artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
福井利佐「LIFE-SIZED」
会期:2013/08/09~2013/09/08
ポーラ ミュージアム アネックス[東京都]
確かにその手法は切り絵なのだが、見知った切り絵のどれとも違う独自の世界を創り出してきた福井利佐。ポーラミュージアム・アネックスでの展覧会では、また新たな世界を見せている。二次元の切り絵でありながらも三次元的に造作を表現する福井の切り絵が、濃色ではなく白い紙を素材として、そして壁面ではなく透明なアクリル板を支持体として天井からワイヤーで吊され、暗い展示室に浮かび上がっている。人物や犬の顔といったモチーフは、技法的にはこれまでにも見た福井の切り絵であるが、白い紙を用いるとこうも印象が異なったものになるものなのか。作品の間を抜けて奥へと進み、振り返るとさらに驚かされる。白い紙の裏側はやや鈍い赤や青、緑や黄色で着彩されており、入ってきたときに見たものとはまったく異なる作品を見ているかのような印象を与えるのである。これらの作品のスケール感と空間構成は、印刷された作品集ではけっして体感できない。作品も演出もすばらしい展覧会である。[新川徳彦]
2013/08/17(土)(SYNK)
おみやげと鉄道
会期:2013/08/06~2013/11/24
旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」[東京都]
2001年に大英博物館で「現代日本のおみやげ(Souvenirs in Contemporary Japan)」(2001年6月14日~2002年1月13日)という小展示が開催された。「おみやげと鉄道」展は、この展覧会を見て関心を持った企画者(鈴木勇一郎・立教大学立教学院史資料センター学術調査員)が進めてきた研究の成果だそうだ。大英博物館での展覧会リーフレットによれば、西洋での日本人観光客のイメージは、パッケージツアーの利用と、多くの高額なお土産品の購入にあるという。こうした日本人観光客の行動は、海外旅行が一般的になる以前から、あるいはいまでも国内旅行において見られる現象である。家族や親戚、近所の人々、あるいは会社の上司や同僚にちょっとしたお土産を渡すことは、日常的に行なわれている。それではいったいどのような商品がお土産品として選ばれてきたのか。本展では、それを鉄道網の発展と関連させて見せる。
旅行者向けの地方の名物やお土産物の種類は時代とともに変遷してきた。旧街道の名物が鉄道の開通によって衰退した例や、鉄道の開通によって発展した名物が、鉄道ルートの変化によって衰退した例もある。保存性の点からかつて食品類は現地で消費されるものであったが、輸送スピードの革新はそれをお土産品へと変えていった。駅弁など鉄道駅構内での営業許可によって登場した新たな名物やお土産品もある。お菓子がお土産品として一般化するのは、日清・日露戦争前後。菓子税の廃止と台湾領有による製糖業の振興がその背景にあるという。展覧会ではこうした制度的な変化の影響のほか、お伊勢参りや博覧会が名物やお土産に与えた影響を探っている。
交通網の発達は、すなわち流通網の発展をもたらす。地方の名物は物理的にはどこにいても入手可能になり、またその原材料もどこからでも調達可能になっている。本展でも指摘されているように、商品と地域との結びつきは希薄化している。現在ではお土産品の素性をたどっていくと、必ずしもその地域でつくられていなかったり、その地域の素材が用いられていない例はたくさんある。大手メーカーが手がけるご当地商品はその代表的な例であろう。それでも観光客はお土産を買うし、その際にはなんらかの地域色を求める。社会やシステムの変化の速度に比べて、お土産を求める日本人の心性はさほど変化していないように思われる。そこにお土産品の供給者はどのように応えているのか。商品開発という点でもパッケージデザインの点でも注目されている分野であり、さらに掘り下げてみたいテーマである。[新川徳彦]
2013/08/16(金)(SYNK)
Will Eisner: Father of the Graphic Novel(ウィル・アイズナー──グラフィック・ノベルの父)
会期:2013/07/27~2013/11/10
カートゥーン・アート・ミュージアム[サンフランシスコ]
ウィル・アイズナー(Will Eisner, 1917-2005)は米国・ニューヨーク市生まれの漫画家。私たちには馴染のない名前だが、アメリカ・コミック史においてはもっとも重要な人物の一人として考えられている。サンフランシスコ市内にあるカートゥーン・アート・ミュージアムで彼の回顧展が行なわれていたので、訪ねてみた。サブタイトルにある「グラフィック・ノベル(Graphic Novel)」とは、複雑なストーリーの、大人向けのアメリカン・コミックを指すようだが、少々曖昧な定義で、ほかのコミックや漫画との違いはつかみ難いところもある。ただ、「グラフィック・ノベル」というジャンルは、ウィル・アイズナーが設立したスタジオと作品シリーズによって確立されたというのが定説。「グラフィック・ノベルの父」というサブタイトルとおりだ。展示はアイズナーの代表作の原画をいくつか紹介するもので、思ったより小規模だった。彼の作品は鋭いペンのタッチと、ブラックユーモア、ときには哀愁溢れるストーリーが絶妙に相まってアメリカ社会、ひいては現代社会を鋭く風刺していた。時が経ても、国が変わっても人間の日常や悩みは変わらない気がした。[金相美]
2013/08/13(火)(SYNK)
ミュシャ──くらしを彩るアール・ヌーヴォー
会期:2013/07/13~2013/09/01
大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)[大阪府]
19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリで活躍した、アルフォンス・ミュシャの作品を通して、都市生活におけるアール・ヌーヴォーの拡がりについて紹介する展覧会。ポスター等のグラフィック作品だけでなく、彼のパッケージデザインによる菓子の缶や、ポストカード・切手・紙幣・絵皿などの日用品が展示されている。さらに、当時流通した立体物の例(机、ファブリック製品・金属製品等)も見ることができる。エミール・ガレによる木製小椅子から、日本の建築家/武田五一による木製花台・安楽椅子・花瓶まで、日本におけるアール・ヌーヴォーの作例まで展観される。パリ時代のミュシャの製作基盤は、大量に消費される品々にある。本展を通して、大衆の生活に寄り添うデザインを見るならば、ベル・エポックの時代にアール・ヌーヴォー芸術が暮らしのなかに浸透していった様子を、いきいきと読み返すことができるだろう。[竹内有子]
2013/08/12(月)(SYNK)
柏木博+松葉一清『デザイン/近代建築史──1851年から現代まで』
発行所:鹿島出版会
発行日:2013年3月
「デザイン史」と「建築史」というふたつの領域を関連付けて解説した新しい試みの一冊。各章にそれぞれの「時代概要」が年表付きでまとめられた後、「デザイン編」と「建築編」の二領域の編年体の歴史が綴られる。1850年代から現在まで、ほぼ20年毎に区切った章立てとなっており、著者たちが設定したテーマとトピックは既存のデザイン史概論書とは異なる切り口を採用している。前書きにあるように、「デザイン史は社会思想史」を、「建築史は都市構築と都市文化の動向」を踏まえて書かれているからだ。例えば、1960年代から現代までを扱う第6章は、「モダンデザインの変質と脱近代」と題された時代概要をはじめとして、デザイン編では「異議申し立てを超えて」、建築編では、「建築本来の価値体系への回帰を目指すポスト・モダン」というように、「近代への問い」へと踏み込んだ内容となっている。掲載図版が大きく視覚資料が充実しているし、学習用の配慮がさまざまになされている。芸術史を学ぶ者にとって、新たな教本・副読本として活躍しそうだ。[竹内有子]
2013/08/10(土)(SYNK)