artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
アウトシュタット
[ドイツ、ヴォルフスブルク]
車の街につくられたアウトシュタットは、クルマのテーマパークというか、未来的なパヴィリオンが並ぶ万博会場のようだった。やはり透明な円筒の双塔となったカータワーが圧巻である。想像以上の高速で自動車を出し入れ、上下に移動させる機械仕掛けの実演が度肝を抜く。また、建築としては、水面にはり出すニーマイヤー、あるいはザハ風のポルシェ館が優れていた。
写真:左=カータワー、右=ポルシェ館。水面に張りだした屋根の下
2015/09/20(日)(五十嵐太郎)
プレビュー:鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~
会期:2015/10/24~2015/12/26
アートエリアB1[大阪府]
京阪電車「なにわ橋駅」構内という独特のロケーションを生かし、鉄道と芸術をテーマにした「鉄道芸術祭」を毎年開催しているアートエリアB1。今年は写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、駅、ホーム、車両などの鉄道環境や、京阪電車沿線を独自の視点でリサーチした作品展示を行う。出品作家はホンマの他、黒田益朗(グラフィックデザイナー)、小山友也(アーティスト)、NAZE(アーティスト)、PUGMENT(ファッションブランド)、蓮沼執太(音楽家)、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ(アーティスト)の計7組。ホンマは6月から断続的に大阪に滞在し、京阪沿線でカメラオブスキュラの手法で作品を制作、それらのうち光善寺駅のカメラオブスキュラを限定公開する他、小津安二郎へのオマージュ、リュミエール兄弟の作品上映などを行う。他のゲストアーティストたちは、写真、模型、映像、ドローイング、音響作品を出品する予定だ。
2015/09/20(日)(小吹隆文)
ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展
会期:2015/09/19~2015/11/23
兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F[兵庫県]
近年、日本の美術館では、マンガやアニメをテーマにした企画展が増えている。その理由は、日本の文化シーンにおいて、マンガ、アニメの存在が無視し難いほど巨大になったことが挙げられる。また、これまで美術館に来なかった客層を取り込む、美術館の動員実績を上積みするためにマンガ、アニメを利用するなどの思惑もあるだろう。その理由がいずれにせよ、これまでのマンガ、アニメ展は人気作家・作品の個展がほとんどだった。その点で本展は、1989年(手塚治虫の没年)以降の日本のマンガ、アニメ、ゲーム史を概観している点で画期的だ。展示構成はマンガが少なめで、アニメとゲームに多くを割いていた。特にゲームにここまで注力した企画は極めてレアで、それだけでも開催の価値が感じられる。この神戸展は先に行われた東京展よりも会場が狭かったため、縮小版になってしまったのが残念だ。それでも本展が関西で行われた事実は、今後重要な意味を持つだろう。
2015/09/18(金)(小吹隆文)
六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015
会期:2015/09/12~2015/11/23
