artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

神戸ビエンナーレ2009

会期:2009/10/03~2009/11/23

メリケンパーク、兵庫県立美術館、神戸港海上、ほか[兵庫県]

2回目を迎えた神戸ビエンナーレ。今回はメイン会場のメリケンパークに加え、兵庫県立美術館と神戸港海上でも作品展を開催。3会場を船で繋ぐという港町・神戸らしい演出も導入された。また。メリケンパーク会場で文化庁メディア芸術祭の入賞・入選作品の上映が行なわれたり、三宮・元町商店街では地元と大学生の協同プロジェクトが行なわれるなど、バラエティの豊かさも実感できた。結論から言うと、その方向性は正解。招待作家を県立美術館に集めることで質の高い展覧会が見られたし、船に乗るのは単純に楽しい。メリケンパークにコンテナを並べて行なわれた展示も前回より進歩が感じられた。また、全会場に入場でき、船にも乗れる一番高額なチケットが1,500円という価格設定は、良心的と言ってよいだろう。あえて苦言を呈すると、コンテナ展示の一部は進歩が感じられなかった。児童絵画展と障害者作品展はともかく、陶芸展といけばな展はもっとやりようがあるはずだ。この点は第3回の課題として改善を希望する。

2009/10/02(金)(小吹隆文)

野島康三──肖像の核心 展

会期:2009/09/29~2009/11/15

渋谷区立松濤美術館[東京都]

京都で見逃した野島康三展を東京で見ることができるのはありがたい。といっても、展示の内容は少し違っていて、今回はポートレートを中心に野島の作品世界を浮かび上がらせようとしている。ただ、未公開作も含めて肖像やヌード以外の作品も充実しており、「生誕120年」記念にふさわしい堂々たる回顧展である。
あらためて感じたのは、写真作家としての真摯な、それこそ肩を怒らせて生真面目に表現の深みを追求しようとする野島とは別に、資産家の息子に生まれ、お金にも気持ちにも余裕がある、「ディレッタント」としての野島がいたということだ。野外で撮影されたピクニックのスナップ、「すいやう会」と称される野島邸でのパーティの記念写真などを見ると、彼が生活や社交を心から楽しみつつ日々を送っていたことがよくわかる。そういうブルジョワ紳士としての野島と、彼のあの激しく力強い肖像やヌードとの落差もまた、興味深い謎といえるのではないだろうか。同時に刊行された『野島康三 作品と資料集』(渋谷区立松濤美術館)は、戦前・戦後の書簡、文章などを網羅した労作。今後の野島研究の進展に大いに貢献するだろう。

2009/10/01(木)(飯沢耕太郎)

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SHOJI UEDA 1913-2000 写真家・植田正治の軌跡

会期:2009/09/19~2009/11/30

植田正治写真美術館[鳥取県]

鳥取県西伯郡伯耆町の植田正治写真美術館に出かけてきた。カフェトークということで、ラウンジでコーヒーを飲みながら「植田正治とその時代」の話をするという、おしゃれなイベントに講師として招かれたのだ。植田正治美術館は1995年に開館。高松伸設計のコンクリート打ちっぱなしの建物は、植田の戦前の名作「少女四態」(1939)を象ったユニークな外観である。2000年の植田の歿後も、しっかりとした企画の展示を続けてがんばっている。ただ、交通の便があまりよいとはいえないので、集客には苦労しているようだ。名峰、大山の麓の素晴らしい環境なので、ぜひ一度といわず二度でも三度でも足を運んでほしい(12月、1月、2月は冬期休業)。
さて、今回の展示は2005~2008年にスペイン、スイス、フランスの6会場を巡回した展覧会がもとになっている。フランスの写真評論家、ガブリエル・ボーレが、1週間美術館の収蔵庫に通い詰めて選んだという作品は、初期から晩年に至る植田正治の作品世界をバランスよく概観することができる。特に、あまり注目されてこなかった1970~80年代の「風景の光景」シリーズや、最晩年の「黒い海」(1999)の連作など,植田の新たな側面にスポットを当てていて、なかなか興味深い展示だった。こうして見ると、植田の作品がいまヨーロッパの観客に、「植田調」(UEDA-CHO)と称されて驚きの目で迎えられている理由がわかるような気がする。そのどこかドライで、くっきりとしたフォルムを保った写真空間の構築は、まったく日本人離れしていて、フランスやイタリアの作家のようなのだ。鳥取県という「地方」で活動しながら、その視点は国際的に充分通用する高みに達していた。これは痛快な生き方だと思う。

2009/09/27(日)(飯沢耕太郎)

神戸ビエンナーレ2009

会期:2009/10/03~2009/11/23

メリケンパーク、神戸港会場、兵庫県立美術館、三宮・元町商店街[兵庫県]

2007年に第1回が開催された神戸ビエンナーレ。その売りは、貨物コンテナを大量に持ち込んで展示会場に流用するという、港町・神戸を意識したプランだった。しかし、引きが取れず照明設備が劣るコンテナでは、インスタレーションや映像ならともかく、絵画や立体をまともに見ることは難しい。そうした設備面での悪条件と、さまざまなレベルの作品が混在した配置もあって、多くの課題を残す結果となった。今秋の第2回では、招待作家を兵庫県立美術館に集中させ、主会場のメリケンパークと連絡船で結ぶ方式を採用。さらに海上でも作品展示を行ない、スケールとグレードの向上を図っている。メリケンパーク会場で昨年同様コンテナが用いられるのは、筆者としては残念。しかし、兵庫県立美術館と海上で質の高い展示が行なわれるなら、前回以上の成果が期待できる。また、街中の三宮・元町商店街と美大生・専門学生による共同企画も予定されており、地元との密着が強く意識されている点にも好感が持てる。主催者の構想が額面通りに機能して、見応えのある催しになることを期待する。

2009/09/20(日)(小吹隆文)

小林のりお「アウト・オブ・アガルタ」

会期:2009/09/15~2009/09/28

新宿ニコンサロン[東京都]

小林のりおは1990年代の末から、主に自分のウェブ・サイトで作品を発表するようになった。その軽やかに浮遊する写真表現は、多くの写真家たちに刺激を与え続けてきたのだが、彼自身はギャラリーや美術館での展示にも、パソコンの画面とは別な表現の可能性を感じているようだ。特にデジタルカメラやプリンターの進化で、プリントのクオリティは数年前に比べて格段に上がっており、展示にも自信を深めている様子が伝わってきた。
今回の「アウト・オブ・アガルタ」(2006~09)のシリーズは、青いポリバケツ、コカコーラの空き瓶など、身近な事物や光景をやや寄り気味に撮影したものが中心で、くっきりしすぎるほど鮮やかな色味とテクスチャーでプリントされている。タイトルの「アガルタ」には幻の地底王国という意味がある。小林の思惑では、楽園から遠く離れたかに見える現在の世界においても、網膜を強烈に刺激する人工楽園のイメージを呼び起こすことができるということだろう。小林は、やや逆説的な意味合いを込めて「デジタルリアリズム」という言葉を使っているのだが、たしかにそこには、いま世界はこのようにしか見えようがないというリアルさがある。
何枚か、水に落ちて死んでいる蛾や甲虫を撮影した写真があり、いやおうなしに宮本隆司の「Kobe 2008 bugs」のシリーズを想い起こした。「明るい無常」とでもいうべき感覚が、両者に共通しているように思える。

2009/09/19(土)(飯沢耕太郎)