artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:渡部雄吉 写真展「張り込み日記」

会期:2013/02/02~2013/03/03

GALLERY TANTO TEMPO[兵庫県]

1958年に実際に起こった殺人事件の取材を許された渡部は、2人の刑事に張りついて捜査状況を取材した。その作品は、ドキュメントでありながらフィルムノワールの趣を併せ持っており、すこぶる魅力的だ。また、現在の警察がこのような取材を許すとは思えず、今後も類似作品が現われることはないだろう。知られざる存在だった本作が脚光を浴びたのは、2011年のこと。フランスの出版社が写真集を発行し、各地の写真集の賞で最優秀賞を受賞したのだ。今回は、渡部の子息が保存するネガを再点検し、フランスの出版社とは異なる視点から作品を再構成して展覧会を開催。また、写真集の出版も行なう。間違いなく反響を呼ぶであろう注目展だ。

2013/01/20(日)(小吹隆文)

島田洋平 写真展 SHIGOTOBA

会期:2013/01/08~2013/02/03

Kobe 819 Gallery[兵庫県]

大工、自動車整備工、シェフ、落語家、紙芝居屋などさまざまな職業人を、その職場と共に撮影した作品14点を展示。作品テーマはアウグスト・ザンダーの《20世紀の人々》を連想させるが、島田の作風はまったく対照的だ。商業写真で鍛え上げたテクニックをフル活用しており、特に照明とレタッチの冴えは特筆に値する。明らかにストレート写真ではなく、むしろ映画などの特撮の領域に近いのではないかと思った。20世紀のザンダーと21世紀の島田、両者を写真の技術史的観点から比較したら面白そうだ。作品数が増えるほど魅力を増すシリーズなので、今後の作品拡充を期待している。

2013/01/19(土)(小吹隆文)

二川幸夫「日本の民家 1955年」展

会期:2013/01/12~2013/03/24

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

・パナソニック汐留ミュージアムの二川幸夫「日本の民家 1955年」展へ。会場構成は藤本壮介によるもの。彼らしい離散配置された写真の森をさまよい歩く。日本各地の民家の撮影は、二川の原点となる仕事だが、現在から見ると、解村される前のぎりぎりのタイミングで記録された生きる民家と言える。土着的な地域にねざした民家は、どれも強い個性をもつが、とくに富山県上平村・越中桂の民家がすさまじい存在感を放っていた。

2013/01/18(金)(五十嵐太郎)

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東川町国際写真フェスティバル ポートフォリオオーディション受賞作品展

会期:2013/01/16~2013/01/20

横浜赤レンガ倉庫 1号館[神奈川県]

2012年度の北海道・東川町国際写真フェスティバルの公開ポートフォリオオーディションで選ばれた3名、小林透(グランプリ)、奥村慎、山元彩香(以上、準グランプリ)の作品展が、ヨコハマフォトフェスティバルの行事の一環として開催された。地域ごとに開催されるフォトフェスティバルもずいぶん増えてきたので、その相互交流の第一歩として重要な意味を持つ企画と言える。
僕自身も鷹野隆大(写真家)、高橋朗(フォト・ギャラリー・インターナショナルディレクター)、沖本尚志(編集者)、邱奕堅(1839富代藝廊キュレーター、台湾)とともに東川の審査に加わっていたのだが、応募のレベルはかなり高く、結果的にとても面白い作品を選ぶことができた。2009年以来、家族の写真を日々大量に撮影し続け、アルバムに貼りつけていく奥村の作品や、少女が「何かわけのわからない存在」に変身していくプロセスを刻みつけた山元のポートレートの連作(撮影地はエストニア)も意欲的な作品だが、やはり最大の問題作は小林の発達障害(自閉症)の弟をモデルにした「あの快い夜におとなしく入っていってはいけない」だろう。発作を起こして感情をコントロールできない弟にカメラを向けたり、裸にしてジャムを塗り付けたり、女性を巻き込んで「恋愛ごっこ」のような状況を設定したりする小林の行為は、見方によっては写真家のエゴや暴力性をむき出しにしたものと受け取られかねない。実際に1月17日におこなわれた審査員と受賞者とのトークでも、会場からモラル的にやや問題があるのではないかという質問が出ていた。
だが、写真を撮ることによって、自分と弟の関係が明らかにポジティブに変わってきたという小林の発言は貴重なものであり、写真の荒ぶる力をなだめつつ有効に活用していく可能性を感じさせる。むろん彼の写真行為はまだ完成途上にあり、もう少し注意深く見守っていく必要がある。それでも、このような作品が選ばれたことはとてもよかったと思う。次回も刺激的な作品に出会いたいものだ。

2013/01/17(木)(飯沢耕太郎)

有元伸也「ariphoto 2013 vol.1」

会期:2013/01/15~2013/01/27

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

有元伸也は、自分の名前を冠した「ariphoto」と題するシリーズの発表を、2006年から年数回のペースで続けている。最初から6×6判のモノクローム路上スナップ、しかも新宿界隈のみで撮影というルールは厳格に定まっており、いささかの揺るぎもない。だが、会場に置いてあった、初期作品をまとめて掲載した写真集と今回の作品とを比較すると、微妙な違いがあらわれてきていることがわかる。
最初の頃は、中心となる被写体にストレートにカメラを向け、それを画面の中心に据えるような写真がほとんどだった。ところが近作になると、レンズがやや広角になり、被写体の周辺の雑踏を写し込むようになってきている。しかも、やや高い歩道橋のような場所から街を俯瞰した写真や、ホームレスらしい老人の頭(傷口がホッチキスのような金具で留められている)の上から覗き込むように撮影した写真など、多様なアプローチが目につくようになった。つまり、街頭のさまざまな要素が多次元的にせめぎあう様子に、有元の関心が向き出しているということではないだろうか。
このような変化は、僕には好ましいものに思えた。有元の路上スナップはもはや古典的と言えるほどの風格を備えているが、その完成度は諸刃の剣とも言える。2000年代以降、都市の構造が流動的に変質し、彼自身の生のあり方も変わっていくなかで、写真もまた脱皮を重ねていくべきではないだろうか。それこそが、彼自身と写真とが融合した「ariphoto」の本来あるべき姿であるはずだ。

2013/01/17(木)(飯沢耕太郎)