artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

中見真理『柳宗悦──「複合の美」の思想』

発行日:2013年7月20日
発行所:岩波書店
価格:800円(税別)
サイズ:新書判、221ページ

民藝運動の創始者として広く知られる柳宗悦(1889-1961)の諸活動を、「民藝から解き放つ」ことを目的に書かれた書。国際関係文化史を専門とする著者は、「平和思想家」としての柳の像に照明を当てる。そして、柳の多方面にわたる活動(宗教哲学/沖縄・東北・アイヌの地方文化に対する積極的な評価・コミットメント/朝鮮に対する植民地支配を批判など)を貫く思想を「複合の美」に見る。そのキーワードは、「野に咲く多くの異なる花は野の美を傷めるであろうか。互いは互いを助けて世界を単調から複合の美に彩るのである」という彼の言葉から引用されている。当時の社会が有した諸問題に相対して実践的な行動を起こした柳の思想から、現代の私たちはなにを読み取るべきなのか。本書はそのような問題意識のもとに、国際平和や理想的社会の実現という観点から、柳宗悦の独自の思想の形成を追究する。彼の包括的な全体像を、民藝運動のみにとらわれずに示そうとする、新しい視点の書である。[竹内有子]

2013/11/16(土)(SYNK)

五線譜に描いた夢──日本近代音楽の150年

会期:2013/10/11~2013/12/23

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

明治維新以降、日本は欧米に肩を並べる近代国家であることを示すために、さまざまな分野に欧米の制度を移入しはじめた。欧化の波は軍隊、法律や社会制度、経済などのシステムにとどまらず、頭髪や服装★1、煉瓦造りの洋風建築の導入などによって可視化されていった。絵画においては技法としての油画が導入されたばかりではなく、対象物を見る視線も大きく変化し、その変化は旧来からの日本絵画の世界にも影響を与え、新しい表現を生み出していった。音楽の分野においても同様に西洋の楽器や楽曲が導入され、それはやがて日本独自の「西洋音楽」を生み出してゆくことになる。この展覧会は、このような日本における西洋音楽の受容と展開の足跡をたどる企画である。
 展示の中心は、明治学院大学図書館付属日本近代音楽館の所蔵資料である。日本近代音楽館は、音楽評論家の遠山一行氏(1922- )が1962年に設立した旧遠山音楽財団の付属図書館を前身として、1987年に開館した私立の図書館であった。蒐集されたのは、クラシック音楽を中心に、作曲家の自筆譜、書簡や原稿、音楽に関連する図書や雑誌類、プログラム、レコードなどの録音資料である。遠山氏の高齢もあり2010年に所蔵資料50万点が明治学院に寄贈され、2011年から新たに明治学院大学図書館付属日本近代音楽館として開館し、資料の蒐集・整理・公開が行なわれている。
 展示は時代別に四つのセクションに別れている。第一は幕末から明治。日本に来航した外国軍隊の軍楽やキリスト教宣教師がもたらした賛美歌は、幕末から明治初期の人々に西洋音楽との接触をもたらした。ヘボン式ローマ字で知られるアメリカ長老派教会の宣教医J・C・ヘボンが1863年に横浜に開設した塾では英語教育が行なわれるとともに賛美歌が歌われ、また日本の初期賛美歌編纂の拠点にもなっていたという★2。明治政府は近代的な軍制度の整備に着手したが、そのなかで欧米に倣って軍楽隊も設置された。また宮廷の祭事にも西洋音楽が取り入れられたがその演奏を担ったのは雅楽の伶人たちであった。さらに西洋音楽は学校教育にも取り入れられ、オルガンやピアノなどの楽器を国産する試みも行なわれはじめた。西洋音楽が愉しまれた場としての鹿鳴館の存在も忘れることはできない。
 第二は大正モダニズムの時代。西洋音楽の受容は、片や芸術へ、片や娯楽へと多様な拡がりを見せる。芸術としての西洋音楽としてここで特に焦点を当てられているのは山田耕筰(1886-1965)である。日本近代音楽館は1967年から山田耕筰資料の寄贈を受けており、ほぼすべての曲の自筆譜があるという。教育の点では童謡運動が挙げられている。また娯楽としての音楽の筆頭には浅草オペラの隆盛があり、西洋音楽は日本の文化と混じり合い、独自の展開をはじめていったことが指摘される。
 第三は戦前期の昭和である。ラジオやレコードの登場と普及は、熱心なクラシックファンを生んだ。オーケストラとその聴衆が誕生するのもこの時代である。他方で戦争が近づくと音楽も戦意高揚の手段に組み込まれてゆく。
 そして最後は戦後の音楽である。ここでは実験工房の試みなどに見られる現代音楽への道筋と、戦後各地に誕生したオーケストラの活動が紹介される。
 東京オペラシティアートギャラリーの空間で「音楽の歴史」をどのように見せるのか。おそらくその展示構成には相当な工夫がなされたと思う。展示資料の大部分は作曲家の自筆楽譜、書籍雑誌、プログラムなどである。それに加えて初期の西洋楽器やレコード、佐藤慶次郎の振動するオブジェなどがあるが、立体的な資料は一部である。ともすると平板な構成になりかねない会場であるが、平面的な資料が収められた展示台を壁面に沿わせるのではなく展示室に斜めに配するなど、空間や動線に工夫がなされている。また、研究者へのインタビュー映像や再現演奏のビデオは、クオリティが高く内容も充実している。古い音源も各所に多数用意され、ヘッドホンで聴くことができる。すべての映像と音源を視聴すると4時間かかるとのことで、展示品の鑑賞も含めると半日では見終えることができないヴォリュームである。会期中8回にわたるミニコンサートが企画されているのも、音楽の展覧会ならではである。そして、そのままでは散逸しかねなかった日本の西洋音楽の貴重な史料を蒐集・整理・保存してきた遠山一行氏の仕事と、それを継承することになった明治学院にはなによりも敬意を表したい。[新川徳彦]

