artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
シャルロット・ペリアンと日本
会期:2011/10/22~2012/01/09
神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
内容はすでに知っていることが多かったが、サカ(=坂倉準三)と仲がよかったペリアンの展覧会をここ(=彼の設計した神奈川県立近代美術館)で開催できたのはよかった。改めて、家具とインテリアという彼女の立場は、男性中心主義的になりがちな建築界においてとてもうまく機能していたことがわかる。もっとも、日本との関係に焦点をあてたフレームの展覧会なので、『シャルロット・ペリアン自伝』(みすず書房)に描かれたような、彼女の20世紀の世界史と重なるダイナミックな生涯はちょっとわかりにくい。
2012/01/04(水)(五十嵐太郎)
You Make The Rule 再描写を試みる家 展 PeclersParis × 谷尻誠
会期:2011/12/15~2012/01/31
リビングデザインセンターOZONE 3F OZONEプラザ[東京都]
2階建て以上のヴォリュームの巨大発泡スチロールをくり抜き、部屋をつくる。根源的な空間への欲求を表現すると同時に、どこかの地中海の集落を連想させるような風景が吹抜けに生まれ、楽しい展示なのだが、しつこいまでの「撮影禁止」の表示が残念。この楽しい空間をみなが撮影し、それぞれネットにアップすれば、もっと人が来るだろうに。
2011/12/25(日)(五十嵐太郎)
感じる服考える服:東京ファッションの現在形
会期:2011/10/18~2011/12/25
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
目的はファッションというよりも、中村竜治による会場構成である。ちょうど目の高さだけに梁が縦横にとび、空間を仕切る思い切ったデザインだ。多くの出品者のエリアを分けつつ、連続性も確保し、さらにほかの来場者の顔の部分だけを隠すために、その人たちのファッションだけが強調される。室内において不思議な高さに水平面を設定する方法は、2010年に開催された代官山のLLOVEプロジェクトにおける中村竜治のデザインも想起させるだろう。おそらく頭をぶつけるから、監視員はみなヘルメットを脇に置いているし、梁も下部が養生されている。また腰が痛い人にとっては、にじり口ではないが、いちいち身をかがめさせられる地獄のような展示で、問題がないわけではない。しかし、この方法は支持したい。
2011/12/25(日)(五十嵐太郎)
杉浦康平・脈動する本──デザインの手法と哲学
会期:2011/10/21~2011/12/17
武蔵野美術大学 美術館[東京都]
武蔵野美術大学美術館は、2008年から3年をかけてデザイナー杉浦康平から全作品の寄贈を受けた。この展覧会では寄贈品のなかからブックデザインの仕事を中心に約1,000点を紹介する。会場では、本に見立てたであろう厚みのある解説パネルを中心に、デザイン手法の変遷ごとに杉浦の半世紀にわたる仕事が展示されている。膨大な展示品のなかに、杉浦の仕事とは知らずに手にとったことがある本が多数あることに気づかされる。書店の棚で私たちに訴えてくる文字と図像。装幀の仕事は一見地味であるが、その印象は人々の心に刻み込まれている。展示会場の構成にも杉浦自身が関わっている。杉浦のブックデザイン同様、そこには全体としてのパターン、秩序があるにもかかわらず、個々はそのなかに埋もれない。展示の島は一つひとつが独自で、それぞれが心に刺さる棘を持つ。
展示された作品の数々にも圧倒されるが、図録もまた圧巻である。収録されている小さな図版をルーペで覗くと、一文字一文字を読むことができるのだ! 緻密に計算された杉浦デザインの構造を明らかにする鈴木一誌氏の分析、杉浦康平の仕事の進め方についてついて記した松岡正剛氏の証言も興味深い。松岡氏を含め、編集者たちは新しい本を創りだしてくれることを期待して杉浦に仕事を依頼するのだが、その一方で杉浦がどのような大胆な提案を行なうか恐怖していたという。時間、コスト、複雑な印刷指定や造本技術、編集者の作業負担……。そうした無数の障壁、編集者にとっての恐怖を乗り越えたところに、誰も見たことのないデザインが生まれるのである。
同時期にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「杉浦康平・マンダラ発光」展(2011/12/01~12/24)は、映像と音響によって体験する杉浦デザインの世界。これもまた異色のデザイン展であった。[新川徳彦]
2011/12/17(土)(SYNK)
ウィーン工房1903-1932─モダニズムの装飾的精神
会期:2011/10/08~2011/12/20
パナソニック電工 汐留ミュージアム[東京都]
近代とはいえ、ホフマンらが志向したものは、必ずしも純粋に抽象的な建築の空間ではないことがわかる。サブタイトルに「モダニズムの装飾的精神」と掲げているように、さまざまにデザインされた具体的な家具、照明、食器、文具、装飾、衣服に囲まれた艶のある場だった。その直後は前近代の名残とされたのかもしれない。だが、今から見ると、この時代だからこそ手がけることができた装飾は、かけがえのないものとして輝いている。
2011/12/16(金)(五十嵐太郎)