artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

Creation Project 2020 160人のクリエイターと大垣の職人がつくるヒノキ枡「〼〼⊿〼(益々繁盛)」

会期:2020/12/01~2021/01/20

クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン[東京都]

もう10年近く前、岐阜県のものづくり支援の仕事に私が携わったとき、岐阜県大垣市が枡の全国生産量の8割を担うことを知った。なかでも頑張っている製造事業者が大橋量器であることも。当時から同社は枡のヒノキ素材と技術を用いて、円すい形や斜めに傾いた塔形などの斬新な酒器を開発していて、未来志向の事業者だなという印象を抱かせた。だから本展の枡の製作が大橋量器だと知り、十分に頷けたのである。

枡はもともと、米などの穀物を計る道具だ。それがお祝いの席でピラミッド状に積まれて演出される酒器となり、いまに至る。結局、それ以上は発展しづらいため、大橋量器はさまざまな形状に挑み、酒器のほかインテリア小物への展開を探っているのだ。しかし本展を観て、また別の可能性を感じた。枡の表面に個性豊かなグラフィックやイラストレーションを施すことで、違う表情を持つことに気づいたのだ。本展はクリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンの2会場にわたり、160人のデザイナーやイラストレーターらがデザインした枡を一堂に会した展覧会である。枡=酒を取っ掛かりにデザインした作品、文字によるメッセージ作品、幾何学模様を生かした作品、動物のイラストレーションを載せた作品など、会場では種々さまざまな枡が見られた。大橋量器にも模様を入れた「カラー枡」という商品はあるが、言わばここまでぶっ飛んだデザインではない。枡の形はオーソドックスであっても、その表面がユニークになることで、計量道具や酒器を越えて用途の幅が広がる。例えばリビングや書斎などで小物入れや飾りにしても良さそうに思えた。また本展は展示だけでなく販売も行なっており、販売収益金は国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」に寄付される。これまで枡に関心や馴染みがなかった人も、これを機に手に入れてみるのもいいだろう。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

展示風景 クリエイションギャラリーG8

展示風景 ガーディアン・ガーデン


公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/creationproject/

2021/01/06(水)(杉江あこ)

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渦巻く智恵 未来の民具 しめかざり

会期:2020/11/28~2020/12/27

世田谷文化生活情報センター 生活工房[東京都]

2020年の年末、私は早々にしめかざりを自宅の玄関扉に飾った。注文していたしめかざりが早めに届いたせいもあるが、コロナ禍に見舞われた災厄年に一刻も早く別れを告げ、吉兆の訪れを願って新年を迎えたいという思いがあったのかもしれない。いままでしめかざりにそれほど興味はなかったのに、こんな気持ちになるなんて、人生は何があるのかわからない。本展へ足を運んだのも、こうした経緯があったからだ。本展を企画制作した森須磨子はグラフィックデザインの仕事のかたわら、全国各地へ「しめかざり探訪」を20年近く続ける、言わばしめかざり通である。その探訪の軌跡を物語る日本地図や記録写真を眺めていると、いやはや、こんな人もいるのだなと感心せざるを得なかった。また、元は神社に張られたしめ縄がどのような造形的展開を遂げて、「輪飾り」や「玉飾り」「前垂れ」といった系統のしめかざりになったのかを示した図式が非常にわかりやすく、そこにグラフィックデザイナーらしい視点も感じた。しめかざりは、福を授ける歳神様を正月に家に迎え入れるための目印である。その目印という点に、彼女はデザインの原点を見ているのかもしれない。

展示風景 生活工房3F 第1室「しめかざり時空探訪」[撮影:本田犬友]

展示風景 生活工房3F 第1室「しめかざり時空探訪」[撮影:本田犬友]

