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カタログ&ブックス | 2023年12月1日号[テーマ:デジタルテクノロジーの現在から「人間とは?」を逆照射する5冊]

生の感覚そのものが新たな技術によって目まぐるしく更新され続ける現代。それらに触れるためのインターフェースを多領域の作家が提示する金沢21世紀美術館「D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) 」展(2024年3月17日まで)にちなみ、私たち人間の姿を捉え直す契機になる本を選びました。

※本記事の選書は「hontoブックツリー」でもご覧いただけます。
※紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。
協力:金沢21世紀美術館


今月のテーマ:
デジタルテクノロジーの現在から「人間とは?」を逆照射する5冊

1冊目:未来をつくる言葉 ─わかりあえなさをつなぐために─(新潮文庫)

著者:ドミニク・チェン
発行:新潮社
発売日:2022年8月29日
サイズ:16cm、246ページ

Point

情報学研究者である著者が、娘の出産への立ち会いや、その後の生活のふとした瞬間、あるいはデジタルテクノロジーとヒトとの距離を扱った自らの制作など、半生を振り返りつつ綴るエッセイ。「はじまり」と「おわり」に挟まれた生の時間のなかで突き当たる、コミュニケーションやその齟齬について立ち止まって考えたい人に。


2冊目:親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て

著者:草野絵美
発行:CCCメディアハウス
発売日:2022年4月1日
サイズ:19cm、253ページ

Point

デジタル技術とは切っても切り離せない現代の子育て。DXP展の出展作家でありデジタルネイティブ世代の草野絵美は、自らの子供(と、その親である自分自身)とどう向き合い、感覚を日々更新しているのか。あくまで育児書の体裁を取りつつ「ヒトが育つ」ことの普遍性も再認識させてくれる、パワフルな気持ちになる一冊。


3冊目:言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか(中公新書)

著者:今井むつみ、秋田喜美
発行:中央公論新社
発売日:2023年5月24日
サイズ:18cm、277ページ

Point

DXP展でも扱われている大きなテーマのひとつとして、昨今ますます私たちの心をざわつかせている人工知能。それらとヒトとの間にある決定的な差とは何か、そもそもある対象について「知っている」とはどんな状態を指すのか。言葉を使ううえでの「身体感覚」に焦点を当て、言語学の観点から人の営みを照らし出す話題書。



4冊目:身ぶりと言葉(ちくま学芸文庫)

著者:アンドレ・ルロワ=グーラン
翻訳:荒木亨
発行:筑摩書房
発売日:2012年3月29日
サイズ:15cm、680ページ

Point

箸や筆記具、あるいはキーボード──私たちの脳神経と手と指と、その先にある外界を橋渡しする道具(≒インターフェース)の数々と、古来から大きくは変わらない私たちの身体との間にある、絶えず更新され続けてきた関係性の変遷を紐解く一冊。原著の出版は1960年代半ばでありながら、新鮮な驚きをくれるはず。



5冊目:プロトコル・オブ・ヒューマニティ

著者:長谷敏司
発行:早川書房
発売日:2022年10月18日
サイズ:20cm、292ページ

Point

事故で片脚を失ったコンテンポラリーダンサーが、再起をかけてAI制御の義足を身につけることを通しての出来事を描くSF小説。現実世界でもすでに人工知能を用いた芸術作品が数多く生まれている昨今だからこそ、その先に何が起こりうるのか、人間性とは何かという問いが胸に迫ります。リアルなダンスシーンの描写も必見。







D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ─次のインターフェースへ

会期:2023年10月7日(土)~2024年3月17日(日)
会場:金沢21世紀美術館(石川県金沢市広坂1-2-1)
公式サイト:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1810

[展覧会図録]
「D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ─次のインターフェースへ」公式図録

タイトル:デジタル・バイツ アート&テクノロジーの摂り方(仮)/Digital Bites How to eat Art and Technology
編集:長谷川祐子、金沢21世紀美術館
発行:株式会社ビー・エヌ・エヌ
発売日:2024年1月以降(予定)
サイズ:B5判変型、フルカラー、240ページ、バイリンガル(予定)

