artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
ライゾマティクス グラフィックデザインの死角
会期:2016/05/26~2016/07/09
京都dddギャラリー[京都府]
最新のデジタル技術を駆使してさまざまなクリエーションを手掛けるプロダクション、ライゾマティクスが、グラフィックデザインをテーマにした展覧会を開催。田中一光、福田繁雄、永井一正、横尾忠則のポスター約3000点を解析し、「配色」「構成」「感性」の3項目でそれぞれの特徴を数値化。そして、これまでのグラフィックデザインが見逃してきた領域(=死角)を見つけ出し、新たな創造の可能性を提案した。解析結果を見ると、例えば「配色」では、田中一光は白に顕著な特徴が見られるのに対し、福田と永井は黒がキーカラーだが、ほかの色との関係が対照的だ。そして横尾はほかの3人とはまったく異なる特性を持つ。こうした知見は過去にも批評家の言葉で主観的に示されていたかもしれないが、客観的な数値をもとに3Dヴィジュアルイメージ等で示されると、やはり新鮮な驚きを禁じ得ない。その一方、発見した「死角」を基に制作した4点のポスターは、いまいち魅力に欠けていた。少なくとも現時点では、人間の創造力がコンピューターを上回っているようだ。
2016/05/31(火)(小吹隆文)
メディチ家の至宝 ルネサンスのジュエリーと名画
会期:2016/04/22~2016/07/05
東京都庭園美術館[東京都]
日伊国交樹立150周年を記念して開催される展覧会のひとつ。イタリア絵画を紹介する展覧会がいくつも企画されているが、本展はルネサンス文化発祥の地、フィレンツェに300年に渡って君臨し、芸術のパトロンであったメディチ家に焦点を当て、フィレンツェ・ウフィツィ美術館(銀器博物館)などのコレクションから彼らの肖像画と宝飾品のコレクションを紹介する展覧会。
フィレンツェで商業と銀行業で富をなした老コジモ(1389-1464)、痛風病みのピエロ(1416-1469)、ロレンツォ豪華王(1449-1492)らが同時代の芸術家たちを支援したことは言うまでもないが、他方で彼らは古代ギリシア・ローマのコイン、メダル、彫玉(カメオ、インタリオ)などのコレクターであった。彼らはこれらのコレクションを書斎に飾り、訪れる賓客、美術家たちに見せ、美術家たちはそれを写したり、絵画のモチーフに活かしたと考えられるという。彼らは古代の彫玉を貴金属のフレームで飾り、破損したカメオを金細工で補修し、また同時代の工芸家たちに新しい作品を作らせた。こうした経緯から、本展に出品されている宝飾品は年代別ではなく、蒐集者の視点で構成されている。作品を見るときは制作年代に注意が必要だ。
アーニョロ・ブロンズィーノ(1503-1572)など同時代の著名な画家に依頼して描かれた肖像画は美術品であると同時に一族の歴史を物語る資料だ。ルイジ・ファミンゴ作と推定されているロレンツォの肖像は宝飾品を身につけていない。共和制の都市フィレンツェで、初期のメディチ家の人々は事実上の支配者としての地位を固めつつあったが、形式的には市民であり、商人の伝統に従って、通常は質素な服装で過ごしていた。宝飾品は富を象徴するコレクションであっても、権威を示す用途で身につけられた訳ではないらしい。老コジモの父、ジョヴァンニ・デ・ビッチ(1368-1429)が遺した「公衆の目の届かないところにとどまっていなさい」という言葉に従ったのだろうか。しかし、16世紀以降、君主となったメディチ家の人々にとって、宝飾品は重要な役割を果たすようになったという。とりわけ、メディチ家の女性たちの肖像は膨大な数の宝飾品を身につけている。なかでもフランス王アンリ2世妃となったカテリーナ・デ・メディチ(1519-1589)の肖像に描かれた宝飾品の数々──とくに無数の真珠──には圧倒される。
残された財産目録によってメディチ家の人々が所有していた宝飾品が知られている一方で、肖像画に描かれたジュエリーで現存するものはほとんどないと聞いた。持ち主の経済的な危機において貴金属類は換金され、また衣裳に縫い付けられた宝石類には解体、再利用されたものも多いという。[新川徳彦]
2016/05/23(月)(SYNK)
プレビュー:ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH
会期:2016/06/04~2016/07/18
京都国立近代美術館[京都府]
イギリスを代表するファッション・デザイナーのひとり、ポール・スミスの人生と業績を、約2800点もの作品や資料で回顧する大展覧会。彼の最初のショップや現在のオフィス、デザイン・スタジオなどを再現するほか、歴代コレクション、彼の頭の中のイメージを再現する映像インスタレーション、美術コレクション、私物などが出展され、多角的な視点からポール・スミスのクリエーションの秘密に迫る。なお、本展は2013年にロンドンのデザイン・ミュージアムで開催された展覧会の日本巡回であり、日本では1998年に行なわれた「ポール・スミス トゥルー・ブリット展」に続く2度目の大規模なポール・スミス展となる。
2016/05/20(金)(小吹隆文)
いぬと、ねこと、わたしの防災「いっしょに逃げてもいいのかな? 展」
会期:2016/04/23~2016/05/22
この展覧会でいちばん印象に残ったのは、災害発生時の状況別(ペットとともに在宅中、ペットとともに外出中、ペットを残して外出中)に、避難生活までをシミュレーションしたイラスト入りのチャートだった。東日本大震災の経験、そして本展が始まる直前に熊本から大分にかけて起きた震災の報道で、ペットを同行する避難によってどのようなトラブルが起こりうるか、どのように対策すべきかについては考える機会があった。しかし、災害発生のまさにその時にどのような状況が生じうるかについてはとくに考えたことがなかったことに気づかされた。ペットと一緒にいれば対応できることも、勤務先、外出先で被災し、容易に自宅に戻ることができなかったらどうしたらよいのか。自宅が損壊し、壊れた窓や壁からペットが逃げ出して迷子になったらどうやって見つけたら良いのか。展覧会会場では事前にできる備えから、災害発生時の対応、避難所での生活まで、現在可能な対策のほかに、クリエーターたちによるペット用キャリーや簡易柵などの提案も展示。配布されていたパンフレットは手近なところにおいて、ときどき読み直すようにしようと思う。さしあたり、迷子対策のためにペットの写真を撮ったり、特徴を記したメモを用意しておこう。参加できなかったけれども、迷子ポスターづくりのワークショップはとてもいい企画だ。[新川徳彦]
2016/05/20(金)(SYNK)
MIYAKE ISSEY展:三宅一生の仕事
会期:2016/03/16~2016/06/13
国立新美術館 企画展示室2E[東京都]
三宅一生の仕事展@国立新美術館。大きく分類すると、素材、幾何学、そして日本的なものをいかに組み込むかが切り口となったファッション・デザインである。伝統への意識は、同時代の建築やグラフィックにも共通するテーマだろう。ただし、現在の方が日本らしさの表現はベタかもしれない。建築とファッションを比較した同館のスキン+ボーンズ展のときも、A-POCを天井から吊るして大空間のインスタレーションを展開したが、今回は彼の個展だけにさらにパワーアップしている。
2016/05/19(木)(五十嵐太郎)