artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
ぼくと戦争─小池仁戦争体験画展
会期:2016/02/24~2016/04/10
東京大空襲・戦災資料センター2階[東京都]
東京大空襲・戦災資料センターは文字どおり東京大空襲の記録と記憶を伝えるため、2002年に開館した民立民営の施設。場所は地下鉄住吉駅から徒歩15分ほどの江東区北砂。会場はギャラリーというより多目的スペースで、椅子が並んでいたりピアノが置いてあったり、ほかの人の絵や戦災資料なども展示してあるので、どこからどこまでが小池仁の作品かわかりづらい。ここでは作家性や固有名より、戦災体験の記憶と記録を伝えることが重要なのだ。小池の作品は100号前後の大作7点と、A4の紙に描いたスケッチが30点ほど。スケッチは、昨年自費出版した画文集『戦争をしてはならない本当の理由』の原画だという。この出版を機に展覧会を開くことになったようだが、展示のメインはやっぱり油絵の大作7点だ。東京大空襲の被災地・被害者を描いた《焼跡の少年》《燃える人》《1945. 3. 10 TOKYO》などのほか、日の丸を背景に昭和天皇らしき軍服姿の二人の人物を描いた《3月18日のドンキホーテ》と題する作品もある。3月18日(1945)というのは天皇が東京大空襲の焼跡を視察した日だが、事前に死体は片づけられていたというから、その隠蔽工作を皮肉ったものだろう。いずれも主題は重いが、絵柄は表現主義風あり、抽象風あり、キュビスム風?ありと多彩。いろいろ試してみたというより、ひとつのスタイルでは描ききれないほど重く、複雑な体験だったということかもしれない。しかもすべて2000年以降の制作というから、戦後50年以上たたなければ絵にすることさえできなかったということだ。
2016/04/01(金)(村田真)
さいたまトリエンナーレ2016 記者発表会
会期:2016/03/25
日本外国特派員協会[東京都]
この秋さいたま市で開かれる「さいたまトリエンナーレ」の概要発表。ディレクターは芹沢高志で、テーマは「未来の発見!」、おもなアーティストは、秋山さやか、チェ・ジョンファ、日比野克彦、磯辺行久、目、西尾美也、野口里佳、大友良英、小沢剛、ソ・ミンジョン、アピチャッポン・ウィーラセタクンら約40組。ま、要するに各地に乱立するトリエンナーレとかわりばえしないということだ。もちろん展覧会の外枠はかわりばえしなくても、場所が変われば作品も変わる。その意味で、各アーティストが「さいたま」でどれだけモチベーションを高められるかが見どころだ。会期は9月24日から12月11日まで。場所は与野本町駅から大宮駅周辺、武蔵浦和駅から中浦和駅周辺、岩槻駅周辺の3エリア。
2016/03/25(金)(村田真)
MOTアニュアル2016 キセイノセイキ
会期:2016/03/05~2016/05/29
東京都現代美術館[東京都]
入口の正面に、ウオッカをラッパ飲みする女子高生の大きな写真が掲げられ、右側の壁には黒一色の落書きがされている。奥に進むと、陳列ケースに展示物はなく、キャプションだけが置かれた状態……。テーマを知らずに入ったせいか、どの作品も投げやりに見えてあまりいい印象ではない。ここでプレスツアーが始まったのでついていく。今回のアニュアル展は美術館の学芸員だけでなく、アーティストたちの組織「アーティスツ・ギルド」と協働で企画されたこと、社会規範を揺るがしたり問題提起を試みたりする表現行為に焦点を当てたこと、などを知る。なるほど、ウオッカを飲む少女の写真はコスプレイヤー齋藤はぢめの作品で、壁の落書きはルーマニア出身のダン・ペルジョヴスキが表現の自由や検閲批判を表わしたもの。キャプションだけの展示は、東京大空襲に関する資料館の建設計画がストップし、展示物が放置されていることに反応した藤井光のインスタレーションということだ。こうして解説を聞くと、表現の規制を問題にするといういささか挑戦的な企画の枠組みが見えてきて、最初の印象は修正しなければならない。昨年、会田誠の作品をめぐって撤去騒動を起こした同館だけに、よくぞ企画が通ったもんだと感心する。