artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

喜多俊之デザイン「Timeless Future」

会期:2011/10/27~2011/11/13

リビングデザインセンターOZONE 3Fパークタワーホール[東京都]

喜多俊之は日本を代表するプロダクトデザイナーのひとり。今回の展覧会では、1960年代のソファ《SARUYAMA》、1980年代の《WINK》から、2011年の椅子《HOTEI》まで、喜多がデザインした家具、日用品、照明器具などを紹介する。日本での大きな展覧会は約20年ぶりであるという。
 喜多のデザインが優れている理由として、その造形力はもちろんのこと、プロデューサーとしての能力に秀でている点をあげられよう。フリーのデザイナーであるから当然のことであるが、喜多は多くの企業とともに仕事をする。そのときに、それぞれの企業が持つ技術を上手に引きだし、それをデザインへと取り込み、昇華させる。たとえば、《WINK》や《DODO》の複雑な機構はカッシーナ社の技術がなくしては実現し得なかったであろうし、その機構が実現しなければあのデザインも成立しなかったであろう。同時に、長期にわたって作り続けられ、売られ続けるデザインを多数生み出した点、またそれを可能にするメーカーとコラボレーションを行なってきた点も特筆される。ソファ《SARUYAMA》シリーズ(コンセプトは1967年)は近年空港のラウンジなどに採用され、ふたたび売れているという。まさに“Timeless”なデザインである。
 デザインは人々の暮らしを豊かにするばかりではなく、国の経済や産業が発展するうえでも重要な役割をはたしている。この点を重視しているのも喜多のデザインの特徴であろう。その取り組みが顕著に現われているのが、日本の地場産業とのコラボレーションである。地場産業、伝統工芸の活性化とは、単に技術を継承することではない。つくられたものが使われ続けること、すなわち商品に対する需要を生み出さなければならない。あくまでもデザインはそのための手段のひとつである。それゆえ、喜多は外部から一方的にデザインを持ち込むのではない。美濃の和紙、輪島の漆器、有田の磁器などとの仕事において、素材や技術ばかりではなく、歴史へも理解を深め、そのなかから現場の人々と共に新しいデザインの可能性をすくい上げてゆく。もちろん、マーケットのことも忘れない。こうしてみると、ヨーロッパの家具においても、日本の工芸品においても、おそらく喜多のアプローチは変わらない。表面的な意匠は異なっていても、それは制約条件の違いに過ぎないのである。
 天井が高く広々とした空間に作品が映える。意図したのであろうか、透明なガラスの展示台に置かれた陶器や漆器の、床に落ちた影がとても美しい。[新川徳彦]

2011/10/28(金)(SYNK)

100 gggBooks 100 Graphic Designers

会期:2011/10/05~2011/10/29

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

1986年にギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)が開設されて25周年。そして内外のデザイナーの作品を紹介するggg Booksの100冊目が刊行された。今回の展覧会では、これを記念してggg Booksシリーズに登場した100人のデザイナーの作品1点ずつ、計100点を展示する。今回の展覧会と合わせて、ggg Booksの電子書籍版も刊行され、会場ではiPadで閲覧できるようになっていた。
 gggはグラフィック・デザイン専門のギャラリーとして、日本のデザイナーばかりではなく、世界の潮流を紹介する役目もはたし、発表された作品の多くは、ggg Booksシリーズに収録されてきた。他方でグラフィック・デザインの領域は、近年拡大している。紙メディアとWebメディアとの境目はもはや存在しない。モーション・グラフィックもあり、パッケージなどの立体もある。個展が企画の中心であるgggの展覧会においても、従来のグラフィックにとどまらない仕事が紹介されることが多くなってきた。ところが、紙媒体の書籍では、こうした多様なメディアの作品をアーカイブしていくことは困難であった。しかし、電子書籍には新たな可能性がある。今回刊行された電子書籍版のggg Booksは刊行済み書籍を電子化したものであるが(検索機能など、電子版ならではの機能もある)、gggの運営を支援する大日本印刷は日本の電子書籍普及をリードする立場でもあり、今後の展開には大いに期待したい。
 本展は、dddギャラリー(大阪)に巡回する(2011年11月9日~2011年12月21日。前期と後期で展示替えあり)。[新川徳彦]

2011/10/27(木)(SYNK)

