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写真に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

ドイツ出身の写真家ヴォルフガング・ティルマンスの、西日本では初となる大規模な個展。ティルマンスの作品は、自身を取り巻く日常的な光景、友人、街頭の若者などを主なモチーフとし、セクシャリティやジェンダーといった今日的な問いかけを孕んでいること、それらをインスタレーションとして展示することで知られている。また、近年の写真集『Neue Welt』(新しい世界)では、政治経済の問題や技術の進歩など地球上で繰り広げられているさまざまな出来事に対して自身の見解を表明するなど、新たな展開を見せている。本展では、ティルマンス自身が設計した展示空間で日本初公開となる多数の写真作品を展示する他、2台のプロジェクションによる映像インスタレーションも発表。日本の美術館では2004年の東京オペラシティアートギャラリー以来11年ぶりの個展であり、国立国際美術館1館のみでの開催となる。

2015/06/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:他人の時間 TIME OF OTHERS

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

東京都現代美術館、国立国際美術館、シンガポール美術館、クイーンズランド州立美術館|現代美術館(オーストラリア)を巡回する国際現代美術展。各館のコレクションを含めたアジア・オセアニア地域の若手を中心としたアーティストを紹介し、現代における「他人」との関わり合いについて考察する。先に開催された東京都現代美術館に続く2番目の会場となる国立国際美術館では、4会場中最大となる20名の作家を紹介。大阪から合流するヒーメン・チョン、キム・ボム、加藤翼の3名は日本初公開の作品を出品し、東京でサウンド・インスタレーションを発表したmamoruは、大阪では1日限りのレクチャー・パフォーマンスを行う。また、東京展とは展示構成を変えることにより、いかにして隔たりのあるものに手を伸ばし、「他人」にアプローチするかという問いにフォーカスする。

2015/06/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:堂島リバービエンナーレ2015「Take Me To The River  同時代性の潮流」

会期:2015/07/25~2015/08/30

堂島リバーフォーラム[大阪府]

今年で4回目となる国際現代美術展。過去3回は南條史生、飯田高誉、ルディ・ツェンがアーティスティック・ディレクターを務めたが、今年は英国よりトム・トレバーを招聘。前例がないほど多様化、グローバル化し、流動的なネットワーク・カルチャーに依拠したセルフ(自我)が現れている今、アートはいかに機能し、状況に変化をもたらし得るかを検証する。展覧会タイトルの「Take Me To The River」は、ソウル歌手アル・グリーンとギタリストのメイボン・ティーニー・ホッジスにより1973年に発表されたR&Bの名曲であり、「River」は現代の流動的な状況の比喩と思われる。出品作家は、アンガス・フェアハースト、ピーター・フェンド、サイモン・フジワラ、池田亮司、メラニー・ジャクソン、下道基行、プレイ、笹本晃、島袋道浩、照屋勇賢、フェルメール&エイルマンスなど。

2015/06/20(土)(小吹隆文)

荒木経惟「Birthday 75齢 2015.5.25 写狂老人A 鏡の中のKaoRi」

会期:2015/05/25~2015/06/20

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

恒例の荒木経惟のタカ・イシイギャラリーでの「Birthday」写真展である。今年は例年に増して意欲作が並んでいた。
展示作品は、室内でオブジェを中心に撮影したカラー作品53点と、日付入りコンパクトカメラによるモノクロームの「私日記」119点。鏡文字のタイトルにあわせるように、プリントもすべて左右逆になっている。つまり「鏡の中」の世界を撮影したということだが、実際にはプリントする時にネガを「裏焼き」しただけのようだ。とはいえ、この単純な仕掛けによって、虚実が逆転して奇妙な浮遊感を感じさせる反世界に引き込まれるような気がしてくる。モノクローム作品には、さらに工夫が凝らされていて、画像は全部反転しているのに、日付だけが正像、しかもすべて「25 2 21’」になっている。この日付をどうやっていれたのかが、どうもよくわからない。「’12 2 52」と入れて撮影したのかと思ったのだが、「2」を鏡文字で入力するやり方がわからないのだ。小さな思いつきを積み重ねていきながら、見る者をいつの間にか魔術的な世界に引き込んでいく荒木の手腕が、いつも以上に絶妙に発揮された作品群といえるのではないだろうか。昨年以来の創作意欲の高まりが、まだ続いているということだろう。
なお、展示にあわせて『アサヒカメラ』6月号が荒木特集を組んでいる。また、タカ・イシイギャラリーから同名の写真集も刊行された。352ページ、173点を収録。小ぶりなソフトカバー写真集だが、町口覚のデザインワークが冴え渡っている。
(タイトルは鏡文字)

2015/06/18(木)(飯沢耕太郎)

深瀬昌久「救いようのないエゴイスト」

会期:2015/05/29~2015/08/14

DIESEL ART GALLERY[東京都]

深瀬昌久は2012年に78歳で亡くなった。1992年に事故で倒れて以来、ずっと療養生活を送っていたのだが、ついに社会復帰はかなわなかったのだ。その間、深瀬の作品の管理は「深瀬昌久エステート」がおこなってきたが、複雑な事情を抱えて機能不全に陥っていたため、展覧会や写真集の出版などの活動も途絶えがちになっていた。深瀬の没後、遺族の元にネガとプリントがいったん返却されることになり、準備期間を経て、その管理団体としてあらためて発足したのが「合同会社深瀬昌久アーカイブス」である。今回、東京・渋谷のDIESEL ARTGALLERYで開催された「救いようのないエゴイスト」展は、そのお披露目として開催されたものだ。
展示は「屠」(1963年)、「烏・夢遊飛行」(1980年)、「家族」(1971年~89年)、「私景」(1990~91年)、「ブクブク」(1991年)、「猫」(1974~90年)の6部構成、82点。代表作だけでなく、カラー多重露光による「烏」シリーズの異色作「烏・夢遊飛行」や、のびやかなカメラワークが楽しめる「猫」など、ほぼ未発表の作品も並んでいる。今回の展示のタイトルである「救いようのないエゴイスト」というのは、「アーカイブス」のメンバーでもある深瀬の元夫人、深瀬洋子(現姓は三好)が『カメラ毎日』別冊『写真家100人 顔と作品』(1973年)に書いたエッセイに由来する。だが逆に「エゴイスト」に徹することで、ここまで凄みのある作品に到達できたことがよくわかった。
「深瀬昌久アーカイブス」は、今後展示活動だけでなく、出版なども積極的におこなっていくという。今回の展示にあわせて、SUPER LABOから写真集『屠』が、roshin booksから猫の写真集『Wonderful Days』が刊行された。海外での展示も、今年のアルル国際写真フェスティバル、来年のテート・モダンでのグループ展参加などが決まっている。深瀬昌久の作品世界が、若い世代を含めて、より大きな広がりを持って受け入れられていくことを期待したい。

2015/06/17(水)(飯沢耕太郎)