artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
ローザス「ドラミング」
会期:2015/04/16~2015/04/18
東京芸術劇場プレイハウス[東京都]
東京芸術劇場プレイハウスにて、ローザスの「ドラミング」を見る。この楽曲から刺激されるクリエイターは多いが、あまりメカニカルな感じではなく、12人のダンサーが自律的でありながら、相互影響しつつ、優雅に華麗に、そして複雑に折り重なっていく。どうやって、全体が振付けられているのか、感心させられる。
2015/04/16(木)(五十嵐太郎)
地点『CHITENの近現代語』

会期:2015/04/15~2015/04/16
アンダースロー[京都府]
明治期に制定された大日本帝国憲法に始まり、終戦の詔勅(玉音放送)、日本記者クラブでの昭和天皇の会見記録、夏が巡るたびによみがえる敗戦の記憶を扱った朝吹真理子の小説『家路』と、戦後の被爆者の生に触れた別役実の戯曲『象』という2編のフィクションを経由して、改正問題で揺れる現在の日本国憲法へ。『CHITENの近現代語』は、日本の近代の始まりから敗戦を経て現在へ至るまでのさまざまなテクストを引用し、コラージュすることで構成された演劇作品である。断片化されたテクストが、5人の俳優たちによって、アクセントや分節、音程やスピードを変幻自在に変化させて発語されることで、意味内容の伝達よりも音響的現前として迫ってくる。とりわけ、冒頭での大日本帝国憲法のシーンが圧巻。暴力的なまでに切り刻まれたテクストが、俳優の身体という楽器によってポリフォニックに奏でられ、戦慄的なまでに美しい。テクストの分裂、複数の声が口々に発語する多重化、詠唱のようにハーモニックな和音の同調性が共存することで、意味が破壊されたテクストの残骸が音響的に空間を漂っていく。あるいは、アコーディオンで、切れ切れの音程で引き裂かれるように奏でられる君が代の旋律の美しさ。
だがこの美しさは、単純な賛美ではない。アコーディオンの奏者は目を頑なに閉じ、両側から支えられないと自立できず、アコーディオンの蛇腹を他者に引っ張ってもらわずには演奏ができない。俳優たちの身体には常に外部からの圧力や負荷がかかっている。重力に抗えずくずおれる身体。あるいは機能不全や麻痺に陥る硬直した身体。それは発語を強要する負荷なのか、声を奪い沈黙させようとする圧力なのか。『CHITENの近現代語』は、空間(観客と今ここで共有する空間、日本語という共有空間、歴史と接続した空間、社会的現実と地続きの空間)に、俳優の身体性と音響的現前によって楔を打ち込もうとする。発語する複数の声たちは、「わたし」/「あなた」の指示的関係の中で幾重にも分裂し、「臣民/国民」として数値化され、「日本語」という言語的共同体の中にいくつものひび割れと異質さを打ち込んでいく。コラージュ素材として用いられるテクストの多様性もまた、祝詞のような大日本帝国憲法の御告文、戯曲の中の会話体、終戦の詔勅、議会での演説といった文体の差異を際立たせるとともに、声の主体のありかを問いかける。国家、国民、固有名を持った個人、「朕」という特殊な一人称……。ここでは、言語的パフォーマンスとその圧倒的な強度によって、言語的共同体の出現とその解体をもくろむことが仕掛けられている。

写真撮影:Hisaki Matsumoto(2枚とも)
2015/04/16(木)(高嶋慈)
Aokid《KREUZBERG》(第12回グラフィック「1_WALL」展)

会期:2015/03/23~2015/04/16
ガーディアン・ガーデン[東京都]
Aokidが第12回グラフィック「1_WALL」でグランプリを獲得した。Aokidは10代でブレイクダンスの世界で活躍し、その身体性を活かして、コンテンポラリー・ダンスの分野で、いやその枠では収まりきれない独特のスタンスで、ダンスをつくり続けている。そのダンサーAokidにはまた別の才能があった。「1_WALL」でのグランプリというかたちで、今回それは評価された。ただ、彼のダンサーとしての才能とグラフィック(イラストレーション)の才能は、相補的なものではないかと僕は思っている。Aokidのダンスはまるでイラストのようだ。身体の重さに頓着しないで、まるでソフビの人形を乱暴に扱う子どものように自分の身体を扱う。その手法の一端は、ブレイクダンスに由来するのだろう。けれども、イメージはそうしたテクニックの幅を超えて自由に羽ばたく。Aokidのダンスは、だからあえていえば二次元的なのだけれど、対して今回の彼のグラフィックでの試みは、イラストを「立てかける」といったもので、これもあえていえば二次元を三次元に化けさせるという試みだろう。イメージに物理的な居場所を与えたというべきか。すると、彼のイメージ宇宙は、物理空間へと一歩踏み出す。これを、20世紀のアメリカの美術史をコンテクストにして整理することは容易いだろうが、むしろそうした美術史をかすめつつも、そこからさらに日本の「つい立て」や「ふすま」などのコンテクストへとスライドできる柔軟な広がりにこそ、注意を傾けるべきだろう。ちっちゃいものに向けたささやかな遊び心。そうした遊び心が、建築的な思考へと突き進み、さらに街作りへと思考が展開する。Aokidは何年も前からAokid Cityというイベントを行なっているが、彼が用いる「City」の意味合いが、実際こうした「立てかける」を発端に、イメージが自由に三次元化して踊りだすという発展的な状況を予示していたのだとわかってくる。ファンタジックなイメージ世界とリアルな物質の世界とを自由に柔軟に往還していく彼の創作は、まだまだこれから何倍もフレキシブルな広がりを示すことだろう。
2015/04/14(火)(木村覚)
村川拓也『終わり』

