artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

イングリッシュ・ガーデン ─英国に集う花々─

会期:2016/04/29~2016/06/26

京都文化博物館[京都府]

産業革命以降、英国人にとって、「都市」と「田園」は常に重要な対概念となってきた。緑なす地方のカントリー・ハウスで貴族階級によって展開されてきた広大な庭園は、近代化に伴い、規模と形式を変えて一般市民にも広まっていく。英国人の園芸・自然愛好は、同国が最初の工業国家であることと切り離せない。むろん大英帝国の拡大と轍を同じくして、海外植民地から植物を輸入したプラント・ハンター達の活躍と近代植物学の発展も見逃すことができない。本展は、キュー王立植物園の所蔵する植物画をメインに、自然に魅せられ植物をデザインに取り入れた近代デザイナーの作品群を加え、およそ180点を展示するもの。ロンドンのキュー・ガーデンに行った人が必ず訪れるのが、19世紀半ばに建てられたパーム・ハウス(ヤシ類の大温室)だろう。植物が生育する熱帯の気候を再現した同室は、ガラスと鉄でできた近代的建造物。世界で最も早いプレハブ建築として知られる、1851年ロンドン万博の水晶宮は、造園家であったジョセフ・パクストンが温室を参考にして設計した。興味深いことにパクストンは、出展された植物画の通り、オオオニバスの葉の曲線構造に着想を得て設計を行なったという。かように、19世紀の近代技術と植物学の繋がりは深いのだが、デザインも密接にそれと関係している。そもそもボタニカル・アートとは、「科学的な植物画」であり、植物学の分析的な観点から正確に描写されたもの。本展で展示されたクリストファー・ドレッサーのデザイン製品は、彼の経歴が植物学者であったことからもわかるように、植物の形態を分析的に捉えて抽象し、装飾に相応しいように模様化している。ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動のデザイナーたちが表象する自然は、それとは異なる性質を持っている。描かれた多種の花々を愛でるだけでなく、近代英国の文化的諸相についても思いを巡らすことできる展覧会。[竹内有子]

2016/06/08(水)(SYNK)

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考古資料展示開催記念対談 松木武彦×五十嵐太郎「先史のメディア論」

会期:2016/06/06

東北大学トンチクギャラリー[宮城県]

朝日新聞の書評委員会で松木武彦『美の考古学』に最優先の花丸をつけたにもかかわらず、担当をとれなかったために本を購入したのだが、五十嵐研の縄文展示プロジェクトを担当する学生に推薦したら、読書会が盛り上がり、とうとう著者を招く企画が実現した。松木は、文字がない時代ゆえに、土器や石斧などのモノと徹底的に対峙し、人間の普遍的な認知パターンと絡めて、当時の思考を読みとく。上部構造から歴史をとらえ返す試みでもある。彼の考え方は、デザイン、建築、アートの関係者にとっても興味深いだろう。

2016/06/06(月)(五十嵐太郎)

終わりなき創造の旅 ─絵画の名品より─

会期:2016/03/19~2016/06/05

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

開館20周年を記念して、芸術家たちの制作にまつわる「旅」をテーマに選ばれた館蔵品、約80点近くによる展覧会。印象派、エコール・ド・パリ、ピカソ等20世紀巨匠たちの絵画の名品と、バーナード・リーチや濱田庄司ら民藝運動の作家たちの工芸品との両方が同時に楽しめる。絵画作品の見どころは、安藤忠雄設計の「地中の宝石箱(地中館)」に展示されたモネの《睡蓮》と、「夢の箱(山手館)」に展示されたゴッホの《農婦》および「青の時代」のピカソによる《肘をつく女》。さらに本展で民藝に関わって貴重なのは、柳宗悦と朝鮮古陶磁の研究を行った浅川伯教が朝鮮・日本で収集した民藝品が見られること。柳・浅川兄弟の審美眼によって選ばれた李朝陶磁器・唐津・瀬戸・備前焼などは、同運動を支援したアサヒビール初代社長、山本爲三郎との交流を通じてもたらされた。それが英国風の山荘建築の中に残されていることが素晴らしい。というのも、展示品と建築と選りすぐられた室内装飾が渾然一体となって、展覧会を作り上げているからだ。同館の展示では、東西の芸術文化と芸術のジャンルの垣根がなく調和的に同居し、民藝の思想を具現化しているとしみじみと感じ入る。庭園の池にはまた、モネの作品を想起させる睡蓮が咲き、展覧会に花を添えていた。[竹内有子]

