artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

“19世紀洋装店” Sincerely10周年展

会期:2016/06/07~2016/06/12

同時代ギャラリー[京都府]

最初に断っておくが、本展は美術展ではない。19世紀英国の女性服を再現し、21世紀の街着として再構築したファッションブランド「Sincerely」の10周年を記念した展示・販売会である。会場には19世紀を舞台とする映画やテレビ番組で目にしたことがあるような服がズラリと並んでおり、最初はコスプレイベントと勘違いしたほどだ。しかも「1810年代」「1820年代」と10年刻みで当時の流行を忠実に再現しており、服飾史家も脱帽のディープな研究ぶりが伝わってくる。さらに驚くべきは、これらの衣服には現代人が日常生活で使えるよう、細かなアレンジが施されているのだ。例えば、当時は他人の手助けなしに着られなかった服を1人でも着られるようにする、自宅で洗濯できるようにする、というように。いやもう、本当にすごい。ただただ唖然として、会場内をグルグル回る筆者であった。

2016/06/10(金)(小吹隆文)

考古資料展示開催記念対談 松木武彦×五十嵐太郎「先史のメディア論」

会期:2016/06/06

東北大学トンチクギャラリー[宮城県]

朝日新聞の書評委員会で松木武彦『美の考古学』に最優先の花丸をつけたにもかかわらず、担当をとれなかったために本を購入したのだが、五十嵐研の縄文展示プロジェクトを担当する学生に推薦したら、読書会が盛り上がり、とうとう著者を招く企画が実現した。松木は、文字がない時代ゆえに、土器や石斧などのモノと徹底的に対峙し、人間の普遍的な認知パターンと絡めて、当時の思考を読みとく。上部構造から歴史をとらえ返す試みでもある。彼の考え方は、デザイン、建築、アートの関係者にとっても興味深いだろう。

2016/06/06(月)(五十嵐太郎)

BankART AIR オープンスタジオ 2016

会期:2016/05/27~2016/06/05

BankART Studio NYK[神奈川県]

50組のアーティストが2カ月間BankARTの2フロアをスタジオとして使用、その成果を発表している。成清北斗は苗字の「成」の字を円で囲んで大きな看板にし、赤く塗ってBankARTの外壁に飾った。2カ月間これつくってたんかい。台湾から来た廖震平は、横浜の風景をフレーミングして半抽象画に仕上げている。なかなか丁寧な仕事だ。片岡純也は透明な四角柱の上からコピー用紙を1枚ずつ落下させる装置を制作。紙はバランスよく水平を保ったままゆっくりと落ちていく。それだけだけど、お見事。アートファミリー(三田村龍神+わたなべとしふみ)の三田村は寺の坊主でもあり、仏教に親しんでもらうために映像を制作。お堂のなかで笑いながらパフォーマンスしていてなんだか楽しそうだ。河村るみは、壁にドローイングしているところを映像に撮り、それを壁に投射しているところにドローイングを重ね……という行為を延々繰り返していくパフォーマンス映像。時間と空間のズレが視覚化されていておもしろい。以上、50組中5組に注目。打率1割、まあまあだ。

2016/06/05(日)(村田真)

パーマ屋スミレ

会期:2016/05/17~2016/06/05

新国立劇場 小劇場 THE PIT[東京都]

鄭義信「パーマ屋スミレ」@新国立劇場。在日コリアンをめぐる三部作のラストを飾るものだ。高度経済期に男たちは炭鉱事故の後遺症や産業の衰退に苦しみ(理想の社会を求めて、北朝鮮に向かうものもいる)、一方、南果歩ら演じる三姉妹の女たちは厳しい暮らしのなかでも、たくましく生きようとする。最初、3時間弱は長いと思ったが、この尺でないと表現できない時間の流れと町の記憶を感じさせる作品だった。

2016/06/04(土)(五十嵐太郎)

ポール・スミス展 HELLO,MY NAME IS PAUL SMITH

会期:2016/06/04~2016/07/18

京都国立近代美術館[京都府]

ファッションの展覧会といえば、歴代のコレクションがズラリと並ぶ服飾展を連想するのが当然だ。しかし本展の主役は、イギリスを代表するファッション・デザイナーであるポール・スミス自身。彼が10代の頃から収集してきた約500点もの美術品や、雑然としたオフィスやデザインスタジオ、わずか3メートル四方の第1号店などの再現、一風変わった郵便物、自身の頭の中をテーマにした映像インスタレーション、ストライプのカラーリングを施したミニ(自動車)とトライアンフ(バイク)などが並び、歴代コレクションは最後にやっと登場するといった具合だ。展示総数は約2800点。あまりにも数が多くて集中力が続かないほどだが、ポール・スミスの人柄は確かに伝わった。きっと彼は、デザイナーである以上に、プロデューサー体質なのだろう。でなければこんな展覧会は実現しない。記者発表には本人も出席し、気さくなリアクションを連発していたのが印象的だった。その席で英国のEU離脱問題について彼がどう考えているか聞きたかったが、タイムオーバーで質問できなかったのが残念だ。

2016/06/03(金)(小吹隆文)

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