artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
大駱駝艦・天賦典式『パラダイス』

会期:2016/06/30~2016/07/03
世田谷パブリックシアター[東京都]
白を基調とした赤と緑の淡い色彩世界。「ゆるふわ」(信じられないかもしれないが、そんな女子向け形容詞が一番適切なのだった)の照明センスに、冒頭、驚かされる。「白」はダンサーたちの白塗り(本作のもう一つの基調は、男性のみならず女性ダンサーたちもほぼ全裸で白く塗られているところだった)とも反響する。舞踏らしからぬこの雰囲気が、大駱駝艦の今日的リアリティを強調している。20歳の観客があらかじめ情報に触れることなしに見たら、これはクレイジー・ホースと比べたくなる「奇怪なヌードショー」に映ることだろう。舞踏が積み重ねてきた歴史や伝統的側面を観客に反芻させるといった保守主義に一切与しない。だからこそのふわふわとした浮遊感。音楽になぞらえれば、その浮遊性はクラブ音楽的(テクノ音楽的)ということもできよう。短い動作をひたすら反復する。反復したら別の短い動作に変わる。起承転結のような展開は乏しく、「上げ」と「下げ」のみある。反復される短い動作は、GIFアニメのように淡々としている。そして、決してはみださない。ダンサーたちは、その鉄の掟のような「動作の反復」の奴隷である。はみださないのははみだせないからで、生物が遺伝子のプログラムに抗えないように、ダンサーたちは反復の連続というプログラム(振り付け)に抗えないようだ。タイトルの「パラダイス」とは、キリスト教的な背景を感じさせるもので、実際、知恵の実のごときリンゴをかじる場面も出てくる。パラダイスから追われても(そして自由を獲得しても)、人間の行なうことには限界があり、結局、遠く旅立ったようで、出発点に戻ってしまう。さて、大駱駝艦を見る際には、メタ的な物語から目をそらすことができないものであって、「ゆるふわ」な冒頭の色彩の下で、中心に直立する麿赤兒から放射線状に鎖が伸びてメンバーたちを縛っているさまは、このグループの師弟関係を連想させずにはいない。メンバーたちは鎖を外し、麿を置いて行く。ラストシーンでも、この「縛り」を「解く」場面が繰り返される。大駱駝艦ほど、若手と師匠が仲の良いグループは珍しい。それは単に師弟関係という以上に、世代の異なる者たちが共同で制作しているということでもあり、あらためて驚かされる。この仲の良さが、優しい「パラダイス」そのもののようでもある。
2016/07/01(金)(木村覚)
「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」企画発表会

会期:2016/06/28
上野精養軒[東京都]
この秋、茨城県北部で開催される芸術祭「KENPOKU ART 2016」の記者発表。これだけ国際展や芸術祭が増えてくると、よっぽど大金かけて海外の大物アーティストを呼ぶとか、ケガ人続出みたいな気の狂った企画を立てないと注目を集めないが、「KENPOKU ART」はどちらでもない。裏返せばとても真っ当な、もっといえば優等生的な芸術祭になりそうだ。まずテーマだが、「海か、山か、芸術か?」。テーマになってないが、田舎でやるんだという意気込みというか開き直りは伝わってくる。場所は日立市や高萩市など5市1町、のべ1,652平方キロ(越後妻有の2倍強)におよぶ広大な地域だが、そこにまんべんなく作品を点在させるのではなく、見に行きやすいように「日立駅周辺」「五浦・高萩海浜」「常陸太田鯨ヶ丘」「奥久慈清流」の4つのエリアに分け、作品を集中させるという。よくも悪くも越後妻有ほど非常識ではないのだ。総合ディレクターは森美術館館長の南條史生、キュレーターには札幌国際芸術祭にも関わった四方幸子の名前も。出品作家はミヒャエル・ボイトラー、藤浩志、日比野克彦、石田尚志、イリヤ&エミリア・カバコフ、妹島和世、須田悦弘、チームラボなど約20カ国から100組近く。地域の人たちとの対話を通して作品プランを組み立てるアートハッカソンを実施して選出したり、県南部のアーティスト・イン・レジデンス「アーカス」の経験者や、伊藤公象、國安孝昌、田中信太郎といった地元作家も入れ込んでバランスをとっている。海あり山あり芸術もあり、ちゃっかり各地の芸術祭の「いいとこどり」をしているような印象もある。後出しだからなあ。でもひとつ感心したのは、県知事で実行委員会会長の橋本昌がとても熱心なこと。会場からの質問も人任せにせず、みずから積極的に答えていた。トップが引っぱっている。出しゃばりすぎなければ最強だ。
2016/06/28(火)(村田真)
プレビュー:わたしは、春になったら写真と劇場の未来のために山に登ることにした

