artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス│2015年08月
蔡國強展:帰去来
横浜美術館で開催される「蔡國強 帰去来」展(2015年7月11日〜10月18日)の公式図録です。本図録は、展覧会に出品される《夜桜》《人生四季:春、夏、秋、冬》《朝顔》の新作3点と、世界のアートファンを魅了した《壁撞き》を含む旧作2点の合計5作を、学芸員による解説付きで紹介するほか、2週間にわたる蔡氏の横浜での滞在制作の様子を収録しました。 また図録の後半には、蔡氏自らの手による自伝「99の物語」を初邦訳し掲載。故郷・泉州での思い出から、無名の作家として日本に移り住み、自らが志す表現と格闘した日々、いわきの人々との交流、そしてNYに拠点を移し世界を代表するアーティストになった現在の心境まで、その人生の軌跡を63の物語から紡いでいます。[出版社サイトより]
シェアの思想/または愛と制度と空間の関係
21世紀のマーケット・トレンド「シェア」。「シェア」の思想によって近代的「愛」「制度」「空間」が変容するとき建築・都市はどのような姿で立ち現れるだろう。[本書帯より]
戦争と平和:〈報道写真〉が伝えたかった日本
戦中・戦後の〈報道写真〉が辿った軌跡を追う。1930年代、日本文化を海外に紹介。その後プロパガンダに変容し、占領期・冷戦期の情報戦に果たした役割まで一望する。戦後70年特別企画。IZU PHOTO MUSEUMで来年1月31日まで開催中の同展のカタログ。今月号のfocusとartscapeレビューに関連記事掲載。
巨大化する現代アートビジネス
リーマン・ショックもなんのその、世界最大の近・現代アートの見本市「アート・バーゼル」の売上規模は4日間で数百億円。ジェフ・クーンズの作品1点に60億円近い値がつくなど、現代アートの落札額は高値を更新しつづけている。バーゼル、ヴェネチア、NY、ロンドン、パリ、ベルリン、マイアミ、上海を総力取材!画商・ギャラリスト、競売人、学芸員、投資家、セレブ、コレクター、ジャーナリスト…アート界を牛耳る「100人」の思惑が入り乱れる“アートの現場”に果敢に斬りこむノンフィクション![出版社サイトより]
箱の設計 自由自在に「箱」を生み出す基本原理と技術
本書は、コピーして使えるテンプレートを提供するだけのパッケージ関連本とは全く異なります。デザイナーが既存のデザインをベースに箱やパッケージを制作するのではなく、それぞれ固有の用件にかなったオリジナルの立体形状を自ら作り出せるように導くものです。「心に留めておいてほしい。この本は“何を”デザインするかは教えない。あなたがデザインしたものを、“どのように作るか”を教えている」─ ポール・ジャクソン[出版社サイトより]
ひらく美術 地域と人間のつながりを取り戻す
世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。新潟県の里山を舞台に、美術による地域再生を目指して、3年に1度開かれている。本書は、その総合ディレクターによる地域文化論である。文化による地域活性化とはどのようなものか。人と人、人と自然、地方と都市が交わるためにはどうすればいいのか。さまざまな現場での実践をもとに、地域再生の切り札を明かす。[出版社サイトより]
ティンカリングをはじめよう――アート、サイエンス、テクノロジーの交差点で作って遊ぶ
「ティンカリング」とは、家財道具を修理してまわった流しの修理屋(ティンカー)を語源に持つ言葉で、さまざまな素材や道具、機械を「いじくりまわす」こと。デザインセンスや問題解決の力を高めることができる手法として近年注目されています。本書は、体験型科学博物館として知られる「エクスプロラトリアム」のメンバーと、そこに集うMakerがティンカリングした22点の作品について、その背景、使われている手法、初心者向けの簡単な作り方を解説した書籍。それぞれの作品は、凧を使った空撮、光で空中に描くアート、塩をたっぷり入れた粘土で作る電子回路、フェルトで作る機械、そして少しブラックなオートマタ、ウェアラブルな電子回路など、自分でも作ってみたい!と思うものばかり。[出版社サイトより]
日本列島「現代アート」を旅する
本書は、日本に数ある現代アート作品の中から、これだけは絶対見ておきたい傑作10点を著者が選び抜いて紹介します。20世紀芸術の申し子、イサム・ノグチの「エナジー・ヴォイド」やアメリカが生んだ抽象絵画の頂点、マーク・ロスコの「シーグラム壁画」から、ゴミを擬態した三島喜美代の驚きのアートまで、様々な種類の現代アート作品を網羅しています。そして、その作品の楽しみ方はもとより、そのアーティストの人となり、作品が生まれた時代背景などまで、詳しくわかりやすく解説しています。[出版社サイトより]
