artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~
会期:2015/10/24~2015/12/26
アートエリアB1[大阪府]
京阪電車「なにわ橋駅」のコンコース内という特異な立地で知られるアートエリアB1では、鉄道をテーマにした芸術祭を毎年企画している。5回目の今回は、写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、写真、映像、立体、インスタレーションなど多彩な展示を開催中だ。出品作品は、ホンマが編集した映像(リュミエール兄弟と小津安二郎とヴィム・ベンダースへのオマージュ)、建築家のドットアーキテクツによる京阪電車車両1/1模型内でのホンマのピンホール写真と蓮沼執太の音作品の展示、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフによる抒情的な映像作品、街中でヘッドフォンやイヤホンから音漏れさせている人に近づき、漏れている音に合わせてダンスする小山友也の映像作品、電車内で居眠りしている人をテーマにしたPUGMENTのインスタレーションなど。また会期中のイベントも、貸切電車を用いたカメラオブスキュラ車両&ライブパフォーマンス&ファッションショー(12/12)、京阪光善寺駅内にホンマが設営したカメラオブスキュラを訪ねるツアー(12/4・6・26)など、凝ったプログラムが用意されている。
2015/10/23(金)(小吹隆文)
ポール・コイカー「ヌード アニマル シガー」
会期:2015/10/03~2015/11/22
G/P GALLERY[東京都]
オランダの写真家、ポール・コイカー(Paul Kooiker 1964~)は、以前から気になる写真家の一人だった。肥満体の女性をモデルにした写真集『Heaven』(2012)など、ユーモアと観察力が結びついた独特の世界観の持ち主だと思う。今回のG/P GALLERYでの展示は、そのコイカーの日本で最初の個展であり、ハーグ写真美術館で2014年に開催された回顧展に出品された「Nude Animal Cigar」のシリーズから抜粋した作品を見ることができた。
タイトル通り、ヌード(例によってふくよかな女性たち)、動物園で撮影された動物や鳥たち、そして愛煙家である彼にとって愛着のある品物であるシガーの吸い殻の3つのテーマが、生真面目に撮影され、やや茶色がかった色味のモノクローム写真にプリントされて、図鑑のような趣で並んでいる。「3つのオブジェを3部構成のユニットとして組み合わせて、ケミカルな反応が引き起こされるインスタレーション」として提示するという意図が、明確に伝わってくるいい展示だった。
連想したのは、マン・レイ、J.アンドレ・ボワッファール、ハンス・ベルメール、ヴォルスら、シュレアリスムとその周辺のアーティストたちが1920~30年代に撮影した写真群である。彼らは無意識の領域にうごめく性的な欲望を、ヌードやオブジェに託して隠喩的に表現したのだが、コイカーも明らかにその系譜に連なる写真家といえるだろう。プリントのやや古風な雰囲気が、シュルレアリストの末裔という彼のポジションにうまくはまっているように感じた。
2015/10/20(火)(飯沢耕太郎)
プレビュー:学園前アートウィーク2015──イマ・ココ・カラ
会期:2015/11/07~2015/11/15
近鉄「学園前駅」南エリア[奈良県]
関西を代表するニュータウンで、高級住宅街としても知られる奈良・学園前で、地域アートのイベントが行なわれる。会場は、近鉄「学園前駅」南側の邸宅、学校、公民館、美術館、ギャラリーなど7カ所。出品作家は、安藤栄作、伊東宣明、稲垣智子、マリアーネ、三瀬夏之介など14組だ。また、帝塚山大学、東北芸術工科大学、奈良教育大学による共同制作、地域の歴史をテーマにした写真展も同時開催される。一見豊かな環境に見える学園前だが、じつは少子高齢化や空き家問題が静かに進行しつつあるという。そうした問題をあぶり出し、意識を共有するために現代アートを用いるのがこのイベントの主旨である。過疎地でも大都市でもなく、「郊外」をクローズアップした点に、これまでの地域アートイベントとは異なる目新しさを感じる。
公式サイト http://gakuenmae-art.jp/
2015/10/20(火)(小吹隆文)
杉田一弥×来田猛展「FLOWERS」
会期:2015/10/19~2015/10/24
ギャラリー白/ギャラリー白3[大阪府]
陶芸コレクターで華道家の杉田一弥が、自身が所蔵する器に花を生け、写真家の来田猛が撮影した写真作品として展示している。杉田は一昨年に同様の作品集『香玉』(青幻社)を出版しているが(写真家は木村羊一)、今回は写真家を来田猛に交代し新たなチャレンジを行なった。器の陶芸家は、鯉江良二、柳原睦夫、加藤委、熊倉順吉、滝口和男などで、杉田は彼らに挑むかのように斬新な花の造形を展開、来田は4×5の大判フィルムで撮影した後、高解像度でデジタルスキャンし、あえて大きなサイズでプリントしたものをアクリルマウントして見せている。実物より大きく引き伸ばされた作品は、その解像度と発色ゆえに新たな生命を吹き込まれており、生で見る生け花とは別種の感動があった。まさに器・花・写真が三位一体となった表現であり、きわめて上質なコラボレーションと言えるだろう。
2015/10/19(月)(小吹隆文)
The Emerging Photography Artist 2015 新進気鋭のアート写真家展
会期:2015/10/13~2015/10/18
アクシスギャラリー シンポジア[東京都]
ジャパン・フォトグラフィー・アート・ディーラーズ・ソサイエティー(JPADS)が主催する第4回目の「新進気鋭のアート写真家展」が、東京・六本木のアクシスギャラリー シンポジアに会場を移して開催された。各大学の写真学科、写真専門学校の教員を中心としたノミネーターが、それぞれ参加者を推薦するというやり方も、ほぼ定着してきたようだ。今回の出品作家は浅田慧子、馬場さおり、陳程、橋岡慶嵩、岩佐・ジェームズ・スワンソン、小池莉加、今野竣介、李受津、毛宣恵、松本典子、山本圭一、吉田麻美の12名である。
既に第14回「写真ひとつぼ展」(1999年)でグランプリを受賞し、写真集『野兎の眼』(羽鳥書店、2011年)なども刊行している松本典子を除けば、現役の学生か、まだ卒業して間のない、文字通りの「新進気鋭」の写真家たちの作品が並んでいる。技術的には申し分なく、作品世界もしっかりと構築されている作品が大部分だが、はみ出していく若さやパワーはほとんど感じられない。おそらく出品者の選考法にも問題があるのではないだろうか。先生が学生を選ぶということになると、どうしても優等生が多くなるのは仕方のないことだからだ。
目についたのは陳程(チン・チェン 日本大学芸術学部卒業、中国出身)、李受津(イ・スジン 大阪芸術大学大学院在学中、韓国出身)、毛宣恵(マオ・シュアンフイ 日本大学芸術学部卒業、台湾出身)といった、アジア諸国からの留学生の作品である。表現意欲、技術、継続性において、彼らの作品は他の日本人写真家たちの多くを凌駕しているように見える。アジア各地の大学や専門学校の学生、出身者にも、選考の網を拡大していくなど、そろそろ一工夫が必要な時期に来ているのではないだろうか。
2015/10/18(日)(飯沢耕太郎)