artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

初沢亜利「沖縄のことを教えてください」

会期:2015/08/15~2015/09/06

Bギャラリー[東京都]

初沢亜利はこれまでの写真家としてのキャリアの中で、イラク戦争下のバグダッド、震災後の東北、北朝鮮を長期取材し、写真展と写真集の形で発表してきた。そして、今回は2013年後半から1年3ヶ月にわたって沖縄に滞在し、撮影を続けた。その成果をまとめたのが、新宿・Bギャラリーで開催された写真展「沖縄のことを教えてください」と、赤々舎から刊行された同名の写真集である。
こうしてみると、初沢が選択した被写体が、人々の関心を強く引きつけるニュース性の高い場所であったことがわかる。見方によっては、スクープカメラマンすれすれの行為と見なされても言い訳はできないだろう。だが初沢は、そのような視線と情報とが「インターフェイス」として集中する場所に身を置くことを、あえて意識的に自らに課し続けてきたのではないかと思う。
今回の沖縄滞在にしても、それがきわめてむずかしい条件を背負っていることを、初沢は充分に意識していた。つまり沖縄のような場所で、「ノンケのナイチャー(内地人)」として写真を撮り続けることは、「政治的権力位置」を問われる行為であるということを最初から知りつつ、その矛盾にあえて身をさらすことを選びとっていったのだ。にもかかわらず、というべきだろうか。写真にあらわれてくる沖縄の2013~14年の光景は、くっきりと鮮明で、明るくのびやかなエネルギーに満たされているように見える。歴史や文化の深層に足を取られ、情念の泥沼に落ち込むことをぎりぎりで回避しつつ、あくまでも表層のざわめきにこだわり続けることで、ある意味貴重な「ノンケのナイチャー」による沖縄の像が浮かび上がってきた。従来のフォトジャーナリズムとは一線を画す「個人的な眼差し」によって貫かれた、いい仕事になったのではないかと思う。

2015/08/20(木)(飯沢耕太郎)

プレビュー:WAKAYAMA SALONE 2015

会期:2015/09/13~2015/10/12

和歌山市、海南町、高野口町、高野山の15会場ほか[和歌山県]

現代アートの動きが乏しかった和歌山で、「アート」と「旅」をキーワードにした地域アートイベントが初開催。和歌浦、加太、和歌山城、高野山といった観光名所を含む会場を巡りながら、アート、クラフト、デザイン、プロダクト、建築、インスタレーションなどの展示を楽しむことができる。また、クラフトビールフェア、ナイトマーケット、音楽ライブイベント、映画上映会など、夜間にも関連イベントが行なわれるとのこと。出品作家は、金氏徹平、西光佑輔、contact Gonzo、伊藤彩、河合晋平、永沼理善、エリカ・ワード、リッカルド・ピノバーノ、和歌山建築チームなど、国内外の30組以上を予定。

2015/08/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015

会期:2015/09/12~2015/11/23

六甲山カンツリーハウス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲ガーデンテラス、六甲有馬ロープウェー、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、グランドホテル六甲スカイヴィラ、旧六甲オリエンタルホテル 風の教会、プラス会場[TENRAN CAFE][兵庫県]

神戸・六甲山の自然とアートの魅力を散歩感覚で味わえると好評のイベント。6回目となる今回も、六甲山上のさまざまな施設を舞台に、作品展示やイベントが開催される。今回特に注目したいのは、新たに会場に加わった「グランドホテル六甲スカイヴィラ」と「旧六甲オリエンタルホテル 風の教会」。特に「風の教会」は建築家・安藤忠雄の代表作でありながら、ホテルの閉鎖にともない長らく非公開になっていた。アートファンのみならず、建築ファンにとってもこの機会は見逃せない。六甲山は都会に隣接する山だが、いざ出かけてみると豊かな自然が保たれており、気分転換にもってこいだ。日帰りでお手軽に地域アートを楽しみたい方にもおすすめしたい。

2015/08/20(木)(小吹隆文)

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ヴォルフガング・ティルマンス「Your Body is Yours」

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

2004年に東京オペラシティアートギャラリーで開催されたヴォルフガング・ティルマンスの「Freischwimmer」は、今なお鮮やかに目に残る展覧会だった。大小の写真を壁にちりばめる、いわゆる「ティルマンス展示」が衝撃を与えただけでなく、現実世界を「自由形」で遊泳する、その視点ののびやかさ、幅の広さに驚嘆させられた。その「日本初の回顧展」から11年を経て、大阪・中之島の国立国際美術館で、彼のひさしぶりの大規模展示が実現した。
ティルマンスが1990年代から2000年代にかけての世界の写真シーンをリードする存在であったことは、誰にも否定できないだろう。20年以上にわたって、写真表現の最前線を切り拓いてきたたわけだから、当然彼を乗りこえていく、より若い世代が登場してもおかしくはない。眼前に現れる世界を等価に見つめ、フォルマリスティックなアプローチから、極端にリアリスティックな描写までを鮮やかに使い分けて、実に的確にイメージ化し、見事なセンスで壁面に撒き散らしていく彼の手つきの鮮やかさは認めざるを得ないにしても、そろそろ次世代の表現の形が見えてきてもいい頃だと思うのだ。
にもかかわらず、結論的にいえば、2015年の現在においても、ティルマンスはなお、写真表現のフロントランナーとして疾走し続けている。今回の国立国際美術館での展示にも、回顧展という装い以上に、むしろ貪欲に新たな領域にチャレンジしようという彼の意欲が全面にあらわれていた。「真実研究所(truth study center)」というパートには、日本の社会状況を含めて、彼の全方位アンテナによってキャッチされた、世界中のさまざまな出来事を報道する記事がスクラップされ、2014年のヴェネツィア・ビエンナーレに展示されて大反響を巻き起こしたスライド・プロジェクション作品「Book for Architects」では、カオス的に膨張していく都市の建築物に対する、ティルマンスのユーモアを含んだ批評精神を、たっぷりと味わうことができた。視点の多様性、深み、豊穣さ、どの観点から見ても、彼の表現能力は突出している。とはいえ、やはり「次」も見てみたい。野心的な日本の写真家の誰かに、ぜひ「ポスト・ティルマンス」の名乗りを上げてほしいものだ。

2015/08/16(日)(飯沢耕太郎)

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モノクロスナップの魅力展

会期:2015/07/04~2015/08/30

入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]

入江泰吉が昭和20年代から30年代前半に制作した「昭和大和のこども」と、昭和から平成の大阪の街や人を撮り続けている阿部淳の「市民」、近藤斉の「民の町」を展示。入江73点、阿部740点、近藤106点という大規模な展示となった。入江といえば大和路の美景を捉えた端正な作品の印象が強いが、本展の作品は別物。昔の奈良の風景や生活が活写されており、なにより子供たちが愛らしい。それに対して阿部と近藤の作品は、大阪のぎらついた街と人間に肉薄しており、それでいてどこか夢幻的な風情も感じられるものだった。同館ではこれまでもっぱら入江の作品を展示しており、本展のような企画は珍しい。今年から館長に就任した百々俊二氏の効果だろうか。館の魅力を高めるためにも、他の作家の企画展をどんどん行なうべきだ。

2015/08/09(日)(小吹隆文)

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