artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2012年7月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

サーキュレーション──日付、場所、行為

著者:中平卓馬
発行日:2012年4月26日
発行:オシリス
価格:5,250円(税込)
サイズ:A5判変

1971年、パリ。世界各国から若い芸術家たちが参加したビエンナーレを舞台に、中平卓馬は「表現とは何か」を問う実験的なプロジェクトを敢行する。「日付」と「場所」に限定された現実を無差別に記録し、ただちに再びそれを現実へと「循環」させるその試みは、自身の写真の方法論を初めて具現化するものだった。[オシリスサイトより]



沖縄写真家シリーズ 琉球烈像 第8巻 中平卓馬写真集 沖縄・奄美・吐力喇1974-1978

著者:中平卓馬
発行日:2012年4月10日
発行:未來社
価格:6,090円(税込)
サイズ:258×234mm

沖縄とヤマトが出会い重なりあう不可視の境界を求めて南を目指した写真家が見たものは、無際限にやさしく、しかしその静けさをもって彼を突き放す孤立した島々だった。1977年の記憶喪失に至る病をはさみ、涯てなき地平・暗闇への志向が陽光をあびる表層への眼差しに変化してゆく作品群を収録。未発表作多数含む104点(カラー74点)。[未來社サイトより]



石巻 VOICE vol.2 CULTURE

発行日:2012年4月
発行:一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0
サイズ:A5判

石巻には素晴らしい文化とそれに携わる魅力的な人達がいます。そんな石巻文化に関わる人たちが本誌にはたくさん登場します。表紙は「軍鶏」などを代表作にもつ石巻出身の漫画家・たなか亜希夫氏の生原稿の写真。氏の実家において津波により水をかぶってしまった時の写真です。[ISHINOMAKI 2.0サイトより]



写真集狂アラーキー

写真:荒木経惟
編集:小原真史、永原耕治(IZU PHOTO MUSEUM)
発行日:2012年6月15日
発行:IZU PHOTO MUSEUM
価格:2,100円(税込)
サイズ:189×126mm

IZU PHOTO MUSEUMで2012年春に開催された「荒木経惟写真集展 アラーキー」の展覧会カタログ。本書では1970年に制作された幻の写真集「ゼロックス写真帖」から2012年5月までに出版された全書籍情報(「荒木経惟全著作1970─2012」、カラー表紙画像付き)を収録し、デビュー以前の電通勤務時代に制作された写真集の原型ともいえるスクラップブック(4冊)を紹介しています。さらに、東日本大震災への応答である渾身の新作《’11 3・11》(63点)に加え、24名の寄稿者によるエッセイ、論考を収録。[NOHARAサイトより]



文藝別冊 [総特集]いしいひさいち 仁義なきお笑い

編集人:西口徹
発行日:2012年6月30日
発行:河出書房新社
価格:1,260円(税込)
サイズ:208×148mm

デビュー40周年記念いしいひさいち大特集。本人書き下ろし「でっちあげインタビュー」、しりあがり寿、吉田戦車、宮部みゆきらの寄稿、大友克洋インタビューのほか、貴重な資料満載。[河出書房新社サイトより]



アートプロジェクト運営ガイドライン

著者:帆足亜紀ほか
発行日:2011年3月
発行:公益財団法人東京都歴史文化財団東京文化発信プロジェクト室
サイズ:A5変判

帆足亜紀がコーディネーターとなった連続ゼミ「プロジェクト運営 ぐるっと360度」で、ゲストに招いた関係者の意見を取り入れながら作成したアートプロジェクトの運営ガイドライン。アートプロジェクトを「実施する」一連のプロセスのポイントをチェックできる。コーディネーター、ゲストによるその活用に関する考え方を示したエッセイも収録。東京文化発信プロジェクトのサイトからダウンロード可能。
http://www.tarl.jp/cat_output/cat_output_plan/1301.html

2012/07/17(火)(artscape編集部)

MEDIA ARTS SUMMER FESTIVAL 2012

会期:2012/07/13~2012/07/15

ICC (Intercross Creative Center)[北海道]

ICC (Intercross Creative Center)は札幌市豊平区に「様々な業種のクリエイターとそれをサポートするビジネスが集まるハイブリッド施設」として2001年に設立された。メディア・アートの振興を中心に活動してきたのだが、NPO法人、S-AIRが主宰するアーティスト・イン・レジデンスの活動も、その大きな柱となっている。
今回の「MEDIA ARTS SUMMER FESTIVAL 2012」は、アーティスト・イン・レジデンスで滞在していたベトナムの映像作家、ファム・ゴック・ランとインドの写真家、ロニー・センの帰国にあわせて企画されたもので、写真、映像、音楽、インスタレーションなど、さまざまなジャンルにまたがる30名以上のアーティストたちが参加している。また、7月15日には「映像・メディアサミット」と「写真家サミット」の2つのシンポジウムが開催され、僕はそのうち「写真家サミット」に、札幌在住の写真家、小室治夫、今義典、露口啓二、山本顕史とともにパネラーとして参加した。
この種のメディア・アートの展示に写真家たちが参加することも、いつのまにか当たり前になってしまった。デジタル化以後、写真家が動画やインスタレーションを含めた展示を試みたり、映像作家が静止画像を取り入れたりするのも目につく。ジャンルの混淆が進むことはむしろ歓迎すべきことだが、逆にそれぞれの領域の固有性が、うまく発揮しにくくなっているのではないだろうか。今回も倉石信乃のテキストと写真とを巧みに組み合わせた露口や、撮影済みのフィルムを光に曝すというインスタレーションを試みた山本など、面白い作品もあったのだが、準備期間が短かったこともあって、水と油的なぎこちなさがつきまとっているようにも感じた。
残念ながら、現在ICCが使用している元教員研修センターだったという建物は、来年3月で閉じられることになるのだという。ICCの活動そのものはそれ以降も別な場所で継続するということなので、また意欲的な展示企画を実現してほしい。

