2022年10月01日号
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artscapeレビュー

小林のりお「アウト・オブ・アガルタ」

2009年10月15日号

会期:2009/09/15~2009/09/28

新宿ニコンサロン[東京都]

小林のりおは1990年代の末から、主に自分のウェブ・サイトで作品を発表するようになった。その軽やかに浮遊する写真表現は、多くの写真家たちに刺激を与え続けてきたのだが、彼自身はギャラリーや美術館での展示にも、パソコンの画面とは別な表現の可能性を感じているようだ。特にデジタルカメラやプリンターの進化で、プリントのクオリティは数年前に比べて格段に上がっており、展示にも自信を深めている様子が伝わってきた。
今回の「アウト・オブ・アガルタ」(2006~09)のシリーズは、青いポリバケツ、コカコーラの空き瓶など、身近な事物や光景をやや寄り気味に撮影したものが中心で、くっきりしすぎるほど鮮やかな色味とテクスチャーでプリントされている。タイトルの「アガルタ」には幻の地底王国という意味がある。小林の思惑では、楽園から遠く離れたかに見える現在の世界においても、網膜を強烈に刺激する人工楽園のイメージを呼び起こすことができるということだろう。小林は、やや逆説的な意味合いを込めて「デジタルリアリズム」という言葉を使っているのだが、たしかにそこには、いま世界はこのようにしか見えようがないというリアルさがある。
何枚か、水に落ちて死んでいる蛾や甲虫を撮影した写真があり、いやおうなしに宮本隆司の「Kobe 2008 bugs」のシリーズを想い起こした。「明るい無常」とでもいうべき感覚が、両者に共通しているように思える。

2009/09/19(土)(飯沢耕太郎)

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