「月下のしめかざり」と題した展示室では、大晦日の夜をイメージした黒い空間に種々さまざまな形のしめかざりが展示されていて圧巻だった。形をしっかりと見せるために、彼女は橙や裏白(うらじろ)、譲葉(ゆずりは)などの装飾を取り除いて写真を撮り、記録するという。この展示室でも基本的に藁もしくは藁と紙垂(しで)だけのしめかざりが展示されていて、その試みがなんとも良かった。藁そのものの素の表情は迫力があり、人の手仕事をつぶさに見て取ることができたからだ。鶴、亀、松竹梅、海老、椀、杓子など、見たことのないしめかざりの形も多く、藁だけでこんなにも豊かな表現ができることに驚いた。しめかざりをつくりながら、人はそこに願いを込めるのだろう。来年はどうか良い年でありますようにと。本当に、2021年は良い年になることを心から願いたい。

展示風景 生活工房4F 第2室「月下のしめかざり」[撮影:本田犬友]


公式サイト:https://www.setagaya-ldc.net/program/500/

2020/12/23(水)(杉江あこ)

SURVIVE - EIKO ISHIOKA  石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか 前期

会期:2020/12/04~2021/01/23

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

東京都現代美術館で大規模な「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展が開催されるなど、石岡瑛子の仕事にあらためて注目が集まっている。東京・銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリーでは、前期「アド・キャンペーン篇」、後期「グラフィック・アート篇」の二部構成で、石岡のグラフィック・デザイナー、アート・ディレクターとしての活動を概観する展示が実現した。

その前期「アド・キャンペーン篇」を見ると、彼女が1960-80年代において写真とグラフィック・デザインを結びつけ、強力な磁場を形成するのに決定的な役割を果たしたことがよくわかる。資生堂時代に横須賀功光と組んだ伝説的な広告キャンペーン「太陽に愛されよう 資生堂ビューティケイク」(1966)は、いま見てもエポックとなる仕事だが、なんといっても1970-80年代のPARCOの広告キャンペーンが特別な輝きを発している。石岡は広告における写真家たちの役割を重視しており、彼らのインスピレーションやテクニックを積極的に取り込んでいこうとした。横須賀功光をはじめとして、沢渡朔、藤原新也、鋤田正義、操上和美、十文字美信らを次々に起用し、ヌード写真を大胆に使ったり、黒人のモデルを起用したり、インドやモロッコで海外ロケを敢行したりしたPARCOのキャンペーンは、日本の広告写真の表現力がこの時期にピークに達しつつあったことをまざまざと示している。

別な見方をすれば、石岡は高度経済成長がバブルへと向かうこの時代の沸騰するエネルギーをそのまま取り込み、大きく開花させたわけで、バブル崩壊後の1990年代以降になると、企業広告からは明らかに活力が失われてくる。展示を見終えて、1960-80年代をノスタルジックにふり返るだけでなく、その限界を踏まえたうえで、広告写真の冒険と実験の精神をもう一度取り戻すことはできないのだろうかと考えてしまった。

後期:2021/02/03〜2021/03/19

2020/12/09(水)(飯沢耕太郎)

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DEPTH DESIGN 1st EXHIBITION

会期:2020/11/19~2020/11/26

TIERS GALLERY[東京都]

印刷物をルーペで初めて覗き見たときの驚きをいまでも忘れられない。すべてが小さなドットで構成された世界がそこにはあった。特色を除く、通常のカラーはCMYKの4色で印刷されることを頭ではわかっていたにもかかわらず、実際に見る網点には何とも言えない迫力があった。本展を観て、そんな出来事をふと思い出した。本展を企画したDEPTH DESIGN(デプスデザイン)は、親会社のトヨコーと組み、壁面塗装によるパブリックアートの表現方法を研究している会社である。その代表取締役社長兼アートディレクターを務めるのが、デザイナーの清水慶太だ。設立されて間もない同社が、世間へのお披露目と同時に、パブリックアートの可能性を問うため展覧会を開いた。最初に観た作品「GRAY」はまさにCMYKの4色の原理を用いた実験作で、紙にインクではなく、壁にペンキで施されていた。実際に親会社の東京オフィスの内壁に用いられたそうで、遠目で見ると、4色のドットはグレーに映る。