◎金沢21世紀美術館ミュージアムショップ、全国書店にて販売予定。詳細情報は展覧会ウェブサイトをご参照ください。

2023/12/01(金)(artscape編集部)

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カタログ&ブックス | 2023年11月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます。「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです。



革命と住宅

著者:本田晃子
発行:ゲンロン
発行日:2023年10月1日
サイズ:四六判、348ページ

革命は「家」を否定する──社会主義の理念を実体化すべく生み出された、ソビエト/ロシアの建築の数々。しかしその実態は当初の計画からかけ離れ、狭小で劣悪な住宅環境と、建てられることのない紙上の「亡霊建築」に分離していく。理想と現実に引き裂かれた建築から見える、大国ロシアが抱える矛盾とはなにか。そしてそこで生きる人びとの姿はどのようなものだったのか。







地衣類、ミニマルな抵抗

著者:ヴァンサン・ゾンカ
訳者:宮林寛
発行:みすず書房
発行日:2023年10月10日
サイズ:四六判、392ページ

「地衣類は科学者のみならず、「共生」──ないし「寄生」──について考えるためのさまざまなきっかけを思想家たちに提供してきた。本書はそうした過去の言説にも立脚しつつ、人新世の時代における共生の問題をあらためて俎上に載せた、詩情豊かなエッセイである。」(星野太)





関連レビュー

Vincent Zonca, Lichens. Pour une résistance minimale |星野太:artscapeレビュー(2021年10月15日号)



ユニバーサル・ミュージアムへのいざない──思考と実践のフィールドから

著者:広瀬浩二郎
発行:三元社
発行日:2023年10月20日
サイズ:A5判、184ページ

近年、各地のミュージアムで「さわる鑑賞プログラム」が実施されている。それは、ミュージアムを「目で見る」施設から、「全身の感覚でみる」体験の場に変えていく試みでもある。「ユニバーサル」とは、単なる障害者支援ではない。「健常/障害」という二項対立の垣根を取り払い、「誰もが楽しめる」ユニバーサル・ミュージアムを創ることで、触感豊かな共生社会の未来像を提示できるだろう。







バロック美術──西洋文化の爛熟

著者:宮下規久朗
発行:中央公論新社
発行日:2023年10月23日
サイズ:新書判、336ページ

西洋文化の頂点、バロック様式。17世紀を中心に花開いたバロックの建築・彫刻・絵画は、ルネサンス期の端正で調和のとれた古典主義に対し、豪華絢爛で躍動感あふれる表現を特徴とする。本書は、カラヴァッジョ、ルーベンス、ベルニーニ、ベラスケス、レンブラント、フェルメールらの代表的名作を網羅。美術史上の位置づけ、聖俗の権力がせめぎ合う時代背景など、バロック美術の本質を読み解く。







New Habitations from North to East: 11 years after 3.11

写真:トヤマタクロウ
詩:瀬尾夏美
装丁:米山菜津子
編集:柴原聡子
翻訳:大久保玲奈、サム・ベット
発行:YYY PRESS
発行日:2023年10月28日
サイズ:18.8×26.3cm、312ページ

アーティストで詩人の瀬尾夏美は、東日本大震災以降、岩手県陸前高田市をはじめ、近年増え続ける自然災害の被災地を訪ね、土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら絵を描き文章を書いています。2022年、彼女はこれまで飛び石的に訪れていた被災各地を歩き直した軌跡を一冊の本にまとめることにしました。そして、写真家のトヤマタクロウが、2022年秋から2023年春にかけて岩手県北部から茨城県中部までを点と点を結ぶように辿り、各地の今の風景を収めました。







ここちよい近さがまちを変える──ケアとデジタルによる近接のデザイン

著者:エツィオ・マンズィーニ
監修・訳・解説:安西洋之、山﨑和彦
訳・解説:本條晴一郎、森一貴、澤谷由里子、⼭縣正幸
発行:Xデザイン出版
発行日:2023年11月3日
サイズ:A5判、351ページ