六甲山上のさまざまな施設を舞台に現代アート作品の展示を行い、アートと六甲山の魅力を同時に満喫できるイベント。6回目を迎える今年は約30組のアーティストが出品し、会期中にはパフォーマンスやワークショップなど多彩な催しも行われている。筆者が毎年楽しみにしているのは、六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムに至るルート。ここでは、貝殻のような陶の小ピースを森の中に散りばめた月原麻友美の《海、山へ行く》と、旧六甲山ホテルの電気スタンドを組み合わせて光と音がコール&レスポンスする久門剛史の《Fuzz》がお気に入りだった。また、六甲有馬ロープウェーで大規模なインスタレーションを行っている林和音の《あみつなぎ六甲》と、六甲ガーデンテラスで光とオルゴールを駆使した作品を夜間に展示している高橋匡太の《star wheel simfonia》もおすすめしたい。そして、今年にはじめて会場となった旧六甲オリエンタルホテル・風の教会では八木良太が音の作品《Echo of Wind》を出品しており、安藤忠雄建築との充実したコラボレーションが体験できる。作品、展示、環境、ホスピタリティが高いレベルで安定しているのが「六甲ミーツ・アート」の良い所。関西を代表するアートイベントとして、胸を張っておすすめできる。
2015/09/11(金)(小吹隆文)
ペコちゃん展
会期:2015/07/11~2015/09/13
平塚市美術館[神奈川県]
「ペコちゃん」とは、言わずとしれた不二家の公式キャラクター。あの前髪を切りそろえ、舌を出した女の子といえば、誰もが思い浮かべることができるだろう。1950年、同社の製品「ミルキー」の発売とともに生誕して以来、60年以上にわたって親しまれてきた、大衆的なアイコンである。
本展は、ペコちゃんというイメージの変遷を追うもの。店頭人形をはじめ卓上人形、文具、新聞広告、テレフォンカード、書籍、マッチラベルなど、さまざまな形態によって表わされたペコちゃんを一堂に集めた。さらに、ハローキティや水森亜土、初音ミクなどとペコちゃんのコラボレーション、レイモンド・ローウィやアントニン・レーモンドが不二家で行なった仕事なども併せて紹介された。まるで不二家の企業博物館のような展観である。
しかし、それだけではない。会場の後半には、現代美術のアーティストたちがペコちゃんを主題にした作品が展示されていた。参加したのは、小林孝亘や西尾康之、町田久美、三沢厚彦ら17名。それぞれペコちゃんというアイコンを主題として作品に取り入れたわけだが、興味深いのは、表現は異なるにもかかわらず、いずれもペコちゃんのかわいい一面より、恐ろしい一面を強調しているように見えた点である。
例えば西尾康之は、例によって陰刻という手法でペコちゃんの立体像を造形化したが、バロック的な細密表現に加えて、ペコちゃんの眼球を過剰に見開かせ、リボンで結った髪の毛の先を手の指にするなど、ペコちゃんの異形性を極端に誇張している。ペコちゃんとポコちゃんの肖像を描いた三沢厚彦のペインティングにしても、瞳孔が全開で、しかも眼球は黄色いため、恐ろしさしか感じない。町田久美の平面作品ですら、口元だけを赤く塗り重ねることで、舌なめずりするペコちゃんの猟奇的な要素が際立っていた。
だからといって、現代美術のアーティストたちはペコちゃんというアイコンを冒涜しているわけでは決してない。それが証拠に、改めて展示の前半に陳列されたさまざまな形態のペコちゃんを見なおしてみれば、ペコちゃんの原型のなかに、誰もがそのような異形を見出すにちがいないからだ。ペコちゃんは、たんにかわいいキャラクターにすぎないわけではない。それは、本来的におどろおどろしい一面を内包しているのであり、本展に参加した現代美術のアーティストたちは、いずれもその一面に着目し、さまざまな手法でそれを巧みに引き出して表現したのである。
その意味で、ペコちゃんの二重性をもっとも巧みに表現していたのは、川井徳寛による《相利共生(お菓子の国~守護者の勝利~)》だろう。これは、ペコちゃんと同じように赤いリボンをつけた女の子のまわりを、たくさんの天使たちが飛び回っている絵画作品。宗教画のような神聖性を帯びているが、よく見ると天使たちはみなそれぞれペコちゃんとポコちゃんの仮面をつけている。だが、その下の天使たちの顔を注意深く見てみると、彼らは一様に無表情なのだ。「天使」という属性にふさわしからぬ、一切の感情を欠いた冷たい顔。仮面が本性を隠蔽する表皮だとすれば、天使の素性は冷酷無比な非人間性ということになる。川井は、愛らしさと恐ろしさが同居するペコちゃんの二重性のみならず、それを天使の仮面として相対化することで、人間と非人間の二重性にまで敷衍させたのである。
2015/09/04(金)(福住廉)