会期:2015/04/12~2015/04/13
アトリエ劇研[京都府]
2013 年の『瓦礫』に続く、演出家・映像作家の村川拓也によるダンス作品の2作目。出演ダンサーは倉田翠と松尾恵美。
ただし、前作の『瓦礫』と同様、村川自身がいわゆる「振付」を行なったわけではない。村川の演出した演劇作品におけるように、ドキュメンタリー的手法を用いて、出演者自身の身体的記憶を抽出し、再編集し、舞台空間上で再現するという方法が採られている。『瓦礫』では、出演ダンサー3名が普段の仕事で行なっている動作(飲食店のバイト、映画館のスタッフ、インストラクター)が舞台上で淡々と再現・反復されていた。一つひとつの動作の意味は明瞭であり、接客の言葉も口に出されるが、3つの動作が同じ空間に併存して展開され、互いの見え方に干渉し合うことで、具体的な日常の身振りと抽象的なダンスのムーブメントとの境界が曖昧になっていく。同時に、「現実に行なわれている行為(労働)」と「舞台上での再現」との境界も撹乱されていく(現役の介護士が被介護者役の観客に対して、介護=労働を舞台上で身振りとして行なう『ツァイトゲーバー』でも同様の事態が起こっている)。
『終わり』もまた、出演ダンサーの身体に蓄積された履歴を「再編集」してつくられている。ただし、出演者2名が過去に踊った作品から抽出した振付をソースとする点で、『瓦礫』とは大きく異なる。このソースの違いは、当然、作品の質的な差異にも作用する。『終わり』は一見、よく構成されたデュオのダンス作品に見える。だが、『終わり』を見終わって感じたのは、いわゆる完成度とは異なる強度へ向かおうとする意志に満ちていたことである。この強度には二種類ある。ひとつめは、平手打ち、相手の腹を蹴る、全身を使った激しい動き、といった元々の振付自体がもつ強さである。暴力的なまでの肉体の酷使が何度も反復されることで、ムーブメントとしての強度がより増幅されていくのだ。そして二つめが、感情の強度である。とりわけ、前作にも出演していた倉田翠が、『瓦礫』では淡々と反復・再現を行なっていたのとは対照的に、『終わり』では、カーテンコールの際に、精神的な緊張感の持続と解放が入り混じった複雑な表情を浮かべ、涙を見せていたことが印象的だった。聞けば、「過去作品を振付けした時、踊った時に何を考えていたかを思い出しながら踊る」という指示を受けていたという。つまり村川は、具体的な身体の動きではなく、意識を振付けていたことになる。呼び出した記憶を抱えて踊ること、踊ることが感情の強度を高めていくこと。それがフォームとしての反復を凌駕した時、舞台上で起こっていることはリアルな「出来事」へとすり替わる。舞台芸術では、過去に起こった出来事の「完全な再現」は原理的に不可能である。村川の作品は、この不可能性を承認しつつ、虚構の精度を上げてつくるリアリティではなく、「出来事」が起こる一瞬の裂け目に賭けているからこそ、見る者に迫ってくる。そこに、ドキュメンタリーを出自とする村川が舞台芸術作品を手がけることの意義もあると言えるだろう。
2015/04/12(日)(高嶋慈)
リチャード二世

会期:2015/04/05~2015/04/19
さいたま芸術劇場にて、蜷川幸雄の演出による「リチャード二世」を観劇。ホールの本来の座席を一切使わず、シアター内に三方から囲む場をつくり、バックヤードを使いながら舞台の長大な奥行きも確保する意表をついた空間の使い方に驚かされる。さらに車椅子、タンゴ、和装で洋靴、若手と高齢の男女俳優の組み合わせなど、台詞は流麗なシェイクスピアながらも、古典劇を徹底的に異化していた。
写真:さいたま芸術劇場
2015/04/10(金)(五十嵐太郎)


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