artscapeレビュー

山元彩香「Nous n’irons plus au bois」

2014年02月15日号

会期:2014/01/11~2014/02/08

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

1983年、神戸市生まれの山元彩香は、2009年からフィンランド、エストニア、ラトビア、フランスなどでポートレートの撮影を続けてきた。モデルは10歳~20歳代の女性。6×6判のカラーフィルムで撮影されるそれらの写真に写し出されているのは、少女から大人の女性へと流動的に変容しつつある、不思議な手触りの「いきもの」たちの姿だ。ことさらに、特異な撮り方をしているわけではないのだが、今回タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで展示された「Nous n’irons plus au bois」の写真群を見ていると、彼女たちのなかに潜んでいた、時には禍々しくもある魔術的な心性が明るみに出されているように感じる。
その「翻訳不可能なイメージ」を引き出すために、山元は撮影に際して、あまり目立たないけれども細やかな操作を施している。顔に布を被せたり、唇から赤い糸を垂らしたり、髪の毛に花を編み込んだり──それらの遊びとも祈りともつかない行為は、山元とモデルたちの共同作業というべきものだ。どうやら彼女たちは言葉でコミュニケーションを取り合っているのではなく、あたかも動物が互いに皮膚を擦り付けあうように意思を伝達しているのではないかと想像できる。そのもどかしいけれども、強く感情を共振する身振りの積み重ねが、このシリーズに説得力を与えているのではないだろうか。今回は9点の作品が発表されたが(同時刊行のカタログには15点掲載)、まだこれから先どう動いていくのか本人にもよくわかっていないようだ。このまま、さらにコントロール不可能な領域に踏み込んでいってほしいと思う。

2014/01/14(火)(飯沢耕太郎)

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