「Livable proximity=ここちよい近さ(近接)」。イタリアのデザイン研究者でありソーシャルイノベーションとサスティナビリティデザインに関する第一人者エツィオ・マンズィーニが著してくれるこの視点は、国のボーダーを超えてこれからの時代の“まち、地域、都市、ケア、コミュニティ、デジタル、経済、デザイン”への見方を変えてゆくと考えてやみません。本書は彼が記した「Livable proximity -- ideas for the city that cares」の翻訳書として、ポストコロナにこそ意味を放つこの視点・考え方・アプローチを我が国に広く伝えることを目的に、日本版オリジナルコンテンツとして当文脈における意義深い日本の事例や解説も追加されています。







沖縄画──8人の美術家による、現代沖縄の美術の諸相

編集:土屋誠一、富澤ケイ愛理子、町田恵美
発行:アートダイバー
発行日:2023年11月6日
サイズ:18.2×25.7cm、79ページ

沖縄という地縁だけを手掛かりに、ユニークな作品を展開する新進気鋭の美術家8名を紹介した展覧会「沖縄画―8人の美術家による、現代沖縄の美術の諸相」。同展の出品作品のほか、土屋誠一らによる「沖縄画」を巡る論考や、「東北画は可能か?」でも知られる三瀬夏之介を招いたシンポジウムを収録した記録集。







小杉武久 音の世界 新しい夏1996

編集:岡本隆子、菅谷幸、村井啓哲
デザイン:佐々木暁
翻訳:桜本有三
協力:芦屋市立美術博物館、山本淳夫(横尾忠則現代美術館)
発行:GALLERY 360°、HEAR/Estate of Takehisa Kosugi
発行日:2023年11月10日
サイズ:B5判、64ページ

今回の書籍は、芦屋市立美術博物館で1996年5月18日~7月7日に開催された「小杉武久 音の世界 新しい夏」展の図録の改訂版として出版されました。A6版 変形だった判型をB5版にし、新たに英文翻訳、図版、注釈を加えました。




[奥付より]



スターハウス 戦後昭和の団地遺産

編著:海老澤模奈人
著者:志岐祐一、川崎直宏、古林眞哉、岡辺重雄
発行:鹿島出版会
発行日:2023年11月10日
サイズ:A5変型判、216ページ

三角形の階段室にY字型平面をもつユニークな星形住宅(スターハウス)。板状住棟が並ぶ団地景観に変化を与え、戦後団地を象徴する建物として、1970年半ばまで日本各地で建設された建築遺産の記録。







フランク・ロイド・ライト──世界を結ぶ建築

監修・著:ケン・タダシ・オオシマ、ジェニファー・グレイ
著者:水上優+田中厚子+田根剛+マシュー・スコンスバーグ
編集:豊田市美術館+パナソニック汐留美術館+青森県立美術館
発行:鹿島出版会
発行日:2023年11月10日
サイズ:B5版、256ページ

帝国ホテル二代目本館100周年記念展覧会「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展公式カタログ。華麗な装飾、自然との調和、独自の存在感を放つ造形、素材と構法の革新、未来的なヴィジョンの数々。近年のF.L.ライトの調査研究の成果を基にした、四半世紀ぶりに日本で開催される待望の展覧会。







モニュメント原論──思想的課題としての彫刻

著者:小田原のどか
発行:青土社
発行日:2023年11月14日
サイズ:A5判、613ページ

彫刻を「思想的課題」と自らに任じ、日本近現代の政治・歴史・教育・芸術そしてジェンダーを再審に付す。問い質されるは、社会の「共同想起」としての彫像。公共空間に立つ為政者の銅像が、なぜ革命・政変時に民衆の手で引き倒される無残な運命に出遭うのか――。画期的かつ根源的な思索の書。







この国(近代日本)の芸術──〈日本美術史〉を脱帝国主義化する

編者:小田原のどか・山本浩貴
発行:月曜社
発行日:2023年11月18日
サイズ:四六判、852ページ

気鋭の作家/キュレーター/研究者22人よる論考とインタビューによって、帝国主義が隠蔽してきた〈芸術〉、そして〈日本美術史〉なるフィクションを解体=再編し、読みかえを迫る出色の論集。







