2021年08月01日号
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artscapeレビュー

野島康三──肖像の核心 展

2009年11月15日号

会期:2009/09/29~2009/11/15

渋谷区立松濤美術館[東京都]

京都で見逃した野島康三展を東京で見ることができるのはありがたい。といっても、展示の内容は少し違っていて、今回はポートレートを中心に野島の作品世界を浮かび上がらせようとしている。ただ、未公開作も含めて肖像やヌード以外の作品も充実しており、「生誕120年」記念にふさわしい堂々たる回顧展である。
あらためて感じたのは、写真作家としての真摯な、それこそ肩を怒らせて生真面目に表現の深みを追求しようとする野島とは別に、資産家の息子に生まれ、お金にも気持ちにも余裕がある、「ディレッタント」としての野島がいたということだ。野外で撮影されたピクニックのスナップ、「すいやう会」と称される野島邸でのパーティの記念写真などを見ると、彼が生活や社交を心から楽しみつつ日々を送っていたことがよくわかる。そういうブルジョワ紳士としての野島と、彼のあの激しく力強い肖像やヌードとの落差もまた、興味深い謎といえるのではないだろうか。同時に刊行された『野島康三 作品と資料集』(渋谷区立松濤美術館)は、戦前・戦後の書簡、文章などを網羅した労作。今後の野島研究の進展に大いに貢献するだろう。

2009/10/01(木)(飯沢耕太郎)

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