2015/08/15(土)(artscape編集部)
ボストン美術館『In the Wake 震災以後:日本の写真家がとらえた3.11』
発行所:青幻舎
発行日:2015年5月15日
「震災以後」の写真表現については、これまでさまざまな形で紹介され、論じられてきた。当然、日本の美術館においても、展覧会が企画されていい時期にきている。だが、今のところ畠山直哉(東京都写真美術館)や志賀理江子(せんだいメディアテーク)らの単発の企画以外では、畠山直哉と宮下マキが出品した「3・11とアーティスト:進行形の記録」(水戸芸術館現代美術センター、2012年10月13日~12月9日)くらいしか思いつかない。よくありがちなことだが、日本の美術館関係者が足踏みしている間に、アメリカのボストン美術館が「In the Wake 震災以後:日本の写真家がとらえた3.11」展(2015年4月5日~7月12日)を企画し、カタログを刊行した。本書はその日本語版である。
出品作家は新井卓、荒木経惟、川内倫子、川田喜久治、北島敬三、志賀理江子、瀬戸正人、武田慎平、田附勝、畠山直哉、潘逸舟、ホンマタカシ、三好耕三、横田大輔、米田知子の15名。「写真というメディアで作品を制作する日本の芸術家」たちをフィーチャーする展覧会の人選としては、ほぼ過不足のない顔ぶれといえるだろう。震災を間近で撮影し、作品化している者だけではなく、荒木経惟や横田大輔のように、被災地から遠く離れた場所で「変わってしまったであろう私の意識」(横田)を取り込もうとしている作家にまで、よく目配りが利いている。日本の現代写真家たちの仕事が、グローバルなアート・ネットワークの中にしっかりと流通しはじめていることのあらわれといえそうだ。
作家たちの多くは、直接の被害の状況だけではなく、「見えない」放射線の恐怖や被災者のメンタリティをいかに可視化するのかというむずかしい課題に取り組んでいる。そのことも、写真表現の新たな領域を切り開くものとして評価できる。ただ、いかにも美術館の展覧会という枠組みの中に作品がおさまってしまうと、何かが抜け落ちてしまうような気がしないでもない。もし、日本の美術館で同じような展覧会がおこなわれるとしたら、もっと地域性や個人性にこだわった、偏りのあるものになってもいいと思う。バランスのとれた展示は、むしろ震災の体験を均質化してしまうのではないかと思うからだ。
一つ気になったのは「震災以後」という日本語版のタイトルである。「In the Wake」という原題は、「震災の最中」つまり震災がまだ続いているというニュアンスを含むのではないかと思うが、「震災以後」だと既に終わってしまったというふうに受け取られかねない。
2015/08/01(土)(飯沢耕太郎)
太田順一『無常の菅原商店街』
発行所:ブレーンセンター
発行日:2015年8月6日
太田順一の『無常の菅原商店街』は、やや不思議な構成の写真集だ。1995年の阪神大震災の直後に、神戸市長田区の菅原商店街の焼け跡を「カメラを下に向けておがむように」撮影した写真群が前後にあり、それらに挟み込まれるように、故郷の奈良県大和郡山とその周辺地域を2011~14年に撮影した写真がおさめられているのだ。この配置にどんな意図があるのかについては、はっきりと記されていない。「あとがき」に、2007年に刊行した写真集『群集のまち』に書いた「私は戦争による空襲を知らない。だが阪神大震災のとき一面がれきの焼け野原を見た。その目からすれば[中略]洗濯物が広がるこの群衆の街が、今、突然消えたとしても、それはべつだん不思議なことではない」という文章を引用しているだけだ。
菅原商店街の「焼け野原」と、大和の「子どもだったときとは町の様相がすっかり変わってしまっている」やや疎遠な風景を重ね合わせる時に浮かび上がってくるのが、タイトルになっている「無常」という思いなのだろう。「季節はめぐり、ものはみな風景となっていく。私もまた」。初老の時期を迎えつつある日本人なら、誰もが抱くであろう感慨を、太田もまた淡々と受け入れ、気負うことなく撮影の行為に結びつけているように見える。落ち着いた色味で、細部までしっかりと気配りして撮影された大和の眺めを見続けていると、撮ることと考えることとが一体化した太田の営みが、柔らかさを保ちつつも揺るぎない強度に達していることがわかる。いい写真集だと思う。
2015/08/01(土)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2015年07月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
デジタル・アーカイブとは何か──理論と実践
構築から利活用まで、アーカイブに携わる全ての人へ贈る―
