artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
谷尻誠 展覧会「Relation」
会期:2011/10/25~2011/11/13
ビームスジャパン B GALLERY[東京都]
建築を浮かせたら、ということで、そのイメージによるインスタレーションの作品。一般の人にもわかりやすい、空中都市の模型である。部屋に入り、おお、どうやって浮かんでいるのかなあと見ていると、中央の微小なたわみと、小さな支持体が目にとまり、逆説的に重力の強さを感じる展示でもあった。
2011/11/11(金)(五十嵐太郎)
DOMA秋岡芳夫展─モノへの思想と関係のデザイン
会期:2011/010/29~2011/12/25
目黒区美術館[東京都]
デザイナー秋岡芳夫(1920~97)のデザイン活動を振りかえる展覧会。目黒区美術館は2009年から秋岡家に残された資料の調査を行なっており、今回の展覧会はその成果である。展覧会では秋岡の仕事を年代順に紹介する。童画家、工業デザイナー、生活デザイナー、木工家、プロデューサー、道具蒐集家など、多彩な活動を行なった秋岡であるが、それらを平行して行なっていたというよりは、年代によって活動の内容が変化しているようだ。この変化は彼の関心の変化ではなく、活動の背景にある思想は一貫しており、それを実体化させるための手段を模索してのことと考えられる。戦後すぐには童画やおもちゃを手掛け、1950年代からは工業デザインの仕事に携わる。1953年からは金子至、河潤之介とともに工業デザイングループKAKを立ち上げてカメラや露出計などのデザインを行なう。60年代には学習研究社の雑誌『科学』の実験教材や学習ドリルを手掛けている。1969年にKAKを離れ、70年代からはものづくりそのものよりも思想、提言活動に傾斜し、地方の工芸におけるコミュニティ生産方式の実践を行なう。また手仕事と密接に関わってきた伝統的な道具の蒐集にも力を入れた。秋岡が蒐集した道具は北海道・置戸町に寄贈され、今回の展覧会にも一部が出品されている。会場1階には秋岡の仕事場が再現されているほか、晩年に制作に熱中したという竹とんぼ2,000点が展示されている。
1970年代に入ってからの秋岡の変化は、著書『割りばしから車(カー)まで』(柏樹出版社、1971)の副題「消費者をやめて愛用者になろう!」、あるいは自身に冠した肩書き「立ちどまった工業デザイナー」に象徴されよう。企業側の一方的な都合、コストや素材による制約で決まるお仕着せのデザインをただ消費するのではなく、自らが欲するものを考え、可能ならば自ら生産し、それができないならば職人の手を借りてつくり、それを長く愛用しようと訴える。デザイナーは、大量生産・大量消費に与するデザインを止める。他方で良いデザインが価値を認められて売れるためには、良いデザインを知る消費者を育てる必要があると秋岡は考え、啓蒙活動を行なったのである。その秋岡のいう良いデザインとは、「関係のデザイン」であろう。『デザインとは何か』(講談社現代新書、1974)においても繰り返されているのは、ヤカンと魔法瓶の関係である。それぞれが別々のメーカーによってデザイン・製造されているために、互いの容量がまちまちであり、湯を沸かすための燃料が無駄になっていることを秋岡は指摘する。これは一例に過ぎないが、互いに影響を与え合い、相互に機能を補完して生活を成立させるはずのモノが、その関係性を無視してデザインされ、結果として使い勝手が悪くなったり、無駄を生じさせている現実を秋岡は憂う。テレビの裏面やエアコン室外機の醜悪さを指摘し、「裏側にもデザインを」と提言する。一手間を掛ける余地を残した半加工食品や組み立て式の家具を讃える。「関係のデザイン」は製品の価格や売り方にまで及ぶ。漆の碗は高いものでも安いものでも耐久年数を考慮すると1日当たりの「使用料」は同じであり、ならば高くても使って気持ちのよいものを求めよと説く。使い方を見せる展示方法の提案は売り方のデザインである。いま私たちの周囲を見渡してみると、生活とデザイン、作り手と使い手の関係に対する秋岡のさまざまな提言が着実に実現されてきたことを感じる。