その一方で、「あなた自身を切ることができます」とのコメントとともに包丁を壁に突き立てた橋本聡の作品には、透明アクリルケースがすっぽり被せられているし、高さ2メートルほどのフェンスを設け、その向こうに「フェンスを乗り越え、こちら側に来ることができます」と書いた同じ作者の作品の手前には「作家の意図とは異なりますが、危険ですので登らないでください」との注意書きがある。そのチグハグさには笑ってしまうが、この作品は同展においてこの自主規制によって成就したともいえる。ほかに、「小学生以下はお控えください」と「中学生以下はお控えください」という2コースを設けた(素人目には違いがわからない)横田徹の戦闘シーンの映像や、妻の自殺現場を写した古屋誠一のコンタクトプリントなど、かなりハードな展示も。
2016/03/04(金)(村田真)
スタジオ設立30周年記念 ピクサー展
会期:2016/03/05~2016/05/29
東京都現代美術館[東京都]
「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」「アーロと少年」など、高度なCGアニメを生み出してきたピクサー社のアーティストやデザイナーによるドローイング、パステル画、デジタル画、彫刻、ゾートロープなど約500点を展示。アートかどうかは別にして、これは楽しい。「平面に描かれたアートワークを、デジタル技術を用いて動きのある動画コンテンツへと生まれ変わらせ、幅10メートルを超える大型スクリーンに投影するインスタレーション」もあって、これを「アートスケープ」と呼ぶそうだ。どっかで聞いたことあるような。
2016/03/04(金)(村田真)
三軒茶屋 三角地帯 考現学
会期:2016/01/30~2016/02/28
世田谷文化生活情報センター 生活工房[東京都]
世田谷通りと国道246号線に挟まれた三軒茶屋のデルタ地帯、通称・三角地帯。極小の飲食店やアーケード商店街、銭湯などがひしめき、それらのあいだを細かい路地が縫うように走っている。再開発が進められている周囲の街並みとは対照的に、この一帯だけ昭和で時間が止まったかのようだ。
本展は、この「三角地帯」をフィールドにした考現学的調査の結果を報告したもの。考現学とは、今和次郎らによって実践された都市風俗の観察と記録の活動で、それらの結果を手書きのイラストレーションや図表、テキストによってレポートした。本展もまた、そのようなメディアを用いている点では考現学と変わらない。けれども考現学と大きく異なっているのは、その調査のテーマ。通行人の歩行経路をはじめ、呑み屋で提供されるビールの銘柄やお通しの種別、スナックで歌われるカラオケの曲目など、それらの大半は知られざる呑み屋街の生態を解き明かすものだ。その点では、入りにくい居酒屋の内側にテレビカメラを向ける「街レポ」に近い。あるいは、それらの調査が調査主体の経験に裏づけられている点で言えば、「考現学」というより、むしろ「体験記」というほうが適切かもしれない。三角地帯の中だけでタオルや下着などを調達して千代の湯に入る、しまおまほによるテキストも、まぎれもなく「体験記」である。
だが、今和次郎らによる考現学は明らかに「体験記」ではなかったし、「街レポ」でもなかった。それは、こう言ってよければ、きわめて変態的な調査だった。丸の内のOLが昼休みにどのように行動するのか、彼女たちを尾行して経路を記録したり、井の頭公園での自殺者の分布図を整理したり、考現学の特徴は観察と記録よりもむしろ調査の主題の独自性にあった。平たく言えば、誰も見向きもしないような主題を馬鹿正直に追究することによって都市風俗の生々しい一面を浮き彫りにするところに考現学の真髄があったのだ。
「考現学」を冠した本展は、そのような意味での変態性に乏しく、きわめて常識的であり、それゆえ考現学が持ちえていた芸術性を見出すことはできなかった。おそらくテレビや雑誌などのマスメディアで消費されるコンテンツとしては十分なのだろうが、それは芸術的な価値とは本来的に関係がない。
2016/02/22(月)(福住廉)