artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
東川哲也「New Moon」
会期:2013/03/01~2013/03/26
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
東川哲也は1982年愛知県瀬戸市生まれ。2005年に日本大学芸術学部写真学科を卒業し、現在朝日新聞出版写真部に所属しながら作品を発表している。昨年開催された「EMON AWARD 2012」でグランプリを受賞した本作は、東日本大震災直後の2011年4月から、新月の夜に被災地に残された家屋を撮影し続けたシリーズだ。闇の中にヘッドライトで照らし出された建物が浮かび上がる様子をやや距離を置いて撮影し、728×485ミリの大判プリントに引き伸ばして展示している。プリントをおさめたフレームの内側にLEDのライトを仕込み、画像を透過光で浮かび上がらせるという仕掛けがとても効果的で、建物に残る震災の傷跡が、静かな、だが説得力のある眺めとして定着されている。
だが、これはほぼ同世代の川島崇志の作品とまったく同じ感想なのだが、その巧みなインスタレーションによって、展示全体が均質に見えてくることは否定できない。東川が報道写真的なアプローチを避け、スタイリッシュで美学的なフレーミングや展示方法に固執した気持ちもわからないではない。だが、このところ発表が続いている写真家たちによる、「震災後の写真」への取組みには、志賀理江子のような例外を除けば、どこか共通した弱点があるように思えてならない。ノイズを削ぎ落とし、一定の枠組みの中に作品を落とし込んでしまうことで、彼らが現場で受けとめていたはずのリアリティが、どんどん希薄になってしまっているのだ。もう少し皮膚感覚を鋭敏に研ぎ澄ませ、全身で抗い続けないと、震災後2年を経て風化していく状況に押し流されるままになるのではないだろうか。
2013/03/18(月)(飯沢耕太郎)
KOBE ART LOOP 2013
会期:2013/03/01~2013/03/31
ギャラリーほりかわ、GALLERY & SPACE DELLA-PACE、Pocket美術函モトコー、OLD BOOKS & GALLERY SHIRASA、南京町ギャラリー蝶屋、GALLERY 301、ギャラリーTANTO TEMPO、Gallery Vie、ギャラリー開、Kobe 819 Gallery[兵庫県]
神戸の元町・栄町通近辺に居を構える10画廊が、周遊型のアートイベントを企画。内容は画廊の通常活動である個展の集合体だが、マップやスケジュール表付きのパンフレットを作成し、それぞれの存在をアピールしていた。神戸は大阪や京都に比べて画廊の数が少なく、過去に同種の試みが行なわれたことはなかった。しかし、ここ5、6年の間に栄町通を中心に新規の画廊が増え、ようやく面的な展開が可能になった。今回はシンプルな仕掛けだったが、今後も継続しつつ企画性を増して行けば、徐々に効果が現われるだろう。参加画廊に無理のない範囲で、息の長いイベントに成長することを願う。
2013/03/16(土)(小吹隆文)
川島崇志「新しい岸、女を巡る断片」
会期:2013/03/08~2013/04/07
G/P GALLERY[東京都]
川島崇志は1985年宮城県白石市生まれ。2011年に東京工芸大学大学院芸術学研究科を修了し、12年にTOKYO FRONTLINE PHOTO AWARDでグランプリを受賞するなど将来を嘱望されている若手写真家だ。今回G/P GALLERYで開催された初個展「新しい岸、女を巡る断片」でも、その才能のひらめきのよさと作品構築の能力の高さを充分に感じとることができた。
出身地を見てもわかるように、東日本大震災とその余波は彼にも大きく作用したようだ。今回展示されたシリーズは、震災直後に被災地の海岸でたまたま見つけて撮影したという、2人の女性が写っている写真が基点となっている。彼女たちとのその後の交友を縦軸にして、川島自身の震災へのメッセージを絡ませながら、巧みに作品群をインスタレーションしていく。その手際は高度に洗練されており、彼がこの若さで現代美術と現代写真の文法をきちんと身につけていることに、正直驚かされた。欧米のスタイリッシュなギャラリーの空間に作品が配置されていたとしても、まったく違和感なく馴染んでしまうのではないだろうか。
だが、この洗練は諸刃の剣でもある。作品を見ていて、手法の多様性にもかかわらず、どことなく均質な印象を受けることが気になった。彼が震災の衝撃を受けとめ、咀嚼して作品化する過程で、行きつ戻りつしたはずの思考や行動の軌跡が、もう少し作品にストレートに表われていてもいいのではないのではないかとも思った。混沌を鷲掴みにするような野蛮さ、野放図さがほしい。それが持ち前の高度な作品構築力と結びつくことを期待したいものだ。
2013/03/15(金)(飯沢耕太郎)
澤田知子「Sign」
会期:2013/03/02~2013/03/31
MEM[東京都]
1月~2月に同じギャラリーで開催した「SKIN」に続いて、澤田知子がまた新作を発表した、女性のストッキングに狙いを絞った前作と同様、今回も得意技のセルフポートレートは封印している。新たな領域にチャレンジしていこうという意欲が伝わる楽しい展示だった。