2016/06/05(日)(SYNK)

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ポール・スミス展 HELLO,MY NAME IS PAUL SMITH

会期:2016/06/04~2016/07/18

京都国立近代美術館[京都府]

ファッションの展覧会といえば、歴代のコレクションがズラリと並ぶ服飾展を連想するのが当然だ。しかし本展の主役は、イギリスを代表するファッション・デザイナーであるポール・スミス自身。彼が10代の頃から収集してきた約500点もの美術品や、雑然としたオフィスやデザインスタジオ、わずか3メートル四方の第1号店などの再現、一風変わった郵便物、自身の頭の中をテーマにした映像インスタレーション、ストライプのカラーリングを施したミニ(自動車)とトライアンフ(バイク)などが並び、歴代コレクションは最後にやっと登場するといった具合だ。展示総数は約2800点。あまりにも数が多くて集中力が続かないほどだが、ポール・スミスの人柄は確かに伝わった。きっと彼は、デザイナーである以上に、プロデューサー体質なのだろう。でなければこんな展覧会は実現しない。記者発表には本人も出席し、気さくなリアクションを連発していたのが印象的だった。その席で英国のEU離脱問題について彼がどう考えているか聞きたかったが、タイムオーバーで質問できなかったのが残念だ。

2016/06/03(金)(小吹隆文)

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中島千波とおもちゃシリーズ 画家のひみつ

会期:2016/05/31~2016/07/10

渋谷区立松濤美術館[東京都]

現代日本画壇事情には疎いが、それでも中島千波といえば桜の絵を代表とする花鳥、人物、風景の画家として著名であることは知っている。多岐にわたる制作活動の中で、中島千波が生涯描き続けたいと語っているのが、本展で特集されている「おもちゃシリーズ」だ。描かれているのは「おもちゃ」といってもトイではなくて、陶製や木製の動物たちの置物──いわゆる民芸品で、メキシコの陶製・木製の動物をはじめてとして、ペルーやフランス、ベルギー、インド、日本など、産地はさまざま。「おもちゃシリーズ」では、だいたい前景にいくつかのおもちゃと花が組み合わされ、背景に窓が描かれている。最初におもちゃを描いた作品は1972年の《桜んぼと鳩》(本展には出品されていない)。そこにはその後のシリーズの原型がすでにある。銅版画家・浜口陽三のサクランボの作品のようなものを日本画にしたらどうなのだろうというところから始まったという。窓は「結界」で、デュシャンやマグリットの影響。初期の作品に描かれている窓の外にただよう雲や、割れたワイングラスや壊れたテーブルの脚は社会の不安を表し、平和の象徴である鳩と対比している。しかし、近年描いているおもちゃシリーズはメルヘンの世界だという。じっさい出展作品の大部分は純粋に楽しく見ることができるものばかりだ。地階展示室は、主に2008年に高島屋美術部創設100年を記念して開催された展覧会のために描かれたもの。2階展示室は、初期作品と近年の作品とが並ぶ。これは本人が語っていたことだが、おもちゃシリーズは売れないのだそうだ。これは意外だった。やはり桜の画家としてのイメージが強いのだろうか。2008年の展覧会出品作品は大部分が手元に戻ってきて、半分は自宅に、半分はおぶせミュージアム・中島千波館(長野県)に寄贈し、それゆえ今回まとまって出品することができたのだという。
本展では、おもちゃシリーズの作品とモチーフになったおもちゃ、花のデッサンが合わせて展示されている。とくに地階展示室ではおもちゃが露出展示されており、ディテールを間近で見ることができる。花はそれぞれの旬にデッサン、着彩されたもの。どの作品に用いるかは関係なく描きためられたもののなかからモチーフが選ばれるという。おもちゃはほとんどの場合デッサンを経ることなく、実物を見ながら直接描いているとのこと。作品と見比べると、色や模様はデフォルメされることもあるようだ。このようにふだん見ることができない創作のプロセスを見せているがゆえに、展覧会のサブタイトルは「画家のひみつ」なのだ。
モチーフに用いられたおもちゃのなかでも、メキシコ・トナラの陶製の動物、オアハカの木製の動物たちはとても魅力的。画のモチーフになったもの以外にも画家はたくさんのおもちゃを所有しているそう。いつの日か、中島千波コレクション展を見てみたい。[新川徳彦]


展示風景

★──中島千波『おもちゃ図鑑』(求龍堂、2014)8~9頁

2016/06/02(木)(SYNK)

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