artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
森山大道「終わらない旅 北/南」
会期:2014/01/23~2014/03/23
沖縄県那覇市の沖縄県立博物館・美術館で開催された森山大道展は、まず総出品点数922点という数に度肝を抜かれた。もっとも、そのうち400点あまりは2002年刊行の写真集『新宿』(月曜社)の印刷原稿のプリントで、それらは4期に分けて展示された。それでも600点以上の作品が常時展示されるというのは、これまで開催された森山の写真展では最大規模だ。2012~13年のテート・モダン(イギリス・ロンドン)でもウィリアム・クラインとの二人展に見るように、彼の写真の影響力は海外にも広く浸透しつつある。その自信が隅々にまでみなぎった展示と言えるだろう。
展示は「起点」「犬の記憶」「破壊と創造」「光を求めて」「終わらない旅」の5部構成。名作がずらりと並ぶ前半部分も圧巻だが、今回の見所は最終章の「終わりのない旅」である。このパートは、展覧会のタイトルが示すように「北/南」、すなわち北海道と沖縄の写真で構成されている。北海道は写真表現の極限まで突き進んだ『写真よさようなら』(写真評論社、1972)刊行後の虚脱感を埋め合わせようと道内を彷徨して撮影した写真群、沖縄は1974年に「ワークショップ写真学校」のイベントのため東松照明、荒木経惟らと初めて沖縄を訪れた時に撮影した路上スナップが展示されている。それに加えて、どちらも最近撮影されたデジタル・カラー作品も並置してあった。つまり、「北/南」「モのクローム/カラー」という対立軸を設定することで、森山の作品世界を立体的に浮かび上がらせようというもくろみで、それはとてもうまくいっているのではないだろうか。森山大道の現在を見通すには、必見の展覧会と言えそうだ。
2014/01/30(木)(飯沢耕太郎)
フォーラム 福島における写真の力
会期:2014/01/25
キッチンガーデンビル2階ゆいの庭[福島県]
東日本大震災の被災地でも、福島県は他の地域とはやや異なった状況にある。地震や津波の被害を受けた場所なら、復興に向けて着実に歩みを進めることが可能だ。だが、福島第一原子力発電所の大事故の後遺症は、癒されるどころかより深刻化している。除染、汚染水などの問題は解決の目処がまったくつかず、住人が帰ることのできない空白の地域がそのまま放置されているのだ。2012年に立ち上がった「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」は、福島県をアートを通じて再生させていこうという動きだが、その一環として写真家、映像作家、華道家らによって展開されてきたのが、福島写真美術館プロジェクト「福島を撮る・録る」である。その活動報告会が福島駅近くの会場で開催された。
まず福島県伊達市で育ち、2013年に「目に見えない」放射能汚染を可視化しようとする「Cesium」シリーズを発表した瀬戸正人と筆者による「クロストーク」があり、その後で「福島を撮る・録る」に参加したアーティストたちが活動の成果を報告した。「福島の自然と自分との距離」をテーマに撮影を続ける赤坂友昭(写真家)、縄文土器に現地で採った花をいける片桐功敦(華道家)、自分の足元を撮影した写真を繋ぎあわせて、津波で流出した家の土台を再構築する安田佐智種(美術家、ニューヨーク在住)、飯舘村の「田植え踊り」伝承しようとしている小学生たちを映像で記録した小野良昌(写真家、映像作家)、そして仮設住宅や幼稚園で写真撮影のワークショップを開催した今井紀彰(写真家)、吉野修(写真家、筑波大学准教授)、近田明奈(コーディネーター)による事業は、どれも彼らのユニークな視点を地域住人たちとの細やかな交流を通じて形にしていったものだ。
このような活動は、2~3年で終わってしまってはまったく意味がない。むしろ震災を契機に、福島を写真・現代美術の重要な拠点のひとつとして育て上げていくべきではないだろうか。
2014/01/25(土)(飯沢耕太郎)
鍛冶谷直記 展「JPEG」
会期:2014/01/21~2014/02/15
猥雑な盛り場など、日本各地に残る薄っぺらな風景を撮影した写真作品《JPEG》で知られる鍛冶谷直樹。東京都写真美術館で先月まで開催された「日本の新進作家 vol.2」に選出され、蒼穹舎から初の写真集『JPEG』が出版されるなど、その評価は着実に高まりつつある。出版を記念した本展で改めて彼の作品を見ると、画面に写し出されたグダグダな風景に対して、恥ずかしさと愛着が入り混じった複雑な感情を抱かずにはおれない。駄目な奴、ダサい奴とわかっているが、縁を切る気になれない旧友、的なものであろうか。同時に、これらの風景は極めて昭和的であり、今後急速に姿を消すかもしれないことを実感した。
2014/01/23(木)(小吹隆文)
せんだいスクール・オブ・デザイン 2013年度秋学期 Interactiveレクチャー♯3 新津保建秀「フレーム/余白/写真」
東北大学大学院工学研究科 せんだいスクール・オブ・デザイン[宮城県]
仙台にて新津保建秀のレクチャーが行なわれた。ももクロや戸田恵梨香の人物から建築、風景、チェルノブイリの取材まで、幅広い領域に及ぶ写真の活動は、共通点がなさそうだが、実は一貫して対象の余白を意識した作品である。つまり、撮影した瞬間の前後、情報がタグ付けされた世界、モニター上の画像、データベースのアーカイブ、双方向的なネット・コミュニティ、撮影者の周辺状況を組み込み、現代における写真の可能性を拡げる。
2014/01/23(木)(五十嵐太郎)
ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」
会期:2014/01/18~2014/03/15
WAKO WORKS OF ART[東京都]
ヴォルフガング・ティルマンスが、1990年代以来、写真表現の最前線を切り拓いてきた作家であることは言うまでもない。彼の周囲の現実世界のすべてを等価に見渡し、撮影してプリントした、大小の写真を壁に撒き散らすように展示していく彼のスタイルは、世界中の写真家たちに影響を与えてきた。東京・六本木のWAKO WORKS OF ARTで開催された新作展を見て、その彼がさらに先へ進もうとしていることを明確に感じとることができた。ティルマンスはやはりただ者ではない。彼のスタイルは固定されたものではなく、時代とともに、そして彼自身のライフ・スタイルの変化にともなって、フレキシブルに変容しつつあるのだ。
2012年に刊行された2冊の写真集『FESPA Digital: FRUIT LOGISTICA』と『Neue Welt』に、すでにその変貌の兆候がはっきりと刻みつけられていた。ティルマンスは、これらの写真を撮影するためにデジタルカメラを使用し、プリントもデジタルのインクジェット・プリンターで行なうようになった。その結果として、写真の撮り方、選択、レイアウトもまた、デジタル的な表層性、多層性をより強く意識させるようになってきている。清水穣が「『デスクトップ・タイプ』レイアウト」と呼ぶ、この「プリントアウトされた写真がテーブルの上で重なり合っているような、いくつものウィンドーを開いたデスクトップの画面のような」レイアウトは、今回の壁面の展示でも多面的に展開されている。銀塩=アナログの時代にはなかった新たな視覚的経験を、貪欲に形にしていくティルマンスの創作のスピードに追いつくのはなかなか難しいが、せめて彼の写真集や写真展を「スタンダード」として見る視点を、日本の若い写真家たちも持つべきではないだろうか。
2014/01/22(水)(飯沢耕太郎)