artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
森村泰昌展 魔舞裸華視

会期:2009/08/28~2009/10/03
epSITE GALLERY 1[東京都]
森村泰昌の新作展。フリーダ・カーロに扮したセルフ・ポートレイトのほか、掛け軸、屏風、絵巻なども発表した。タイトルの「魔舞裸華視」とは「まぜこぜにする」という意味の「まぶす」から転じた造語らしいが、出品されたのはたしかにメキシコ的な世界と日本的な世界が混合した作品ばかり。セルフ・ポートレイトはフリーダ・カーロに変装しているという点ではメキシコ的であるものの、そのフレームはパチンコ屋の店頭に立ち並ぶ花輪のように装飾されているし、掛け軸の背後の壁紙にプリントされている図柄は金平糖で覆われた頭蓋骨だ。このシャレコウベは、一見するとデミアン・ハーストのダイヤモンドを散りばめた頭蓋骨にたいする、いかにも森村流のパロディとも読み取れるが、じっさいはシャレコウベのかたちのメキシコの砂糖菓子だろう。メキシコの歴史と分かちがたく結ばれた「哀しき玩具」が、日本的な掛け軸や屏風と掛け合わせられているわけだが、その「まぶらかし」という構えこそ、じつは日本的だったのだ。
2009/09/14(月)(福住廉)
トヨダヒトシ『NAZUNA』

会期:2009/09/11
横須賀美術館[神奈川県]
ニューヨーク在住のトヨダヒトシは、スライドショーでしか作品を発表しない写真家。日々撮影した映像を一枚ずつ、等間隔で映し出すだけで、音楽等は一切使わない。ただし時折短い言葉(思考の断片、登場人物のプロフィールなど)が挟み込まれる。そのような上映が80~90分も続くというと、退屈するのではないかと思われるかもしれないが、まったくそんなことはない。僕は彼のスライドショーを3~4回見ているのだが、いつもその流れに引き込まれ、彼の眼差しと同化して満ち足りた時間を過ごす。あえて写真集やDVDなどに作品を収録して公表することを避けているので、まだ「知る人ぞ知る」の存在だが、それでも少しずつトヨダの名前は知られてきている。映像の選択と構成に、紛れもなく独特のセンスがあり、一度見ると癖になってしまうところがあるのだ。
今回、横須賀美術館の中庭にスクリーンを立てて上映された『NAZUNA』は2005年の作品。チラシによれば以下のような内容である。
9.11.01/うろたえたNY/11年振りの秋の東京を訪れた/日本のアーミッシュの村へ/アフガニスタンへの空爆は続く/ただ、/やがて来た春/長くなる滞在/写真に撮ったこと、撮らなかったこと、撮れなかったこと/白く小さな/東京/秋/雨/見続けること
そこには時代や歴史を動かしていく流れがあり、永遠に変わらないような暮らしがあり、かかわりの深い人間の生と死があり、それらを包み込む自然や季節の変化がある。トヨダのスライドの中には、同時発生的に生成/消滅していく、複数の生と死のシステムが組み込まれており、カシャ、カシャという微かな音ととともに、それらが闇に一瞬浮かび上がって、移り変わっていくのだ。「見続けること」という小さな、だが強い思いは、スライドを見ていくうちにごく自然に観客に共有されていくようだった。トヨダの作品については、言葉で解説するのはとてもむずかしいので、ぜひ機会があったらスライドショーに足を運んでほしい。
なお、タイトルの「NAZUNA」は、「よく見ればなずな花咲く垣根かな」という芭蕉の句からとられている。9月12日には同じ会場でトヨダの別の作品『spoonfulriver』(2007)、13日には『An Elephant’s Tail』(1999)も上映された。
2009/09/11(金)(飯沢耕太郎)
森本美絵「Single Plural」
会期:2009/08/03~2009/09/13
MISAKO & ROSEN[東京都]
写真家・森本美絵の個展。長年ひそかに撮り続けてきたという家族写真を発表した。家族という最小の社会集団が幾人かの成員によって成り立っているように、森本の家族写真もまた、ひとつの印画紙に複数のイメージを、わずかに重複させながら、定着させている。それらのあいだに直接的な関係性を見出すことは難しいが、それぞれの写真が抽象度の高い構図で撮影されているせいか、ひとつのフレームに収まっていることに違和感がないほど、じつに収まりがよい。その、相対的に自律しながらも、ゆるやかな全体を形成するという集団のありように、森本にとっての家族像が投影されているようだった。
2009/09/11(金)(福住廉)
玉野真衣 写真展 fade away

会期:2009/09/07~2009/09/19
Port Gallery T[大阪府]
玉野は幼少期から物を捨てられない性分。ある日、溜まりに溜まった思い出の品々をひとつずつ写真に撮ろうと考え、その行為が個展に結実した。壁面に展示されている作品は約10点、ファイル展示は約40点。それらは彼女にとってほんの一部に過ぎないが、見る側にとっては唖然とするものも含まれる。特に、今でもフレッシュな粘土には驚かされた。手法はオーソドックスだが、モチーフが他に代え難いので作品にオリジナリティがある。彼女は全年代の私物を残しているらしいので、今後も制作を続けてライフワーク化すれば後世に残る怪作が生まれるであろう。
2009/09/07(月)(小吹隆文)
やなぎみわ 婆々娘々!

会期:2009/06/20~2009/09/23
国立国際美術館[大阪府]
第53回ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館代表として参加している、やなぎみわの個展。《マイ・グランドマザーズ》の全26点をはじめ、《フェアリー・テール》、そしてヴェネツィアで披露している最新作《ウィンドスウェプト・ウィメン》が展示された。3つのシリーズごとに空間を明確に区別して、それぞれの空間の明るさにメリハリをつけた展示構成が、うまい。カラフルな色合いが多い《マイ・グランドマザーズ》の明るい空間にはじまり、モノクロの《フェアリー・テール》は一転してブラックキューブに、そして同じくモノクロの《ウィンドスウェプト・ウィメン》はほのかに明るく、適度に暗いという微妙な空間で発表されたため、知らず知らずのうちに、鑑賞者はやなぎが物語る想像世界にどっぷりはまっていく。新作の《ウィンドスウェプト・ウィメン》は、荒野で激しく踊り狂う、文字どおり垂乳根の女たちを写しているが、背景の山脈や足元の樹木と見比べてみると、彼女たちが山をも一跨ぎにするほどの超巨大なサイズであることに気づかされる。重厚なフォトフレームをはみ出さんばかりの勢いだ。マザコンだとかなんとかいっている暇を与えないほど、バカバカしくも圧倒的な母性の叛乱が、爽快である。
2009/09/06(日)(福住廉)


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