とるにたらない美術──ラッセン、心霊写真、レンダリング・ポルノ

著者:原田裕規
編集:五十嵐健司
デザイン:加瀬透
発行:ケンエレブックス
発行日:2023年11月20日
サイズ:四六判変型、352ページ

誰もが知っているにもかかわらず、「とるにたらない」と決めつけられることによって、誰もが直視してこなかった美術の死角。それを敢えて見つめることによって、盲点の側から「美術」の自画像を浮かび上がらせることができるのではないか──(「はじめに」より)







2023/11/14(火)(artscape編集部)

寺崎珠真『Heliotropic Landscape』

発行所:蒼穹舎

発行日:2023/11/7

寺崎珠真(たまみ)は1991年、神奈川県生まれ。2013年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業し、これまで新宿・大阪ニコンサロン、コニカミノルタプラザ、Alt_Mediumなどで作品を発表してきた。本作が最初の写真集となる。

寺崎が一貫して撮影しているのは、里から山に入ったあたりの雑木林の風景である。特徴的な地形や植生の場所は、あえて避けているように見える。撮影の仕方も、何事かを強調するような主観的な解釈を注意深く回避し、ニュートラルでフラットな描写を心がけている。このような、特定の意味づけを欠いた風景を、緻密に描写していくような写真のあり方は、1980年代くらいから若い写真家たちによって追求され続けてきた。特に東京綜合写真専門学校や武蔵野美術大学などの出身者によく見られる。本年(2023年)5月〜6月にphotographers’ galleryで個展「風景の再来 vol.2 芽吹きの方法」を開催した小山貢弘(東京総合写真専門学校出身)の作品にも似たような傾向を感じた。

彼らの風景写真は、フレーム内に緊密かつ複雑に絡み合った「写真」の構造を完璧に構築していくことを目指している。寺崎の本シリーズでは、それに加えて、「Heliotropic=向日性の」という表題が示すように、かなり強い太陽光によって照らし出され、編み上げられていく光と影の綴れ織りが重要なテーマになっているようだ。その狙いはとてもよく実現しているのだが、そこから先はどこに行き着くのかという課題は残る。この厳密な作業を、「写真」の美学的な達成だけに限定していくのはもったいない気がする。むろん旧来の風景写真、自然写真の枠組みにおさまる必要はないが、ここから、新たな現実認識を導き出す契機を探っていってほしいものだ。

なお、2023年11月7日〜11月20日にニコンサロンで写真展「Heliotropic Landscape」が開催された。


寺崎珠真『Heliotropic Landscape』:http://tatara.sun.bindcloud.jp/sokyusha.com/corner476506/pg4778476.html

2023/11/07(火)(飯沢耕太郎)

下瀬信雄『つきをゆびさす』

発行所:東京印書館

発行日:2023/10/10

1944年、旧満洲国新京生まれ、山口県萩市に写真館を構えながら、広がりと厚みのある仕事を展開してきた下瀬信雄の業績はこれまでも高く評価されてきた。2005年に第30回伊奈信男賞を、2015年には第34回土門拳賞を受賞し、2019年は山口県立美術館で回顧展「天地結界」が開催されている。

だが、80歳近い年齢を重ねながらも、下瀬の創作意欲はまったく衰えていないようだ。萩のシモセスタジオに、高精度のデジタルカメラや小型ドローンによる表現領域の拡張を目指す「高精密デジタル画像センター」を併設したことを期して刊行された本書を見ても、新たな方向に踏み出していこうとする意気込みを強く感じた。

本書は「天地(あめつち)」「産土(うぶすな)」「指月(しげつ)」の三章構成である。第一章の「天地」には萩を取り巻く自然環境をダイナミックかつ細やかに捉えた写真が並ぶ。第二章「産土」には主に萩の人谷の日常、暮らしにカメラを向けたスナップ写真が、第三章「指月」には「月を指し示すのにその指先しか見ないと月を失う」という仏教用語を踏まえて、森羅万象から哲学的ともいえる思考を導き出すような写真が収録された。

画素数1億2百万画素の高精度デジタルカメラを使用し、高精細画像出力プリンターで作画したという写真群には、次の一歩を踏み出していこうという下瀬の強い思いが宿っている。それでいて、個々の写真のあり方は決して堅苦しくなく、のびやかに見る者の心を解きほぐしていくような魅力を感じさせるものになっていた。


