artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

超絶記録!西山夘三のすまい採集帖

会期:2017/06/09~2017/08/22

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

建築学者/西山夘三(1911-1994)の都市における「庶民住宅」研究の様相を、彼が残した調査資料から探る展覧会。西山は京都帝国大学建築学科入学から院生時代以来、建築計画に加えて「住宅の科学的、社会的考察」を目的として、積極的に町歩きを行った。彼はカメラを携えて大阪、京都、名古屋を巡り、綿密な住居データを採集、記録した。フィールドワークによって、庶民の生活方式のあらゆる面を把握しようとする彼のスケッチには、考現学的思考も垣間見えて面白い。戦前から戦後の住宅難の時代にかけて、実地調査の範囲は、民家、町家、農家、長屋住宅、借家建築など多種にわたる。展示される「住み方調査」の原簿と集計データ、日記やスケッチ等の膨大な記録を見ると、彼が庶民の生活様式を把握していかに実証的な研究を行おうとしていたかがわかる。その克明な記録の山は驚くほど細かく分類され、体系化されてもいる。パソコンなどない時代、彼の手書き記録の迫力に圧倒される。一時は漫画家を目指したほどの腕をもつ西山のこと、そのスケッチの技量にも唸らされる。本展では、彼が描いた調査対象の建物図面を鑑賞者がめくって見ることができるように展示が工夫されている。なにより、住居改善に携わった彼の研究態度の根底には社会主義思想があり、それがこれほどまでの精力的な活動の原動力になったことを思うと、感動を覚える。[竹内有子]

2017/07/01(土)(SYNK)

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ジュリアン・レノン写真展 「CYCLE」

会期:2017/06/23~2017/09/17

ライカギャラリー京都[京都府]

ミュージシャンのほか、写真家としても多方面に活躍するジュリアン・レノン(ジョン・レノンの長男、リヴァプール生まれ)による写真展。展覧会名「Cycle」は、「進化を遂げながら巡り続ける生命の循環」を示しているという。これを統一テーマに、ライカギャラリーの3つ(東京・京都・GINZA SIX)では同時に、彼が東南アジアを旅してライカで撮影した写真が少しずつ異なるサブテーマのもとに展示されている。京都では、風景、人々の暮らしの様子が、「川」の情景を巡って展開される。15点中、1点を除き、写真はすべてモノクロ。写しだされるのは、川を通じて営まれる名もなき人々の日常の暮らしである。水上生活者と思しき人々やボートを漕ぐ人々の様子、川沿いの建築物など、そのどれもが喧騒に溢れていそうな場面なのに、とても静謐で詩的に見える。撮影対象は崇高とも換言できそうな、しかもそれが過剰過ぎないイメージで現れる。写真家の眼はそれほど異文化、ひいては人間の生に対する共感に満ちている。もうひとつ触れておきたいのが、この京都のギャラリーのユニークさ。築100年を超える町屋の2階、古い木材の梁と柱の構造をそのまま活かした展示室は、写真文化の奥深さを物語るに相応しい。[竹内有子]


ライカギャラリー京都

2017/07/01(土)(SYNK)

新いけばな主義

会期:2017/06/24~2017/07/02

BankART Studio NYK3F[神奈川県]

「気鋭の現代いけばな作家が集結!」「現代いけばなの歴史的展覧会」「平成のいけばな史に残るであろう本展」と、力の入った文言がチラシに踊る。流派を超えて集ったいけばな作家は計27人。うち草月流が10人、小原流が5人、龍生派、未生流、古流松藤会、一葉式いけ花などなんらかの流派に属しているのが8人、フローリスト、フラワーアーティストなどインディペンデントが4人という内訳。一人にあてがわれたスペースは、不公平にならないようにグリッド状に並んだ柱から柱まで5×5メートルの空間に統一されている。
さてその作品だが、「新」とつくからには花瓶や水盤に生ける古風な花なんぞ期待してはいけない。ベニヤ板を重ねたり、ナスを漬けたり、花びらを水に浮かべたり、およそ植物を素材にしたものならノープロブレム。しかしいけばなとして見れば新鮮かもしれないが、現代美術として見れば特に目新しいものでもなく、既視感はぬぐえない。グランプリは、これはなんという植物だろう? 肉厚の巨大な葉を重ねて龍の姿に仕立てた原田匂蘭が獲得。しかしよく見ると、グランプリの対象になるのは公募による審査を通過した12人だけで、残り15人は招待作家なのだ。これはいわゆる公募団体展と同じやり方ですね。まあ小原流も龍生派も未生流も宣法未生流も古流松應会も古流かたばみ派も、家元が出してるから落とすわけにはいかず、あらかじめグランプリの対象から外したのかもしれない。どうでもいいけど。

2017/06/30(金)(村田真)

KIYOME MO/NU/MENT

会期:2017/06/30~2017/07/02

スパイラルガーデン[東京都]

そういえば審査したのは何年前だっけ……と、忘れたころに(3年前でした)コンペで選んだ作品の発表会が開かれた。タイトルからはなんのコンペか想像がつかないだろうが、じつは木曽に本社を置く檜風呂の制作販売会社、檜創建が主催する木曽檜を使った浴槽のコンペなのだ。タイトルの「KIYOME」とは「清め」「浄め」であり、入浴の婉曲な表現だ。発表まで3年もかかったのは、コンペで選ばれた彫刻家の木戸龍介によるプランが卵型のシェルターを持ち、おまけに表面の一部に網状の透かし彫りを入れるという手の込んだデザインだったため、制作に予想以上の時間がかかったから。主催者あいさつ、審査員の講評、乾杯に続き、希望者は卵の内部に入って(湯は張ってないが)入浴気分を堪能できる。入ってみると檜の香りが漂うなか、透かし彫りから外の光が星明かりのように差し込んできて、これはぜひ湯を張って入りたいと思わせるデキだった。

2017/06/29(木)(村田真)

切断芸術運動というシミュレーション・アート展

会期:2017/06/25~2017/07/06

東京都美術館[東京都]

グループ展の公募で選ばれた企画で、彦坂尚嘉が多くの若手作家と提示するアートの新しい手法が「切断」だ。やり方は、びっくりするくらいストレートでシンプル。すなわち、作品の左右、あるいは上下を二つに切断し、入れ替えるだけなのだが、これを絵画、写真、彫刻など、さまざまな媒体で展開している。その結果、生成される作品は、確かに凡庸な原形であったとしても、強烈な異化効果をもたらす。

2017/06/28(火)(五十嵐太郎)