artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
神戸市立外国人墓地/再度公園
再度公園[兵庫県]
本年1月に神戸市は開港150年を迎えた。神戸の「港と文化」をクローズアップするさまざまな記念事業が催されている。神戸の近代化を支えた外国人たちの眠る広大な神戸市外国人墓地が一般公開されている(申込み、抽選制)。以前から一般開放されている横浜や大阪と異なって、神戸の場合は開港時の約束に従うかたちで、11年前まで遺族以外には門を閉ざしていた。もうひとつ、神戸の外国人墓地が異色なのは、2007年に墓地を含めて国の名勝に指定された「再度公園」にあること。眺望に恵まれた再度山の中腹にある修法ケ原は、緑豊かな開放感のある立地。周回道路や石段で分けられた宗教/宗派別の区画に、現在60ヵ国、およそ2700名の人々が埋葬されている。お墓の形状もそれぞれ個性的で、塔のように高く巨大なものからケルトの文様を思わせるもの、シンプルな矩形のものまで多様性に富む。神戸港の初代港長マーシャル、炭酸水で知られるウィルキンソン、造船業に貢献した実業家ハンターら、近代産業の発展に尽くした人々の墓石が並んでいる。ここに眠ることになった外国人の人生にも似て、この墓地自体の歴史もかなりの変遷がある。1868年1月1日の兵庫開港(慶応3年12月7日)に先立って、江戸幕府は居留地外国人のために、小野浜に墓地を用意した。だが同地は海に近かったため、明治期には山手の春日野墓地を設置するが、昭和初期にはここも飽和状態になる。戦後になってようやく、修法ケ原に両墓地の新設移転が完了した。今後、神戸市は外国人墓地を歴史遺産として広く知ってもらうために、土地整備や見学会を拡大するそうだ。開港以来、ハイカラ、モダンと形容されてきた神戸の発展と、阪神淡路大震災を経た復興、そして港湾都市の未来に思いを馳せた。[竹内有子]
2017/05/28(日)(SYNK)
宮廷装束の世界
会期:2017/04/01~2017/05/27
学習院大学史料館[東京都]
「衣冠束帯」や「十二単」と呼ばれる公家・女房装束は、もともと律令制とともにその原型が大陸からもたらされ、日本独自のものに変化してきた。しかしながら武家の伸長と公家社会の衰微、応仁・文明の乱によりその伝統はいったん途絶してしまう。その後、江戸時代になり社会の安定が回復されると、装束の再興がはかられた。明治に入り宮廷服には洋装が導入されたが、宮中の祭祀や儀礼など大礼における儀服として、装束は継承されている。ただし、このような歴史的背景もあり、一般には「古式ゆかしく」とも形容される装束は決して平安時代のままのものではないことに留意したい。
もとより装束は衣服としての機能的な役割以上に着用者の社会的身分、職掌、年齢などを可視化する装置であり、、近代の装束であっても差異がそのような意味を持っていることに変わりはない。それゆえ、この展覧会を見れば、近代の皇室における華麗な装束の数々を通じて、制度の歴史とその変容、位階による違いなどをうかがい知ることができる……はずだが、じっさいにはとても難しい。なにしろ装束を着付ける際の技術や知識の体系は「衣紋道」と呼ばれる複雑なもので、それも山科流、 倉流というふたつの流派でそれぞれ仕立や着装法に違いがあるというのだから。
出品作品中でとくに興味深く見たのは「大正大礼調度及装束裂等貼交屏風」だ。これは羅および有職織物で重要無形文化財保持者に指定された喜多川平朗が記録・参考用として所蔵されたもの。これらの織物の織り、文様にも複雑な決まりごとがあるのは想像に難くない。他方でこうした複雑な制度の保持と継承には、皇室における日本の伝統文化や国産品の保護という役割もあるそうだ。[新川徳彦]
2017/05/17(水)(SYNK)
舟田亜耶子展 Catch the pie in the sky
会期:2017/05/13~2017/06/03
CAS[大阪府]
