artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
デヴィット・シャリオール写真展“ISOLATED BUILDING STUDIES”
会期:2014/01/11~2014/02/23
GALLERY TANTO TEMPO[兵庫県]
デヴィット・シャリオールは米国・シカゴを拠点に活動する写真家で、区画整理など何らかのの理由で街区に1軒だけ取り残された建物を、真正面から撮り続けている。そのテーマは社会学的であり、一定の構図を守り続けている点でタイポロジーの系譜に属する作家と言える。空き地の中に孤立した建物の姿は寂しげだが、時には崇高さをたたえ、またある時にはマグリットの絵画にも似たシュールな姿を見せてくれる。また、西洋建築におけるファサード(正面デザイン)の重要性にも気付かされた。今回は10数点の作品と絵はがきサイズの小品35点からなる小規模な展示だったが、チャンスがあれば、広い空間で今回の何倍もの作品が並ぶ様を見てみたい。
2014/01/18(土)(小吹隆文)
山元彩香「Nous n’irons plus au bois」
会期:2014/01/11~2014/02/08
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
1983年、神戸市生まれの山元彩香は、2009年からフィンランド、エストニア、ラトビア、フランスなどでポートレートの撮影を続けてきた。モデルは10歳~20歳代の女性。6×6判のカラーフィルムで撮影されるそれらの写真に写し出されているのは、少女から大人の女性へと流動的に変容しつつある、不思議な手触りの「いきもの」たちの姿だ。ことさらに、特異な撮り方をしているわけではないのだが、今回タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで展示された「Nous n’irons plus au bois」の写真群を見ていると、彼女たちのなかに潜んでいた、時には禍々しくもある魔術的な心性が明るみに出されているように感じる。
その「翻訳不可能なイメージ」を引き出すために、山元は撮影に際して、あまり目立たないけれども細やかな操作を施している。顔に布を被せたり、唇から赤い糸を垂らしたり、髪の毛に花を編み込んだり──それらの遊びとも祈りともつかない行為は、山元とモデルたちの共同作業というべきものだ。どうやら彼女たちは言葉でコミュニケーションを取り合っているのではなく、あたかも動物が互いに皮膚を擦り付けあうように意思を伝達しているのではないかと想像できる。そのもどかしいけれども、強く感情を共振する身振りの積み重ねが、このシリーズに説得力を与えているのではないだろうか。今回は9点の作品が発表されたが(同時刊行のカタログには15点掲載)、まだこれから先どう動いていくのか本人にもよくわかっていないようだ。このまま、さらにコントロール不可能な領域に踏み込んでいってほしいと思う。
2014/01/14(火)(飯沢耕太郎)
高谷史郎「明るい部屋」
会期:2013/12/10~2014/01/26
東京都写真美術館 B1階展示室[東京都]
続いて、高谷史郎の「明るい部屋」展へ。カメラの起源である閉じた箱のカメラ・オブスキュラはしばしばアート作品において参照されるが、これは別の光学装置カメラ・ルシダをめぐる写真、映像、インスタレーション、そしてパフォーマンスの記録である。ブラックボックスとなる建築的な箱をとり払い、そのメカニズムの美しさをむき出しにして、新しいイメージ生成の場に立ち会わせる内容だった。
2014/01/13(月)(五十嵐太郎)
路上から世界を変えていく 日本の新進作家 vol.12
会期:2013/12/07~2014/01/26
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
東京都写真美術館の「路上から世界を変えていく」展へ。糸崎公朗は、街の風景を撮影し、その写真群を立体的に再構成する懐かしい旧作のフォトモも出しつつ、路上の虫や動物の新シリーズを出品していた。これは普段見過ごすドキリとさせる内容だったが、彼のエリアは作品の情報量が多く、人が一番溜まっていた。また津田隆志による排除系ベンチやテントで各地を宿泊のシリーズは、拙著『過防備都市』に通じるテーマだった。
2014/01/13(月)(五十嵐太郎)
モイラ嬢のための9つの変奏曲
会期:2014/01/08~2014/01/25
神保町画廊[東京都]
「口枷屋モイラ」という名前で、コスプレやオブジェ制作など、多方面で活動している謎の女性、モイラ嬢をモデルに10人(9組)のアーティストが共演したコラボレーション展である。ギャラリーの企画力が充分に発揮され、なかなか面白い展示になっていた。中島圭一郎、伴田良輔、フクダタカヤス、村田兼一、村田タマ、渡邊安治は写真作品を、武井裕之とオオタアリサは写真とイラストの合作を、三嶋哲也は本格的な油画の肖像画を、上野航はストッキングを使ったオブジェ作品を出品していた。
このような実在のモデルを共通のテーマとするような展覧会の企画は、ありそうでなかなかないのではないだろうか。展示が成功したのは、ひとえにモイラ嬢の千変万化するキャラクターによるところが大きい。純真無垢な女生徒から妖艶な魔性の女までを、コスプレとメーキャップを駆使して演じ分ける変身能力の高さに、それぞれのアーティストが全身全霊で反応することで、彼らのいつもの作品とはひと味違ったテンションの高さが実現した。同じモデルとは思えないほどの表現力の幅の広さを、たっぷりと愉しむことができる。こうなると、この企画を一度で終わらせるのはもったいない気がしてくる。アーティストの顔ぶれを固定するとマンネリ化してくるので、違うジャンルの人たちにも声をかけて、さらに多人数のコラボレーション展を実現してほしい。平面作品のヴィジュアル・アーティストだけでなく、映像作家や言葉の表現者にも参加してもらうと、面白い広がりが期待できそうだ。
2014/01/08(水)(飯沢耕太郎)