展示風景 TIERS GALLERY

一般的にパブリックアートというと、巨匠アーティストによる、大衆の目を引く奇抜な作品というイメージが強い。それはそれで街や公園などにパワーをもたらし、また観光名物となることも多い。しかしDEPTH DESIGNの考えはむしろランドスケープデザインの延長上にあるようだ。公共空間を主に壁面塗装を用いていかに良いものへと変えられるかを模索する。「壁と景色」と題した作品では、街の景色は壁面の群によって印象づけられることを実証するため、立体模型を使い、街並みの一部を再現。これらの壁面に物語性のある色やパターン(濃霧や波、木々、アーチ)をプロジェクションマッピングで施し、街の景色がどのように変化するのかを実験していた。こうして見ると、壁面が街に与える影響の大きさに改めて気づく。

展示風景 TIERS GALLERY

一方で街の景観を損ね、治安悪化のイメージを与えるとされる壁面の落書き(グラフィティー)にも注目。主に文字表現が多いグラフィティーは、描き手からの何らかのメッセージではないかと肯定的に受け止め、グラフィティーを立体作品に転化する試みを行なった。これがベンチとして使用可能な立体作品に生まれ変わると、不思議と印象が変わる。たとえ街に置かれても、治安悪化のイメージにはあまりつながらないだろう。公共空間のあり方を考えるには、ミクロとマクロの両方の視点が大事になる。本展ではこの視点を生かした、柔軟な発想に基づく作品が観られた。

展示風景 TIERS GALLERY


公式サイト:https://depthdesign.co.jp/

2020/11/21(土)(杉江あこ)

私の選んだ一品[暮らしのピント]2020年度グッドデザイン賞審査委員セレクション

会期:2020/11/02~2020/11/30

GOOD DESIGN Marunouchi[東京都]

日本で規模がもっとも大きいデザイン賞と言えば、グッドデザイン賞である。毎年、国内外から来るその応募数は数千件に及び、募集、一次審査、二次審査、受賞発表といった運営が1年にわたって行なわれる。当然、審査委員の数も相当数必要で、現在、94人が務めているという。しかもその顔ぶれは、研究者やジャーナリスト、企業経営者が一部いるが、第一線で活躍する中堅の種々デザイナーや建築家が多くを占める。見方を変えれば、グッドデザイン賞の審査委員になったことで、彼らは若手から中堅への仲間入りを果たしたとも言える。そんな風に思えるのは、本展を観て、審査委員のなかによく見知ったデザイナーがずいぶん増えたと感じたからだった。

さて、本展は審査委員が主人公の展覧会である。彼らのうち日本在住の84人に、二次審査の会場で個人的に気になった、もしくは気に入ったデザインをひとつずつ選んでもらうという企画だ。そこで選ばれた全69点が彼ら一人ひとりのコメント付きで展示されていた。コメントを読むと、何というか審査委員のキャラクターや人間臭さがにじみ出ていて、予想以上に面白かった。なぜなら彼らは審査委員という立場ではなく、このときばかりは生活者の立場でコメントしていたからだ。もちろんデザインの知見を入れながらのコメントも多いのだが。幼い頃の思い出がよみがえったもの、自分が率直に欲しいと思ったもの、実際に家で使っているもの、ありそうでなかった視点、趣味のものなど、いずれのコメントにも実感がこもっていた。

展示風景 GOOD DESIGN Marunouchi

デザイナーも建築家も、専門家である前に、まず生活者であることを忘れてはならないと思う。デザインとは社会や人の営みを良くするものであるため、実は自身の経験が大いに物を言う世界でもある。生活のなかでの気づきが新たなデザインを生むきっかけになることも多い。ちなみに展示品のなかで私が欲しいと思ったものは、「猫様専用首輪型デバイス&アプリ」である。我が飼い猫にこれを試してみたい。いま、本気で買うか買わないかを悩んでいる。

展示風景 GOOD DESIGN Marunouchi


公式サイト:https://www.jidp.or.jp/ja/2020/10/25/202010014

2020/11/21(土)(杉江あこ)

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