華やかなプリント柄のワンピースや、カラフルなハイヒールを着用した女性たちを、ファッション写真さながらのポーズで撮影した写真作品。でも、何かがおかしい。服と靴が舞台の書き割りのように平板なのだ。じつはこれらは、ファッション雑誌に掲載された服や靴をトレースした絵を元に拡大プリントしたパネルである。なるほどこの方法なら、どんな服でも着せ替え人形のように身に着けられる。憧れのファッションブランドも思いのままだ。フェイクだけど……。舟田の作品は、消費の欲望を「絵に描いた餅」として提示し、ブランド信仰を軽やかに皮肉っているところが面白い。そういえばずいぶん昔に、本作と似たエピソードを雑誌かテレビで見たことがある。とある女子高生が体育館シューズにサインペンでシャネルのロゴマークを手描きして履いていたのだ。この行為をアートに昇華すると本展になるということか。
2017/05/15(月)(小吹隆文)
ポスターに描かれた昭和~ 高橋春人の仕事~
会期:2017/03/11~2017/05/07
昭和館[東京都]
デザインに携わる者で、亀倉雄策がデザインした1964年の東京オリンピックポスターを知らない者はいないだろう。しかし、同年11月、東京オリンピック閉幕後に開催されたパラリンピックのデザインワークについて知っている者はどれほどいるだろうか。この年のパラリンピックは、1960年に開催されたローマ大会に続く第2回目の国際大会で、このときはじめて「Paraplegia(対麻痺)」と「Olympic」を組み合わせた「Paralympic」という愛称が用いられた。この大会の企画当初からポスターを含むさまざまなデザインの仕事に携わったのが、戦中から戦後にかけて、主として公共広告の分野で仕事をしたデザイナー 髙橋春人(1914~1998)だ。昭和館は2011年に遺族から肉筆原画、ポスター等約160点の寄贈を受けている。本展はそれらの作品に関連資料を加えて、戦中から戦後昭和40年代に至る髙橋の足跡をたどる企画だ。ポスター作品の中でもとくに印象に残るのは「赤十字募金・共同募金」(のち、赤い羽根運動)のもの。1949年(昭和24年)に在京ポスター作家10人によるコンペが実施され、髙橋の作品が採用された。髙橋は以来30年にわたって同ポスターを手がけることになる。力強い描き文字、イラストや写真の大胆な配置には、戦前・戦中からの公共プロパガンダポスター(アドバタイズメントではない)の伝統がうかがわれる。とはいえ、表現の様式はクライアントに応じて多様で、髙橋自身が公共の広報物のあるべき姿として述べているように、作家性は意図的に抑えられているようだ(本展図録、6頁参照)。日本のグラフィック・デザイン史のなかで、こうした公共広告の仕事に焦点が当てられることはなかなかない。本展がデザイン関連の施設ではない会場で開催されたことからも、デザイン史における関心からのこの分野に対する距離を感じる。[新川徳彦]
2017/05/07(日)(SYNK)
新宮晋の宇宙船
会期:2017/03/18~2017/05/07
兵庫県立美術館[兵庫県]
風や水などの自然のエネルギーを利用して動く造形作品を一貫して作り続けてきた作家、新宮晋(1937- 、大阪生まれ)の大規模な展覧会が開かれた。新宮といえば、戸外に設置されるサイトスペシフィックな作品が思い浮かぶ。しかし今回は、新作を中心とした18点が、「宇宙船」と見立てられた会場空間に展示された。安藤忠雄によるコンクリート建築のような人工的な空間に設置されるということは、作家にとってはある意味、挑戦であったろう。蓋をあけてどうであったかというと、館内の展示には意外な副産物があった。「星」や「雲」など自然を想起する詩的なタイトルが付く作品群、その風によって起こされる優雅な動きは、時にコンクリートの壁に影を落としてはゆらめく。流れる水力で動く金属作品《小さな惑星》は、照明を落とした空間に静かな水音とステンレスに反射された光がきらめき、幻想的な雰囲気を醸し出す。また自然の光が差し込み緑の見える中庭にも、作品が展示されて好対照であった。展示室内を巡り驚くのは、金属のように無機質な材料で作られた作品なのに、それぞれの動きがなんと有機的に感じられることか。新宮の作品に通底する、自然に対する驚嘆や自然の法則を表象する真摯な心持が伝わるようだ。[竹内有子]
2017/05/07(日)(SYNK)