artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

いま、被災地から ─岩手・宮城・福島の美術と震災復興─

会期:2016/05/17~2016/06/26

東京藝術大学大学美術館 本館展示室[東京都]

途方もない若冲展の大行列を横目に、東京藝大の大学美術館「いま被災地から─岩手・宮城・福島の美術と震災復興─」展へ。第一部は東北地方の近現代美術を紹介しており、めずらしく人型を用いた青野文昭の新作も楽しむことができた。第二部は、各地で被災した作品レスキューのドキュメントと修復された作品の展示である。ビフォーとアフターを比べると、それがいかに大変な作業なのかがよくわかる。

2016/05/18(水)(五十嵐太郎)

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アートフェア東京 2016

会期:2016/05/12~2016/05/14

東京国際フォーラム ホールE&ロビーギャラリー[東京都]

古美術と現代美術のアートフェアも11回目。今回は海外19ギャラリーを含め計157軒の出展で過去最大らしい。アートマーケットも少しは活気づいてるのかな。おもしろいのは「100KIN」企画。昨年1月から税制が改正され、これまで20万円未満の「書画・骨董」しか減価償却資産の対象にならなかったのが、改正後は「美術品」も対象になり、金額も100万円未満に引き上げられたという。つまり100万円までの美術品が減価償却の対象になったので、さっそく各画廊とも100万円未満の作品を特別展示エリアで展示・販売したってわけ。米田知子とか佐藤翠とか森万里子とか出てるけど、彼女たちの作品が減価償却されるって、どうなの?

2016/05/13(金)(村田真)

人造乙女美術館

会期:2016/04/26~2016/05/22

ヴァニラ画廊[東京都]


ラブドールの展覧会。同画廊は、この分野の最大手であるオリエント工業が制作したラブドールの展覧会を4回催してきたが、今回は美術史家の山下裕二を監修に迎え、日本画とラブドールのコラボレーションを実現させた。日本画家の池永康晟による《如雨露》に描かれた女性をモチーフにした作品をはじめ、7体のラブドールが展示された。
注目したのは、やはり立体造形の技術的な完成度。頭と首を接合するうなじに不必要な線が入っていたり、着物がいかにも安っぽかったり、いくつかの難点が見受けられたにせよ、それでも人体の忠実な再現性という点では、いまやラブドールの右に出る造形はないのではないか。そのことをもっとも実感するのが、肌の質感である。これまでの展覧会と同様に、すべてではないにせよ、来場者は展示されたラブドールを部分的に触ることができた。
その質感を正確に形容することは難しい。むろん人肌そのものとは言えないが、だからといって機械的な無機物というわけでもない。ただ、その独特の質感は、ラブドールを性的な愛玩具という機能を超越する何ものかにさせているように思えてならない。今日のラブドールは、ある種の立体造形として正当に評価されるべきではないか。
しかしラブドールへの偏見は根強い。同展で来場者に配布されたパンフレットに掲載されたオリエント工業の造形師やメイクアップアーティストへのインタビューには、ラブドールがそのような日陰者的な扱いを受けていたことが記されているし、何より彼らの顔写真で顔が伏せられていることからも、その穿った見方が依然として持続していることを如実に物語っている。
ただ立体造形としてのラブドールの評価を妨げているのは、社会的な視線だけではない。ラブドールの造形そのものの内側にも、その要因は折り畳まれている。例えば、顔面や身体のプロポーションの面で、少なくともオリエント工業のラブドールには、ある一定の偏りがあることは否定できない。ロリータフェイスと豊満なボディの組み合わせは、ラブドールに求められる機能を満たすうえでの必要条件なのかもしれないが、これが定型的なイメージをもたらしていることもまた事実だ。顔の印象を大きく左右するメイクにしても、どういうわけかみな同じようなメイクに見える。ようするに、ラブラドールにはほとんど多様性が認められないのである。
人間の生活や身体と密着した造形。近代美術が見失ってしまった造形のありようを、ラブドールが実現していることは疑いない。その可能性を育むには、ラブドールの定型を打ち砕く、造形的な挑戦が必要ではなかろうか。

2016/05/13(金)(福住廉)

薬草の博物誌 ──森野旧薬園と江戸の植物図譜──展

会期:2016/03/03~2016/05/21

LIXILギャラリー

森野旧薬園は奈良・大宇陀にある日本最古の私設植物園。江戸幕府8代将軍徳川吉宗が推進した薬種国産化政策の一端を担うものとして、享保14年(1729年)に森野初代藤助通貞(賽郭)が開設した。森野家は450年に渡って葛粉の製造を生業としてきた家で、同時に現在に到るまで子々孫々薬園の維持管理を行ってきた。賽郭は幕府の薬草調査に協力した功により外国産薬種の種苗を下賜され、薬種の育成・栽培を行うほか、薬学・博物学の祖である本草学を修め、晩年には植物・動物1003種を描いた『松山本草』を完成させた。門外不出であったこの『松山本草』全10巻は、大阪大学によってデジタル化されている。本展では、森野旧薬園とこの『松山本草』を導入に、江戸期の植物図譜の発展と、明治期以降の近代植物学への展開をみる。
本展と重なる期間にパナソニック汐留ミュージアムで展示されていたイギリス・キュー王立植物園所蔵のボタニカルアートと江戸の本草書を比べると、前者は美術作品としての完成度が高いのに対して、後者ははるかに実用性が重視されている様子がうかがえ、また薬種として重要な根が丁寧に描かれていたり、植物以外に動物も描かれている。日本の本草学が薬学から始まり博物学的な様相を呈していたことを考えれば、この違いは当然。本展は最後に牧野富太郎が本草学と近代植物学の架け橋となったとするが、描かれてきたものの違いを見れば、これは東洋の本草学を西洋的な植物学の文脈に無理やりに当てはめようとしているように見える。また牧野富太郎以外、明治以降の日本の植物学に本草学がどのように影響したのかについて、本展では示されていない。歴史的に連続しているのか断絶なのか、はたまた本草学は薬学や博物学といった別の体系に組み込まれていったのか。疑問が残る。[新川徳彦]

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2016/05/10(火)(SYNK)

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analog(DIY印刷加工スタジオ)

[宮城県]

アーティストのO JUNさんらと展覧会の企画打ち合わせを兼ねて、仙台のDIY印刷加工スタジオ「analog」を訪問した。せんだいスクール・オブ・デザインのスタジオで前衛的な装丁の雑誌『S-meme』を制作していたときにお世話になった菊地充洋が運営している。いろいろな機械が設置されており、さまざまな印刷と製本加工の技術を使えるスタジオである。

2016/04/25(月)(五十嵐太郎)