artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

種子のデザイン──旅するかたち

会期:2011/12/01~2012/02/25

INAXギャラリー[東京都]

羽根や綿毛を利用して風に乗って運ばれる種子。水に流されて旅をしつつ、目的地では錨を降ろして根を張る種子。食べられたり、貯えられたり、ひっついたり、他の生物の習性を利用して移動する種子。自らは動くことができない植物が子孫を広範囲に確実に残していくためのさまざまな工夫は、最適な形となって現われる。本来ならば博物館で開催されるような内容であるが、機能と形との関係に着目することで優れた「デザイン」の実例を見せてくれる展覧会である。人間のつくりだすデザインと、自然のつくりだすデザインとの違いは、自然のデザインはとても合理的であるものの、目的の達成という点ではけっして歩留まりが良いわけではないという点があげられようか。適切な場を得ることができず発芽できないもの。外皮ばかりではなく種子まで動物に食べられ消化されてしまうもの、等々。多くの植物において、発芽し、根を張り、成長し、再び子孫を残すことができる種子の比率はとても少ない。もちろん、その歩留まりの悪さも全体的なシステムのなかに織り込まれているからこそ、長い歳月を生き延びてきたのである。人間のつくるデザインは自然からさまざまなメタファーを取り入れてきたが、はたしてこのようなシステムをも取り入れることは可能であろうか。[新川徳彦]

2012/01/24(火)(SYNK)

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JAGDAやさしいハンカチ展 Part 2

会期:2013/01/15~2013/02/17

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

東日本大震災の復興支援のためのプロジェクトである。デザイナーたちが東北の小学校でワークショップを行ない、232名の子どもたちが絵を描いた。この絵を素材に、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)の会員385名がハンカチをデザインする。デザインされたハンカチは絵を描いた子どもたちに贈られるとともに、全国を巡回する展覧会会場で1枚1,200円で販売され、販売収益もそれぞれの小学校に還元されるという。子どもたちの描いた絵も楽しいが、それがデザイナーたちによってどのように「料理」されたかを見るのもまた楽しい。会場では子どもたちの絵とハンカチが別々に展示されていたが、両者を並べて見せても面白かったのではないかと思う。昨年度のプロジェクトは純粋にデザイナーたちがデザインしたハンカチを販売し、売れたハンカチと同数を被災地の小学校にプレゼントするというものであった。今年度は子どもたちとともにつくるというバージョンアップ版。正直なところ、この企画がどれほど被災地復興に役立つのかはよくわからなかったが、そのようなきっかけがなければ存在しなかったプロジェクトであることは間違いない。記憶を風化させないという視点からすると、東北に限定せず、全国でワークショップを展開するのも良いかもしれない。[新川徳彦]

2012/01/19(土)(SYNK)

映画『ドラゴン・タトゥーの女』

会期:2012/02/10

TOHOシネマ梅田ほか[大阪府]

本作は、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソン(Stieg Larsson, 1954-2004)のベストセラー小説を、デヴィッド・フィンチャー(David Fincher, 1962- )監督がハリウッドで映画化したものである。あえてハリウッドと言ったのは、2009年に同じ小説を映画化したスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』があるからだ。私はラーソンの小説も、スウェーデン版の映画もみていない。フィンチャーの映画を、フィンチャーの映画としてみたかったからだ。原作があったり、リメイクされた映画はどうしても比較されてしまう。小説は小説で、映画は映画だ。比較は無意味なのである(聞いた話では原作と映画の結末が異なるそうだ)。久しぶりのフィンチャー監督の本客サスペンスで、正直、相当期待していた。だが、話の展開が緩く、とくに前半部の背景設定にしまりがない(ダラダラした描写が続く)ため、後半部とのバランスが取れていない感が否めない。ジャンル映画(サスペンス)としての必須要素(緊張感)を失っている。ただ、『セブン』や『ゾディアック』でみられる聖書と連続殺人というテーマ、さらに『セブン』や『ファイト・クラブ』『ゾディアック』『パニック・ルーム』に共通する、見えない相手、潜在的な暴力からくる恐怖を見事に描いているところは、フィンチャーらしく、フィンチャーの映画として見応え十分であった。また映像を映像として楽しみ、工夫をこらす、フィンチャーの変わらない遊び心と真剣さが感じられる。フラッシュバックを使わず、静止画(写真)、つまりイメージによるストーリーテリングは絶妙である。[金相美]

2012/01/15(日)(SYNK)

感じる服 考える服:東京ファッションの現在形

会期:2012/01/14~2012/04/01

神戸ファッション美術館[兵庫県]

アンリアレイジ(森永邦彦)、ミナ ペルホネン(皆川明)、シアタープロダクツ(武内昭、中西妙佳、金森香)など、活躍中の10組のデザイナーの仕事を通じて日本のファッションを可能性を探る展覧会。マネキンに服を着せたり吊るしたりというファッション展にありがちな演出を控え、エッセンスを抽出することに重きを置いた展示が光っていた。建築家の中村竜治が展示空間を担当したことも影響しているのであろう。こういう攻めの姿勢が伝わる展覧会はおおいに歓迎。ファッション美術館の存在意義が伝わる展覧会だった。

2012/01/15(日)(小吹隆文)

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天貝義教『応用美術思想導入の歴史──ウィーン博参同より意匠条例制定まで』

出版社:思文閣出版
発行日:2010/04
価格:7,875円(税込)
判型:A5判、410頁

近年、明治期のデザインおよび美術に関する諸研究がますます充実してきている。本書は、ヨーロッパから明治初期の日本に導入された「応用美術思想」の展開を論じた大著。「美術を製品に応用する」という思想が、1870年代初頭のウィーン万博参加から80年代末の意匠条例制定までの期間、美術・工芸界においていかに指導的役割をはたしたかについて、綿密な国内外の資料分析に基づき論述されている。「応用美術思想(英:fine arts applied to industry、独:Kunstgewerbe)」の意味するところは、当時に記された「美術を工業に利用する事、即ち実用と佳美を兼ねしむるに在り」。本書は、外来語「デザイン」の語義が日本で定着をみる以前、「美術」が「工芸」との関わりにおいて注目されていた事実だけでなく、「美術」と「工芸」の分化およびその関係性が変化してゆく以後の行方をも提示している。これらの今日的な諸問題を考え合わせて読み進めると、たいへん示唆に富む研究書である。[竹内有子]

2012/01/15(日)(SYNK)