていくインスタレーションで知られている。だが、日本では展覧会を見る機会はあまりなく、アメリカのNazraeli Pressなどから刊行されている写真集も、少部数であるだけでなく絶版になっているものが多い。その意味で、今回青幻舎から代表作をおさめた作品集が刊行されたのは、とてもよかったと思う。
「混沌」、「静謐な気」、「逍遥」、「構築された光」、「超空間時間」、「浄」の6部で構成された作品の並びは、とても注意深く考えられており、ほぼ実物大の写真のレイアウトの仕方に、独特のリズム感がある。山本が書いた序文にあたる文章に、彼の制作の姿勢がよくあらわれているので、引用しておくことにしよう。
「見過ごされそうな小さな物や些細な出来事を発見した喜び、ボタンのかけ違いのような感覚、思わず入り込んでしまった霞の中で立ち位置を失った瞬間などに強く興味を引かれ、こだわってきたことではないかと思っています。[中略]私の作品から、有るのか無いのか分からないくらいの微かな電磁波のようなものが発せられて、弱いけれど弱いからこそ強いメッセージとなり、皆様に届くように願っています。」
こんな写真家がいるということを、ぜひ知ってほしいと思う。
2015/04/27(月)(飯沢耕太郎)
ラース・ミュラー 本 アナログリアリティー
会期:2015/04/10~2015/05/30
京都dddギャラリー[京都府]
スイスを拠点に国際的に活躍する出版者でデザイナーのラース・ミュラー。彼の仕事を紹介する本展では、会場に設置された白いテーブルと壁面の小棚に100冊の書籍が並び、観客が手に取って読める図書室のような形式がとられた。グラフィック・デザイン展で出版メディアが並ぶ場合、実物に直接触れられる機会は思いのほか少ない。書籍が痛む可能性が高いからだ。本展ではリスクを承知した上で最も効果的な形式を採用しており、それはコンテンツに対して最適な形式と素材を追求するミュラーの仕事とも合致する。スイス・デザインの正しき継承者であるミュラー。筆者自身はその厳格さにしんどさを感じることもあるが、こうして彼の仕事を概観できたのは嬉しい限り。また、本展では建築家の藤本壮介が展示デザインを担当し、ミュラーの世界観と合致したミニマルな空間を作り上げていたことを付記しておく。
2015/04/16(木)(小吹隆文)
カタログ&ブックス│2015年04月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
アートプロジェクトのつくりかた 「つながり」を「つづける」ためのことば
本書は、年々全国各地で増えつつある「アートプロジェクト」の実態、運営サイドの様子がわかる「実践的」な一冊となっています。一見小難しそうに見える「アートプロジェクト」をどうすればはじめられるか、何か「プロジェクト」をはじめたいNPO や公共団体・民間企業でも参考になるような、モノ・ヒト・コトの動かし方を具体的に示しています。[出版社サイトより]
Magazine for Document & Critic AC2[エー・シー・ドゥー] 16号(通巻17号)
国際芸術センター青森が、2001年の開館以来、およそ毎年1冊刊行している報告書を兼ねた「ドキュメント&クリティック・マガジン エー・シー・ドゥー」の第16号(通巻17号)。2014年度の事業報告とレビューのほか、関連する対談や論考などを掲載。今号の特集は東南アジアのアートシーン、國府理展「相対温室」ほか。
せんだいスクール・オブ・デザイン 2010-2014年度報告書
せんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)の2010〜2014年にわたる最初の5年間の活動報告書。
青森EARTH 2014
青森の大地に根ざしたアートの可能性を探求して行くプロジェクト、「青森EARTH」のカタログ。2014年度は、青森ゆかりの画家・豊島弘尚(1933-2013)を追悼する「第1部=追悼・豊島弘尚 彼方からの凝視」、青森の縄文を代表する遺稿の一つ「環状列石(ストーンサークル)」を切り口に縄文と現代の接点のありかを問う「第2部=縄目の詩(うた)、石ノ柵」の二部構成にて開催された。
「思索雑感/Image Trash」2004 - 2015:校正用ノート
本書は「東京アートポイント計画」のリサーチプログラム「Tokyo Art Research Lab」の一環として実施している「アートプロジェクトの『言葉』を編む」の一環として制作されました。[本書より]ブログ「Report藤浩志企画制作室」のカテゴリ「思索雑感/Image Trash」をもとに作成されている。