★1──文化学園服飾博物館で開催されている「明治・大正・昭和戦前期の宮廷服──洋装と装束」展では、皇室や宮廷行事における衣裳の西洋化の諸相を見ることができる(文化学園服飾博物館、2013/10/23~12/21)。
★2──明治学院はヘボン塾が起源であり、塾が開設された1863年を創立年として今年創立150周年を迎えている。本展覧会はその記念事業のひとつでもある。なお横浜開港資料館ではやはり記念事業の一環としてJ・C・ヘボンに焦点をあてた「宣教医ヘボン──ローマ字・和英辞書・翻訳聖書のパイオニア」展が開催されている(横浜開港資料館、2013/10/18~12/27)。

2013/11/13(水)(SYNK)

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大宮エリー展──7年のOL時代と、7年間の今、

会期:2013/11/05~2013/12/20

dddギャラリー[大阪府]

小さな展示スペースは絵画や写真、インスタレーション作品に、映像作品の写真パネルですっかり埋めつくされていた。映画監督、CMやPVディレクター、演出家、脚本家、作家として活躍する大宮エリー(1975- )の展覧会のことだ。どこをどう見れば大宮という作家や作品のことがわかるのか戸惑いもあったが、これも、またこれも彼女の作品なんだという新しい発見のほうが大きく、楽しい時間だった。大宮は広告代理店勤務を経て独立し、映画『海でのはなし。』で監督デビューをして以来、さまざまな分野で活躍している、いわゆるマルチクリエイター。「仕事の依頼があるたびに、どうして私に、と、びくびくしながらも嬉しくなって勇気をだして引き受けていたら、こんなに色々な仕事にトライする人になってしまいました。(…中略…)(仕事の)共通点は何か。個人的な感情を掘り下げるということ。幸せはなんなのか、ということ。観た人がハッピーになるかどうかということ」だと大宮はいう。本展企画者の言う通り、彼女の仕事は「コミュニケーションの形をつくる」という意味で広義のデザインであると言えるかもしれない。[金相美]


展示風景

2013/11/08(金)(SYNK)

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戦国アバンギャルドとその昇華──変わり兜×刀装具

会期:2013/11/02~2013/12/08

大阪歴史博物館[大阪府]

兜や刀、刀装具など約250点を紹介する展覧会。展示品は時代別に陳列されているが、時代を追ってその特徴を紹介するというより、タイトル通り変わった形(意匠、デザイン)のものを集めたユニークな企画だ。大きな角や羽などを飾った兜や、鉢自体を何かの形に作り込んだ兜など、着用する人を大きく見せたり、強く見せたりするための工夫が見て取れる。今日の私たちの感覚からするとその想像力や奇抜さに驚くばかりだ。一方、江戸時代になると戦のためではなく、工芸品として、時には所有者の社会的地位を表わすべく、技術や贅を尽くしたものが登場するが、これもまた見ていて楽しい。兜や刀の歴史的な意義や流れを探るだけではなく、デザインやアートとして楽しんでみるのもいいと思った。[金相美]


同展チラシより

2013/11/04(月)(SYNK)

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神戸ビエンナーレ2013「横尾忠則 感応する風景」展/横尾忠則 肖像図鑑

兵庫県立美術館(2013/10/01~12/01)/横尾忠則現代美術館(2013/09/28~2014/01/05)[兵庫県]

前回の神戸ビエンナーレでは、兵庫県立美術館が同時期に開催した榎忠展が圧倒的なインパクトだった。今回はここと、新設された横尾忠則現代美術館が、同時に横尾展を行なう。前者は風景画、後者は人物画をテーマとする。Y字路シリーズは、時空間がねじれた感じで、建築畑には興味深い。また兵庫県立美術館の「2013年度コレクション展2」は地味だし、公式ガイドブックでも触れられていないが、関西のアート界を45年間支えた大阪の信濃橋画廊に焦点をあてた好企画である。地域の歴史を振り返り、ギャラリーの変遷と大きさもわかるようにしており、素晴らしい。

2013/11/03(日)(五十嵐太郎)

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