山下三郎(東北工業大学名誉教授)、山中俊治(インダストリアルデザイナー、慶應義塾大学教授)、向井周太郎(武蔵野美術大学名誉教授)ら、秋岡芳夫と関わりのある人々が寄稿している図録も充実している。また、展覧会に合わせて『割りばしから車(カー)まで』『竹とんぼからの発想──手が考えて作る』が復刊ドットコムによって再版された。図録を読み、著書を紐解き、秋岡の言葉を噛みしめながら再び訪れたい展覧会である。[新川徳彦]
2011/11/09(水)(SYNK)
POST 3.11 これからデザインにできること展
会期:2011/10/26~2011/11/06
AXISギャラリー[東京都]
建築、プロダクト、教育など、タイトル通りの内容だが、あいにく会場におけるトークの最中で、半分くらいの展示はちゃんと見ることができなかった。そのせいもあるかもしれないが、多くの事例からなぜこれらを選んだのかというキュレーションの意図が読みにくい。もっとも、阪神淡路大震災の後、建築やアートがどのような対応をしたかについての、詳細かつ長期的なクロニクルのデータ展示は興味深いものだった。東日本大震災についても、こうした観測が必要だろう。
2011/11/05(土)(五十嵐太郎)
森永のお菓子箱──エンゼルからの贈り物
会期:2011/011/03~2012/01/09
たばこと塩の博物館4階特別展示室[東京都]
商品パッケージを中心に、広告、ポスター、CMなどの企業史料を通じて森永のお菓子づくりの歴史をたどる展覧会。1899年に創業した森永製菓は、1954(昭和29)年に『森永五十五年史』を刊行していおり、その編纂の折に収集された社内資料を保存管理する史料展示室を1955年に開設している。以来、製品パッケージ、パンフレット、販促物、社内報など、企業文化を伝えるさまざまな史料の収集、保存、アーカイブ化を進めているという。1999年には『森永製菓100年史』を刊行し、また自社のウェブサイト「森永ミュージアム」においても、史料の一部を公開している。ただし、史料展示室は外部には公開されておらず、史料の実物が一般の人々の目に触れる機会は少ない。もちろん、このような状況は森永製菓に限られたことではなく、私たちの生活文化を創り上げてきた多くの企業の史料が、たとえ収集、保存されていたとしても、人々の目に触れないままになっている。今回の企画は、企業博物館のひとつである「たばこと塩の博物館」が森永製菓と共同し、モノを通じて企業の文化と歴史を振りかえる優れた試みである。
展示は、森永製菓のあゆみ、ビスケットやチョコレート、キャラメルなどの代表的な商品の移り変わり、戦後のさまざまなお菓子と、ポスターやCMから構成されている。森永製菓の企業と商品の歴史については先に挙げた二つの社史が充実しており、また創業者・森永太一郎と松崎半三郎については伝記も刊行されており、「歴史をたどる」という意味では展示にはややもの足りないものを感じる。しかしそれでも実物を見る意義は大きい。写真で見るポスターやパッケージでは、スケール感や質感が十分に伝わらないからだ。歴代のおもちゃのかんづめの展示や、TVCMの上映もあり、年代を問わず楽しめる展覧会に仕上がっている点もよい。図録巻末の「森永製菓の企業史料保存と公開──史料室今昔」には森永製菓における企業史料保存管理の取り組みが記されており、これも一読されたい。[新川徳彦]
2011/11/04(金)(SYNK)
せんだいスクール・オブ・デザイン 2011年度秋学期開講式記念講演(名和晃平)
会期:2011/11/03
開講式の名和晃平によるレクチャーでは、男性作家として最年少での個展となる東京都現代美術館の展示と、京都のSANDWICHにおけるクリエイターの横断的な制作活動のプラットフォームが紹介された。前者の報告からは、彼が情報化の時代における先端的な造形を探索していることがよくわかる。また名和は学生時代から後者の活動につながるイベントを企画していたという。しかし、人から恵まれた環境をあらかじめ与えられるのではなく、自発的だからこそ、個性的かつ創造的な場を生むパワーに改めて感心させられた。
2011/11/03(木)(五十嵐太郎)