artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
春画展
会期:2016/02/06~2016/04/10
細見美術館[京都府]
昨年開催された、日本初の「春画展」の巡回展。20カ所以上に断られつづけ、やっと開催にこぎつけたのが東京、永青文庫と、ここ、細見美術館だったという。東京展の観覧者は20万人を上回ったというが、本展も入館整理が必要なほどの連日の混雑ぶり。美術展には珍しいR18の年齢制限も人々の興味をさらにかき立てたのかもしれない。出品は狩野派や土佐派の肉筆画から名立たる浮世絵師の版画まで、大名家で代々密かに受け継がれてきたものから街中で庶民に貸し出されたものまで、およそ130点。なかでも、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿など美人画で知られた絵師たちによる春画には、美人画を手にした人々がその絵をとおして妄想したであろう、次なる場面を目の当たりにする思いがした。
春画は、しかし、基本的にただ猥褻なだけではない。春画には、性的なことがらと笑いが同居するのである。具体的には男女の目合ひの様子が描かれる。二人の肉体と、まといつく衣類、そして彼らをとりまく周囲の状況、どの絵もモチーフは驚くほど画一的だ。さらに、身体の一部が際立って強調されている点も共通する。その一部を描く執拗さが、不自然で、不調和で、滑稽なのである。[平光睦子]
2016/03/19(土)(SYNK)
ビアズリーと日本
会期:2016/02/06~2016/03/27
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
19世紀英国のイラストレーター、オーブリー・ビアズリー(1872-1898)にまつわる展覧会。ビアズリーの名を広く世に知らしめたオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』英訳版が出版されたのは1894年、彼が亡くなるほんの数年前のことであった。夭折の天才、その短い活動が残した影響は驚くほど大きい。本展はビアズリーを軸に日英の美術の影響関係を、およそ270点のイラスト、版画、装丁本で紹介する。国内四カ所を巡回する。
切り落とされた預言者ヨカナーンの首に、サロメが口づけする場面を描いた《お前の口に口づけしたよ、ヨカナーン》はあまりにも印象的な作品だ。1893年に英国の美術雑誌『ステューディオ』に掲載されたこのイラストが出版社の目に留まり、ビアズリーは英国版の挿画に採用されたという。『サロメ』の挿画は、後の1910年に日本でも創刊間もない雑誌『白樺』に柳宗悦の紹介とともに掲載されて注目を集める。本展でみる、『サロメ』の挿画のためのドローイングは、大胆に空いた白い面の紙とくっきりと塗り分けられた黒い面のインクの質感のコントラストが美しい。そして、流れるような線、震えるような点描、細部の執拗な描き込みが、彼の幻想的でエロティックな作風を決定づけたように思う。もともとビアズリーはバーン=ジョーンズに私淑したというが、ビアズリーの作風とウィリアム・モリスらラファエル前派の作風のもっとも大きな違いもこのエロティックさにあるといってもいいだろう。ビアズリーはこの絶対的な個性によって賞賛を浴び、同時に、季刊誌『イエロー・ブック』や季刊誌『サヴォイ』など物議を醸した雑誌を次々と手がけることになったように思う。オスカー・ワイルドはビアズリーの描く『サロメ』のイラストに否定的だったというが、世紀末の英国に現われたこの二人の奇才の出会いこそが、あのイラストを生み出したのではないだろうか。[平光睦子]
2016/03/17(火)(SYNK)
おいしい東北パッケージデザイン展 2015 in Tokyo
会期:2016/03/09~2016/04/11
東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]
東北地方の10社10商品に対する新しいパッケージデザイン案を全国のデザイナーから募集し、商品化を目指すプロジェクト。東北経済産業局と日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)による企画の第2回で、応募702点から受賞作・入選作227作品が展示されている。プロのデザイナーとデザイン学生は区別なく審査され、今回は優秀賞10作品のなかに学生3名の提案が選ばれている。商品は麺類や練り物、漬け物などの加工食品と、地元産のラベンダーを使用した芳香剤。各々の企業に対象商品を取材した「ヒアリングシート」に書かれた企業理念やモノづくりの考え方、商品特性、価格、デザイン要件を元にデザインを行なう。地産地消商品やお土産品と位置づけられる商品には販売場所・地域が限定されているものが多いが、これを機に販路の拡大を視野に入れている商品もある。実用性・機能性が求められる商品もあれば、他社製品との差別化が求められる商品もある。それらの要望・要件をどのようにデザインに落とし込むかが問われている。昨年との違いは、優秀賞だけではなく、ノミネート作品から商品化される可能性が示されている点だろうか。
