artscapeレビュー

プレビュー:小森はるか『息の跡』

2017年01月15日号

会期:2017/02/18

ポレポレ東中野(東京都)、横浜シネマリン(神奈川県)、フォーラム仙台(宮城県)、フォーラム福島(福島県)、名古屋シネマテーク(愛知県)、第七藝術劇場(大阪府)、神戸アートビレッジセンター(兵庫県)

映像作家、小森はるかによる劇場長編デビュー作品。小森は、画家で作家の瀬尾夏美とともに、東日本大震災後、岩手県陸前高田市に移住し、アートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」としての活動を開始。土地の風景や人々の声を、色彩豊かなドローイング、詩的なテクスト、ドキュメンタリー映像によって記録する活動を続けてきた。本作『息の跡』は、山形国際ドキュメンタリー映画祭、神戸映画資料館、せんだいメディアテークでの上映を経て、待望の全国劇場での上映となる。
この映画では、津波によって流された種苗店を自力で再建し、ブリコラージュ的な工夫と知恵をしぼりながら経営する「佐藤さん」の日常が、季節の移ろいとともに約1年間かけて映し出される。さらに、佐藤さんは種屋の経営に加えて、もうひとつ別の仕事も行なっている。それは『The Seed of Hope in the Heart』という被災記録の自費出版であり、震災後に独学で習得した英語と中国語で執筆され、作中では英語の第5版を執筆中であるという。「記録すること」のそれほどまでの執念に彼を向かわせるものは何なのか。なぜ彼は、外国語の独習という困難な試みを引き受けて、「非-母語」で書くことを選択したのか。その答えは、ぜひ映画を見てほしい。
『息の跡』というタイトルは詩的で示唆的だ。吹きかけた息のように一瞬で儚く消えてしまうものと、息を発すること、すなわち「声」の痕跡をとどめること、という相反する契機がそこには読み取れる。本作は、単に「震災のドキュメンタリー映画」を超えて、「記録する」行為や衝動それ自体へのメタ的な言及をはらんだひとつの記録と言えるだろう。
公式サイト:http://ikinoato.com/

2016/12/21(水)(高嶋慈)

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