会期:2016/08/26~2016/08/28
アトリエ劇研[京都府]
京都を拠点に活動する同世代の演出家と写真家、それぞれ2組が、演劇/写真/ダンスの境界を交差させ、対話を通じた共同制作を行なう2本立ての企画。2013年~15年に毎年開催されたDance Fanfare Kyotoでの「×(カケル)ダンス」(御厨亮企画)で試みられた、異ジャンルのアーティストによる共同制作を引き継ぐ試みである。
「身体の展示」として展覧会も行なうダンサー・振付家・演出家の倉田翠(akakilike)は、「家族写真」というフォーマットを足がかりに、セルフ・ポートレイトを中心に制作する前谷開と組む。一方、俳優の言葉と身体の関係性に取り組む演出家・和田ながら(したため)と、写真イメージと物質の関係性を考察する守屋友樹は、ある「登山の経験」の共有をパフォーマンスに仕立てる予定。前谷は、カプセルホテルの内部の壁に落書きしたドローイングとともに撮った全裸のセルフ・ポートレイトや、同居人の後ろ姿になりすまして撮ったポートレイトなど、「私性」の中に身体的行為の痕跡やフィクショナルな要素を混在させた写真作品を制作している。また、守屋は、ある固有の山や岩が写真という媒介を経ることで、形態や色彩といった視覚的情報に置換され、布やネオン管といった物体/光を用いた見立てへと空間的に増殖していくような展示をつくり上げている。それぞれに身体性や空間性への意識を見せる2人の写真家が、演劇やダンスの時空間とどう関わり合うのか、期待される。
2016/06/27(月)(高嶋慈)
ロベール・ルパージュ「887」(日本初演)
会期:2016/06/23~2016/06/26
東京芸術劇場プレイハウス[東京都]
現代詩の困難な暗唱を経験したことを契機に、逆に忘れがたい個人の記憶を辿り始める。劇中、記憶の宮殿に言及したように、映像を駆使しつつ、舞台装置が回転・変形しながら、過去のアパート、部屋、風景が次々と現われ、場所とともにそれぞれの思い出が蘇る。ギミックたっぷりの技巧にも驚かされるが、圧巻のひとり芝居だった。
2016/06/26(日)(五十嵐太郎)
山田うん『バイト』

会期:2016/06/25~2016/06/26
ArtTheater dB Kobe[兵庫県]
前作『ディクテ』から5年振りとなる新作ソロ長編。『バイト』はヘブライ語で「家」を意味し、『ディクテ』の創作中に出会ったイスラエルの詩が基になっているという。テレサ・ハッキョン・チャが1982年に著した『ディクテ』は、冷戦構造下で強まる軍国主義体制から逃れるために韓国からアメリカへ移住した自身の経験と、日本の植民地支配により母語を剥奪された母親の記憶が重ねられ、母語の外への移動と異言語の学習が伴う身体的苦痛が、英語、フランス語、ハングルや漢字の挿入など多言語を駆使して記述されるテクストである。この異種混淆的なテクストをダンスに置き換えた山田の公演は、『ディクテ』冒頭に登場する「フランス語の書き取り練習」の再現で始まり、バッハのマタイ受難曲、韓国のパンソリ、日本の唱歌など、複数の言語で歌われる楽曲とともに踊り、観客に向けて語る身体と踊る身体、2つの主体のズレを接合させようとするなど、言語的な仕掛けが強いものだった。
一方、本公演『バイト』では、言語的な要素はより抑えられている。代わりに特徴的なのが、音響的分裂と多重化である。弦楽器の優雅な調べ/中近東のエキゾチックな歌唱/ガヤガヤと聞き取れない話し声/ピアノの音……。そこへ、機関銃か激しい放電を思わせるビートがかぶせられ、山田の身体も同じくらいの熱量を発して激しく踊る。複数の音響の多重化にかき回されるように踊る身体。官能的な陶酔、歓び、怒り、挑発、そして祈りのように差し伸べられる手。この、激しい感情を抱えた踊りは、『ディクテ』でも同じだった。魅了される熱狂の渦の中から、観客席への鋭い一瞥が矢のように飛んでくる。自己の内部への没入と、外へ向かう意識をパルスのように同時に発しながら踊る山田は、しかし優れたユーモアも持ち合わせている。
本作では、激しいダンスの熱を静めるかのように、見立てを駆使して想像力が広がるようなシーンが展開された。綿菓子のような白いふわふわの塊を手にした棒から吊り下げ、一緒に舞台上を散歩するようなシーンでは、朝焼けのように移り変わる美しい照明とあいまって、子どもの無邪気な遊びが、世界の創造へと変貌するような感覚を覚える。一方、ジョウロを背中に背負って登場したシルエットは、機関銃を背負っているようにも錯覚され、どきりとさせられる。遊戯的な連想と、激しく身を蕩尽するダンスと、観客への挑発が入り混じり、深い余韻を残す公演だった。
2016/06/25(土)(高嶋慈)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)