下瀬信雄『つきをゆびさす』:https://www.inshokan.co.jp/Tsukio_yubisasu

関連レビュー

下瀬信雄展 天地結界|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2019年07月01日号)

2023/11/07(火)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス | 2023年11月1日号[テーマ:「保存・修復」の視点から、美術館スタッフのニッチな奮闘を覗き見る5冊]

美術館の社会的役割のうち普段注目される機会の少ない、所蔵作品や文化財の「保存」。ダリをはじめ同館所蔵作品の保存・修復のプロセスを見せていく諸橋近代美術館「ミュージアム・ワークス─みんなの知らない美術館」(2023年11月12日まで)の開催に際し、普段見えにくい美術館の仕事の現場のニッチな醍醐味に出会える本たちをご紹介。

※本記事の選書は「hontoブックツリー」でもご覧いただけます。
※紹介した書籍は在庫切れの場合がございますのでご了承ください。
協力:諸橋近代美術館


今月のテーマ:
「保存・修復」の視点から、美術館スタッフのニッチな奮闘を覗き見る5冊

1冊目:文化財と標本の劣化図鑑

編集:岩﨑奈緒子、佐藤崇、中川千種、横山操
協力・監修:京都大学総合博物館
発行:朝倉書店
発売日:2023年10月10日
サイズ:26cm、126ページ

Point

こんな図鑑があったとは。保存方法や環境に細心の注意を払っていても、完全には止めることは難しい「劣化」。京都大学総合博物館の所蔵品から劣化の進んだものの特徴を分類し、その状態をじっくり観察できるだけでなく、プロはそこにどう対応し食い止めるのか、その悪戦苦闘も含め知ることができるユニークな一冊です。


2冊目:国宝 普賢菩薩像 令和の大修理全記録

監修:東京国立博物館
発行:東京美術
発売日:2023年4月18日
サイズ:26cm、135ページ

Point

東京国立博物館の所蔵品を代表する国宝「普賢菩薩像」が、2019年からつい最近まで3年間に及ぶ修復を施されていたことはあまり知られていません。最新技術を用いた作業前の調査と分析や、修理方針の変更、そしてまさかのコロナ禍の到来──1作品だけにフォーカスし、蟻の目で見届けるその修復過程はまさにドラマです。


3冊目:学芸員の観察日記 ミュージアムのうらがわ

著者:滝登くらげ
発行:文学通信
発売日:2023年2月27日
サイズ:21cm、175ページ

Point

ある博物館での学芸員やスタッフたちの日常を4コマで描くお仕事マンガ。保存・修復に焦点を当てた第4章「まもって、のこす」をはじめ、ほのぼのとしたタッチとは裏腹に、著者の実際の体験が凝縮されているであろう「職業病」的な描写の連続に心くすぐられます。読後に美術館を訪れる際には新たな視点が加わっているはず。



4冊目:あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻

著者:近藤恵介、冨井大裕
発行:HeHe
発売日:2023年3月20日
サイズ:21cm、85ページ

Point

現代の作品も、歴史的作品と同じくもちろん美術館の保存・修復の対象。現代を生きる作家たちは、自作の劣化や損傷に対してリアルタイムでどう感じ、何をするのか。2019年の東日本台風で被災した近藤恵介と冨井大裕の共作シリーズの修復と、それを踏まえた新たな制作、再展示までの過程と心境を綴ったドキュメント。



5冊目:カビの取扱説明書

著者:浜田信夫
発行:KADOKAWA
発売日:2022年5月24日
サイズ:15cm、269ページ

Point

文化財のみならず日常の至るところに偏在し、気を抜くと発生しているカビ。食の世界ではポジティブな存在にも反転したりと、私たちは彼らと共生していると言っても過言ではないものの、その具体的な習性や種類まで考える機会は少ないはず。その文化的背景から対応策まで、カビたちに少しだけ親近感が湧いてしまう一冊。







ミュージアム・ワークス─みんなの知らない美術館

会期:2023年7月15日(土)~11月12日(日)
会場:諸橋近代美術館(福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093-23)
公式サイト:https://dali.jp/exhibition

2023/11/01(水)(artscape編集部)

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