artscapeレビュー
ポスターに描かれた昭和~ 高橋春人の仕事~
2017年06月01日号
会期:2017/03/11~2017/05/07
昭和館[東京都]
デザインに携わる者で、亀倉雄策がデザインした1964年の東京オリンピックポスターを知らない者はいないだろう。しかし、同年11月、東京オリンピック閉幕後に開催されたパラリンピックのデザインワークについて知っている者はどれほどいるだろうか。この年のパラリンピックは、1960年に開催されたローマ大会に続く第2回目の国際大会で、このときはじめて「Paraplegia(対麻痺)」と「Olympic」を組み合わせた「Paralympic」という愛称が用いられた。この大会の企画当初からポスターを含むさまざまなデザインの仕事に携わったのが、戦中から戦後にかけて、主として公共広告の分野で仕事をしたデザイナー 髙橋春人(1914~1998)だ。昭和館は2011年に遺族から肉筆原画、ポスター等約160点の寄贈を受けている。本展はそれらの作品に関連資料を加えて、戦中から戦後昭和40年代に至る髙橋の足跡をたどる企画だ。ポスター作品の中でもとくに印象に残るのは「赤十字募金・共同募金」(のち、赤い羽根運動)のもの。1949年(昭和24年)に在京ポスター作家10人によるコンペが実施され、髙橋の作品が採用された。髙橋は以来30年にわたって同ポスターを手がけることになる。力強い描き文字、イラストや写真の大胆な配置には、戦前・戦中からの公共プロパガンダポスター(アドバタイズメントではない)の伝統がうかがわれる。とはいえ、表現の様式はクライアントに応じて多様で、髙橋自身が公共の広報物のあるべき姿として述べているように、作家性は意図的に抑えられているようだ(本展図録、6頁参照)。日本のグラフィック・デザイン史のなかで、こうした公共広告の仕事に焦点が当てられることはなかなかない。本展がデザイン関連の施設ではない会場で開催されたことからも、デザイン史における関心からのこの分野に対する距離を感じる。[新川徳彦]
2017/05/07(日)(SYNK)