3月11日に開催されたオープニングトークには、昨年度の優勝受賞者3名らが登壇し、受賞作商品化の状況が報告された。それによれば、参加10社10商品のうち2社が辞退、8商品が商品化あるいは商品化に向けて話が進められているとのことだ。発売された商品については良く売れている、バイヤーの反応がよいなどの結果が出ており、現在進行中のものは単品ではなく他商品も含めたシリーズ展開をしたいという要望が出てプロジェクトが進められているという。デザインが良くなったからといって売れるとは限らないし、売上増大の理由がすべてデザインにあるわけではないだろうが、パッケージデザインを変更する作業に関わることでメーカーの側に意識の変化が生じているように見受けられる。すなわち、モノをつくって卸に納めて終わりになるのではなく、商品の力に自信を持ち、それを消費者にどのように届けるのか/売るのかという点に意識的になっていると感じる。これまでデザイン、デザイナーとの関わりが薄かった企業にそのような変化が生じているとすれば、メーカーとデザイナーの双方にとってこのプロジェクトはおおいに意義のある結果を出していることになる。なお、本プロジェクトと同様の試みが北海道でも始まっているそうだ(北海道経済産業局主催:北海道のおいしいつながり|パッケージデザイン展2015)。[新川徳彦]
関連レビュー
2016/03/11(金)(SYNK)
ウィリアム・モリス自邸「ケルムスコット・ハウス」(英国)
ウィリアム・モリス協会[ロンドン]
モダン・デザインの父として知られる19世紀英国のデザイナー、ウィリアム・モリスの自宅「ケルムスコット・ハウス」(ロンドン、ハマースミス)を訪れた。現在は、ウィリアム・モリス協会が二室を週二日のみ、一般公開している。ひとつは、1階のコーチハウスで小規模な展覧会が開かれる場所、もうひとつは地下の元使用人の部屋である。この邸宅はモリスが1878年から1896年に亡くなるまで居住した場所。彼自身が「ハマースミス・ラグ」と呼ばれるカーペット・織物を織機を使用して製作したほか、また社会主義同盟に没入した場所でもある。晩年に注力した印刷工房ケルムスコット・プレスも、この近くで開始された。モリスはテムズ川沿いに位置するこの家と、所有するもうひとつのマナーハウス(ケルムスコット・マナー)とを船で行き来したという。ロンドンでモリス巡礼をする向きには、モリスが少年・青年期を過ごしたウォルサムストウにある邸宅の「ウィリアム・モリス・ギャラリー」も勧めたい。近年、大規模な改装がされたので、非常に充実して見ごたえのある美術館となっている。[竹内有子]
2016/03/10(木)(SYNK)
キューバの映画ポスター──竹尾ポスターコレクションより
会期:2016/01/07~2016/03/27
東京国立近代美術館フィルムセンター[東京都]
竹尾ポスターコレクションから、革命期から1990年前後までのキューバ映画のポスター85点を紹介する展覧会。1959年の革命以降、キューバは「映画芸術産業庁(ICAIC)」を拠点として先鋭的な映画を送り出してきた。先鋭的あるいは革命的なのは映画ばかりではなく、そのポスターにおいても同様だったという。デザインにはさまざまなデザイナーや画家が招かれ、自由な解釈によるアーティスティックなポスターがつくられた。しばしばタイトルの文字は小さく、それがなんの映画なのかもわかりづらい(近年の日本の説明過剰な映画ポスターとはまったく逆のデザインだ)。ICAICによれば、ポスターは映画とは独立した芸術作品なので、文字は読めなくて構わないのだそうだ。宣伝臭がしないのは、社会主義革命後に資本主義的な「広告advertisement」が禁じられ「プロパガンダpropaganda」に取って代わられたからでもある。印刷技術の点では、オフセット印刷ではなくシルクスクリーンが用いられ続けている点も、広告としてではなく作品としてのポスターであり続ける証左かも知れない。映画の内容に目を向けると、外国映画のポスターの表現にも惹かれる(これは元の映画ポスターを知っているから、キューバにおける表現や解釈の違いに興味惹かれるということでもある)。社会主義国であるソヴィエトや東欧諸国の映画が輸入されたのはもちろんだが、1960年代後半には娯楽映画の輸入にも力が入れられた。革命後にハリウッドの娯楽映画の輸入が途絶えた代わりに、彼らは日本から映画を買い付けた。とりわけ人気だったのが勝新太郎の「座頭市」。日本以外でシリーズ作品16本が上映された国はキューバ以外にはないのだそうだ。1975年に勝新太郎がキューバを訪問したときは大歓迎されたという。アルフレド・ゴンザレス・ロストガルドによる「座頭市兇状旅」のポスターもまた斬新。はたしてキューバ国民のあいだでこのポスターと勝新のイメージが一致していたかどうかはわからないが。
この展覧会は京都国立近代美術館に巡回する(2016/6/1~2016/7/24)。[新川徳彦]
2016/03/09(水)(SYNK)