2012/07/15(日)(飯沢耕太郎)

桑島秀樹 展「TTL(Through The Lens)」

会期:2012/07/14~2012/08/04

YOD Gallery[大阪府]

写真作品4点を展覧。それらは、グラスやデキャンタなどのガラス器を緻密に積み上げ、バックライトを当てて大判カメラで撮影、その画像をもとにデジタル技術で多層レイヤーをつくり、銀塩カメラと同様の方法でプリントしたものだ。ウルトラバロック建築や曼荼羅を思わせる超高密度な世界が眼前に広がる。しかもそこには、ガラス特有の透明感や陰影もしっかり表現されているのだ。桑島は大阪在住ながら関西以外での発表が多く、地元の画廊が彼を取り上げるのは珍しい。これだけの技量をもつ作家が地元で知られていないのはあまりにも惜しい。本展を機に、彼の個展が定期的に行なわれることを希望する。

2012/07/14(土)(小吹隆文)

清水裕貴「ホワイトサンズ」

会期:2012/06/25~2012/07/12

ガーディアン・ガーデン[東京都]

リクルートが主催する第5回写真「1_WALL」展(2011年9月20日~10月13日)でグランプリを受賞した清水裕貴の個展である。とても可能性を感じる作家だと思う。注目すべきなのは、1点1点の作品に、それに対応するテキストが付されていること。しかもそれが単なる添え物ではなく、重要な意味を担っている。日本の写真家たちの多くは、どちらかと言えば言葉を潔癖に拒否するタイプが多い。純粋に写真だけで語ろうとする態度を、あながち否定すべきではないが、言葉と画像とを組み合わせて、その相乗効果でより広がりのある世界を創出していくようなつくり手が、もっと増えてもいいのではないだろうか。
ただ、動物園や水族館、さらに「ニューメキシコ州の雪花石膏の純白の砂漠」(「ホワイトサンズ」)などで撮影された画像群、そして「先生」や「ペンギン」や「男の子と女の子」などが登場するテキストのどちらも、まだまだ中途半端で物足りない印象を受ける。写真に写っている事物も、文章で描写されるキャラクターも、どこか入れ替え可能な記号のようで、生身のリアリティを感じることができないのだ。1984年生まれということは、もうそろそろ若書きから脱してもいい年頃だ。写真と言葉の両方とも、さらに厳しく鍛え上げ、研ぎ澄ましていってほしい。もし彼女が一皮むければ、スケールの大きな、凄みのあるつくり手が出現することになりそうだ。

2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)

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本城直季「diorama」

会期:2012/06/05~2012/08/05

写大ギャラリー[東京都]

本城直季は東京工芸大学芸術学部写真学科の出身(2004年に大学院芸術研究メディアアート科修了)だから、同大学の中野キャンパス内にある写大ギャラリーでの個展は、いわば凱旋展ということになる。こういう展示は本人にとってはとても嬉しいものだろう。多くの後輩たちが見にくるわけだから、いつもにも増して力が入るのではないだろうか。代表作であり、2006年に第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した「small planet」に加えて、今回は新作を含む「Light House」(2002年/2011年)のシリーズも展示していた。
本城のトレードマークと言えるのは、言うまでもなく「small planet」で用いた、4×5インチの大判ビューカメラの「アオリ」機能を活かして画像の一部にのみピントを合わせ、あとはぼかす手法だ。これによって得られる、まさにジオラマ的としか言いようのない視覚的効果は、何度見てもめざましいものだ。本城は撮影するポイントを厳密に定め、被写体をきちんと選択することで、見る者に驚きを与えつづけることに成功した。
すでに完成の域に達している「small planet」と比較すると、「Light House」はまだ試行錯誤の段階にあるように見える。自然光で上から見おろす視点の前者に対して、夜の人工光に照らし出された街の一角を水平方向から精密な模型のような雰囲気で写しとる後者は、どちらかと言えば凡庸な描写に思えてしまうのだ。本城は東京、千葉など首都圏近郊の眺めにこだわっているようだが、むしろ被写体となる地域の幅を広げた方が面白くなりそうな気がする。地方都市や外国の街にまで視野におさめていけば、より「映画のセットのような」雰囲気が強まるのではないだろうか。次の展開に期待したい。

2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)

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