金沢の町家──活きている家作職人の技
建築における伝統技術がいかに保存され継承されているか。その実例を加賀百万石の城下町、金沢の町家から探る。町家とは一般的に商人の専用住宅または職住併用の住宅のことをいい、伝統の技を生かした木造建築物である。幸いにも金沢は戦災や震災に遭うことがなかったために、今も古い町家が数多く残り、それらは金沢の歴史的資産として修復・再利用されている。[出版社サイトより]
長谷川豪 カンバセーションズ ヨーロッパ建築家と考える現在と歴史
現代建築は先の見えにくい状況が続いている。皆で共有できる明確な課題がない時代であるといわれる。そうした状況下においてヨーロッパの建築家が、なにを根拠に建築をつくろうとしているのか。長谷川豪がスイスの建築大学で設計スタジオを持っていた間、いま現代建築をつくることと、歴史に向かうこととの関係をいかに捉えているのか、をヨーロッパの建築家に問うた。2013年7月から2014年5月にかけて計6本の対話が収録され、この本にまとめられた。
あなたと どこでも アート/小さな家プロジェクト記録集
埼玉の公立ミュージアム5館が連携し、美術館内でのプログラムにとどまらず、公園や商店街、文化財建築から廃工場、まちなかのアートスポットまで、さまざまな場所でアートの新たな楽しみ方を提案してきたプロジェクト、「あなたと どこでも アート/小さな家プロジェクト」の記録集。
2015/04/10(金)(artscape編集部)
高松次郎 制作の軌跡
会期:2015/04/07~2015/07/05
国立国際美術館[大阪府]
高松次郎の個展と言えば、昨年末から今年3月にかけて東京国立近代美術館で行なわれたばかりだ。しかし本展とはそれとは別物(連携はしている)。大阪の高松展では、彼の制作活動をシリーズごとに年代を追って展観し、絵画、立体、版画約90点、ドローイング約280点、書籍・雑誌・絵本約40点、記録写真約40点の総計約450点(!)で回顧しているのだ。なかでも注目はドローイングが大量に出品されていることで、それらを完成作と並置することにより、作品の制作過程や高松の思考の変遷を具体的に知ることができる。彼は生前にドローイングの存在を公にせず、2009年にドローイングのカタログレゾネが出版されるまで研究者でもその全貌を知る者はほとんどいなかった。それだけに本展は意義深く、今後高松の評価が更新された場合、そのマイルストーンと位置づけられるだろう。また、出版物に着目した点、記録写真をフォローした点も高く評価されるべきである。
2015/04/06(月)(小吹隆文)
赤城修司『Fukushima Traces 2011-2013』
発行所:オシリス
発行日:2015年3月20日
赤城修司は福島市で高校の美術教員をしながら、現代美術作家としても活動している。「3・11」以降、福島市内を中心に、日々変わり続けていく(変わらないものもある)「日常のなかの非日常」をカメラで記録し、ツイートしはじめた。そこから「2011年3月12日」から「2013年6月22日」までの写真と文章を抜粋しておさめたのが本書である。
赤城がカメラを向けるのは、商品が消えてしまったコンビニの棚、街中にあふれる「がんばろう福島」、「がんばろう東北」の標語、公園に設置された「リアルタイム線量計」などだが、次第に放射性物質の除染作業が大きなテーマとして浮上してくる。むろん、除染作業については新聞・雑誌、テレビなどでも報道されているのだが、赤城はあくまでもそこで暮らしている住人の目線で、淡々と、日常の延長として撮影を続けていく。汚染された土や草などをまとめて包み込んだブルーシートが、公園や道路脇、民家の庭などにも増殖していく光景はたしかに異様だが、それらをエキセントリックに強調しない節度が、赤城の記録作業には貫かれている。そこから導き出されてくる「「正しい」伝達なんて存在しない」という認識は、とても大事なものだと思う。ツイートした写真に対しては、「ダークツーリズムではないか」という批判を含めて、さまざまな反応が返ってきたようだが、写真に写された状況を、あえて判断保留まま提示していくことで、読者がそこから自分なりの見方を育てていく余地を残しているのだ。
ツイッターなどのSNSは、たしかに重要な「伝達」のメディアとして機能しているが、反面、感情的な反発を導き出したり、狭いサークル内で消費されるだけに留まったりして、なかなか広がりを持たない。その意味で、本書のような書籍化の試みはとてもありがたい。粘り強く「足元の僅かな傷跡」を記録し続けるという貴重な行為が、確かな厚みと手触りをともなって伝わってくるからだ。
2015/03/29(日)(飯沢耕太郎)