澤田はアンディ・ウォーホル美術館の依頼によって、同美術館があるアメリカ・ピッツバーグにある70あまりの企業のなかからひとつの会社を選び、コラボレートして作品を制作するというプロジェクトに参加した。彼女が選んだのは、トマトケチャップとマスタードの世界的なメーカーであるハインツ(HEINZ)社である。ウォーホルの「キャンベルスープ」シリーズへのオマージュを込めて、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」の容器を撮影した写真を、壁に整然と並べている。よく見ると、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」という製品表記が、日本語、ハングル、アラビア文字などを含む世界各国の言語に置き換えてあるのがわかる。その数は56種類。ハインツ社のマーケティングで使用されていた、ラッキーナンバーを含む57という数字よりはひとつ少ない。実は欠けている言語は、本家本元の英語の表記だという。そのあたりの徹底したこだわりがいかにも澤田らしい。細部までしっかりと作り込んである労作だ。
この「ポップアート的」な発想は、さらに大きく展開していく可能性を感じる。セルフポートレートの呪縛から自由になったことで、澤田の写真に対する姿勢が微妙に変わりつつあるようだ。ハインツ社に限らず、企業の製品の「リメイク」というのは、なかなか面白い可能性を孕んでいるのではないだろうか。
2013/03/15(金)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2013年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
平成24年度[第16回]文化庁メディア芸術祭受賞作品集
今年度の全ての受賞作品、審査委員会推薦作品、功労賞の詳細、各部門審査委員の講評および対談を収録した受賞作品集。16年間のメディア芸術祭のあゆみが分かる年表付き。
[文化庁メディア芸術祭サイトより一部抜粋]
路上と観察をめぐる表現史
考現学の「現在」
観察の名手たちと、「つくり手知らず」による、路上のマスターピース。今和次郎らが関東大震災を機に始めた「考現学」とは、東京の街と人々の風俗に注目し、生活の現状を調査考察するユニークな研究でした。その後、1986年に結成された路上観察学会をはじめ、「路上」の事物を「観察」することで市井の創造力に注目する活動が、現在にいたるまでさまざまな分野で展開されています。広島市現代美術館で開催される「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」展では、観察者が路上で発見した創作物をあらためて紹介するとともに、観察/発見という行為が「表現」に昇華する様子を検証します。本展の公式書籍である本書は、出品作家による作品図版・貴重資料はもとより、都市論、建築学、表象文化論、美術批評などさまざまなフィールドの論考やコラムを収録し、路上と観察をめぐる壮大なクロニクルを多角的に考察していきます。
[フィルムアート社サイトより]
イメージの進行形
ソーシャル時代の映画と映像
ゼロ年代批評の到達点にして、新たなる出発点 ネットを介して流れる無数の映像群と、ソーシャルネットワークによる絶え間ないコミュニケーションが変える「映画」と社会。「表層批評」(蓮實重彦)を越えて、9.11/3.11以後の映像=社会批評を更新する画期的成果、待望の書籍化。 ウェルズから「踊ってみた」まで、カントから「きっかけはYOU!」まで「今日のグローバル資本主義とソーシャル・ネットワーキングの巨大な社会的影響を踏まえた、これまでにはない新たな「映画(的なもの)」の輪郭を、映画史および視覚文化史、あるいは批評的言説を縦横に参照しながらいかに見出すかーーそれが、本書全体を貫く大きな試みだったといってよい。つまり、筆者が仮に「映像圏Imagosphere」と名づける、その新たな文化的な地平での映像に対する有力な「合理化」のあり方を、主に「コミュニケーション」(冗長性)と「情動」(観客身体)というふたつの要素に着目しつつ具体的な検討を試みてきたわけである。」 [人文書院サイトより]
梯子・階段の文化史
古今東西にみる梯子・階段は、グランド・デザインに組み込まれたデザイン性の高いものから、日常生活に密着したごく素朴なものまで、その形態や用途も含めてさまざまで、その多くが後者のような民衆の文化や現実の生活に密着した存在であることが見えてくる。本書は、建築の発生のはるか以前から、風土や生活の必要性の中から生まれた梯子や階段について、370余点に及ぶ図版・写真等の絵的資料を中心に簡潔にまとめたものである。その誕生の時期や由来、用途、木工技術と材料、階段にまつわる数々の疑問点、家具としての歴史、安全性の考察等、古代から現代までの梯子と階段をあらゆる角度から詳述した唯一の書。
[井上書院サイトより]
現代建築家コンセプト・シリーズ14
吉良森子 これまで と これから ― 建築をさがして
オランダを主な拠点に活躍する吉良森子は、長い時間のスパンのなかで建築を考えている。16世紀末から幾度も改修が繰り返されてきた「シーボルトハウス」や19世紀末に建てられた教会の改修を手がけた経験から、吉良は新築の設計を手がける際にも、その建築が将来の改修でいかに「変わる力」を持つことができるかを考えるようになったという。数十年、数百年の間、改修を重ねながら生き生きと使い続けられる建築とはどのようなものなのか。そこに至るまでの過去「これまで」と「これから」を生きていくクライアントや場所と近隣との出会いからひとつの建築が生まれる。土地や建築、歴史、かかわる人々との対話から始まる吉良森子の設計プロセスが丹念に描き出される一冊。バイリンガル
[LIXIL出版サイトより]
2013/03/15(金)(artscape編集部)