増え続けるデジタル・アーカイブ。何を見せればよいのか。どこを探せばよいのか。混迷の中にいる制作者・利用者のために、積み重ねた知恵と実例。Europeanaの起ち上げ、東寺百合文書のWEB公開、電子図書館、そして国立デジタルアーカイブセンター構想……。新たな仕組みは、ここから生まれる。 [出版社サイトより]
本サイトの「アート・アーカイブ探求」や「デジタルアーカイブスタディ」を担当している影山幸一が「第1部:アーカイブからデジタル・アーカイブへ 忘れ得ぬ日本列島 国立デジタルアーカイブセンター創設に向けて」を執筆しています。
NO MUSEUM, NO LIFE? これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会
2015年6月16日〜9月13日まで開催中の同名の展覧会カタログ。美術館に関連する36のキーワードとその解説、それに沿ってキュレーションされた国内の国立美術館の所蔵品214点の図版を掲載。
LIXIL BOOKLET 鉄道遺構 再発見
2015年6月5日から大阪のLIXILギャラリーでスタートした同名の展覧会のカタログ。
人々の暮らしに欠かせない鉄道は喜怒哀楽を運びながら、時代とともに変化してきた。しかしその変化は、廃線という結果ももたらす。橋梁や隧道、線路など、風景に残る近代遺産は時を経て、私たちに何を語りかけるだろう。往時を旅するように鉄道遺構を巡るとき、新たな価値を見出すのでないだろうか。 [本書より]
ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり
自分のほしい暮らしは自分でつくる。自分の手と、自分の頭と、自分のお金を使って、リスクを取るからこそリターンもある。この本があなたにとって、自分の本当にほしい暮らしを手に入れるために、少しでも役に立てば嬉しい。[本書より]
collaboration アート/建築/デザインのコラボレーションの場
岡村製作所は2003年からショールームの一角で、建築家と建築以外の領域のクリエイターのペアによる共同展示を行なっている。伊東豊雄×takram design engineering「風鈴」、妹島和世×荒神明香「透明なかたち」、小嶋一浩+赤松佳珠子×諏訪綾子「PARTY PARTY」、青木淳×松山真也「ぼよよん」、平田晃久×塚田有一「Flow_er」、ヨコミゾマコト×上田麻希「白い闇」、古谷誠章×珠寳「波・紋」の7組による展示の記録と対話集。
戦争画とニッポン
美術評論家椹木野衣氏が、90年代に《戦争画RETURNS》を発表している絵描き会田誠氏とともに、日本の戦争画について21世紀の視点から読み直す対談。太平洋戦争以降から現在までの戦争を主題にした作品図版を多数掲載。昭和17年に発表された陸軍派遣画家による鼎談「南方戦線座談会」も再録。
2015/07/15(水)(artscape編集部)
村上仁一『雲隠れ温泉行』
発行所:roshin books
発行日:2015年6月1日
「雲隠れ」という言葉を辞書で引くと「人が隠れて見えなくなること。行方をくらますこと」とある。失踪、蒸発、遁世、いろいろと言い換えられそうだが、社会的なしがらみから逃れて、どこか見も知らぬ土地を、気の向くままに漂泊してみたいという欲求は、日本人のDNAに刻みつけられているのかもしれない。そしてその欲求にぴったりと応えてくれる場所こそ、地方のひなびた湯治場ということになるのだろう。
村上仁一にも、どうやら20代後半の一時期に「俗世間からの失踪願望」があったようだ。休みを利用して全国各地の温泉をほっつき歩いては「とりとめもなく」写真を撮り続けた。それらは2000年の第16回写真ひとつぼ展でグランプリを受賞し、2007年には第5回ビジュアルアーツフォトアワードを受賞して、写真集『雲隠れ温泉行』(発売=青幻舎)が刊行された。村上はその後、カメラ雑誌の編集者として仕事をするようになるが、「温泉行」のシリーズは撮り続けられ、じわじわと数を増していった。それを再編集してまとめたのが、今回roshin booksから刊行されたニューヴァージョンの『雲隠れ温泉行』である。
白黒のコントラストを強調し、粒子を荒らした画像は、1960年代後半の「アレ・ブレ・ボケ」の時代から受け継がれてきたもので、もはや古典的にすら見える。だが、それが時空を超越したような湯治場の光景にあまりにもぴったりしていることに、あらためて感動を覚えた。村上がここまで徹底して「途方もない憧れの念」を形にしているのを見せられると、単純なアナクロニズムでは片づけられなくなってくる。僕らの世代だけではなく、つげ義春や『プロヴォーク』を知らない世代でも、ざらついた銀粒子に身体的なレベルで反応してしまうのではないかと思えてくるのだ。
2015/06/25(木)(飯沢耕太郎)