『ペンギンブックスのデザイン 1935-2005』

発行日:2010年3月
著者:フィル・ベインズ
発行日:2010年3月
発行:ブルース・インターアクションズ
価格:2,940円
サイズ:A5並製、264ページ

1935年に英国で創刊されたペンギンブックスの70年間にわたる表紙デザインを追った、じつに目に楽しく(図版は500点を超える)、読んで面白い(綿密な調査分析に基づく)本である。なによりもご覧のとおり、「表紙デザイン買い」をしてしまいそうな装丁。「ペンギン」のブランド・カラーであるオレンジが、本論頁の紙にも効果的に使われている。それもそのはず、著者はロンドンのセントラル・セントマーティンズ美術大学で教える傍ら、フリーランスのグラフィック・デザイナーとして活躍している人物。ブック・デザインが象徴的に示すとおり、本書は、ペンギン・ブランドがどのように構築・展開されていったかについて、会社の歴史・デザイナーの手法・各「シリーズ」「ブランド」の特徴と変遷・タイポグラフィ分析・技術的変化など、複数要素を通じて探求している。巻末にはヤン・チヒョルトが考案した「ペンギン組版規則」が掲載されてもいる。同社の歴史が、グラフィック・デザインの発展といかに轍をひとつにしてきたか、深く考えさせられる。[竹内有子]

2011/10/15(土)(SYNK)

「メアリー・ブレア──人生の選択、母のしごと。」展

会期:2011/09/22~2011/10/10

大丸ミュージアム〈梅田〉[大阪府]

ディズニー・スタジオで活躍したアーティスト、メアリー・ブレアの生誕100年を記念して行なわれた展覧会。スタジオジブリの所蔵する作品を中心として、水彩画に始まり、ディズニーのためのコンセプト・アート、絵本、広告デザイン、家族を描いたプライヴェートな作品まで、彼女の多彩な仕事を一堂に見ることができる。もともと美術学校で水彩画を専攻した画家であったが、ウォルト・ディズニーとの出会いを経て、カラー・スタイリストとして《シンデレラ》《ピーター・パン》《ふしぎの国のアリス》に参加。50年代末から60年代にかけては、フリーランス・デザイナーとしても活躍する。本展では、その広告物が展示されている。乳製品やココアなどの広告には、頭部の大きな愛らしい、彼女の作品に特徴的な子どもたちが多く登場する。ブレアは、ディズニーランドのアトラクション《イッツ・ア・スモール・ワールド》のデザインを担当したことで知られる。同作が端的に表わすように、明るい色と様式化されたかたち、いきいきとした登場人物たちによって織りなされる、創造力溢れるイメージの数々は、根源的な生への喜びとでもいうべきものを秘めている。見ると、元気の出る展覧会だ。本展は、来春に名古屋を巡回。[竹内有子]

2011/10/07(金)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00013609.json s 10014171

モチハコブカタチ──かばんのトップメーカー、エースのデザイン展

会期:2011/10/04~2011/10/23

東京藝術大学大学美術館 陳列館1,2階[東京都]

2010年に創業70周年を迎えたカバンのトップメーカー、エースのデザインの歴史をたどり、その機能性の哲学を探る展覧会である。陳列館の1階は歴史。1950年代から現在までのエースのデザイン変遷を、ビジネスバッグ、カジュアルバッグ、スーツケースの三つに分け、同時代の世相の解説と共に展示する。なによりも懐かしく感じたのは、紺色に白く「MADISON SQUARE GARDEN SPORTSMAN CLUB」の文字が抜かれたナイロンのスポーツバッグ。このいわゆる「マジソンバッグ」は、1968年から1978年までの10年間に約2,000万個(うち半分は類似品)も売れたという。当時の学生たちがみな持っていたといっても過言ではないだろう。
 2階の展示ではエースのバッグの機能性を検証する。ビジネスバッグ(ACEGENE EVL-2.0)、ソフトトロリー(ProtecA プライト)、ハードトロリー(ProtecA エキノックスライト)の3種類のカバンを分解し、重量を極限まで減らしつつも耐久性を実現する構造を探る。一つひとつのパーツに分解されたカバンは、佐藤卓の『デザインの解剖シリーズ』を思い出させる。会場ではほかに、芸大生による「モチハコブカタチ」の提案があった。カバンという定型にこだわらない自由なアプローチがすばらしい。もっとスペースを割いて展示しても良かったと思う。
 歴史をたどり、製品の素材と構造をみて感じるのは、エースがカバンというファッションの分野でものづくりをしながらも、見た目の奇をてらうのではなく、技術や素材、機能性を最大限に重視している点である。小規模な企業が多いカバン業界のなかでエースが抜きんでた存在になった理由は、1950年代のナイロンや合成皮革を用いたカバンへの挑戦にある。1964年から2004年まで続いた米国サムソナイト社との提携においても、ただライセンスを受けて生産するのではなく、プライベートロックやキャスター、伸縮式ハンドルなどの新しい機能を提案し、それがいまではスーツケースのスタンダードになっている。マジソンバッグも特別なカバンではない。使い勝手に優れていたからこそのヒットなのだ。製品開発の方向が、きちんと消費者に向いている。そのうえで、デザインもおろそかにしない。サムソナイトとの提携終了と前後して、エースはライセンス生産から自社ブランドの強化へと舵を切り、アジアを中心とした海外市場への展開も進めている。ブランドの強化、市場の拡大は、エースのデザインをどのように進化させてゆくことになるのだろうか。[新川徳彦]

2011/10/06(木)(SYNK)