artscapeレビュー
2013年08月01日号のレビュー/プレビュー
横尾忠則どうぶつ図鑑 YOKOO'S YOKOO ZOO
会期:2013/07/13~2013/09/16
横尾忠則現代美術館[兵庫県]
近年、夏休みの美術館は親子向け企画を行なうのが定番になっている。本展もそのひとつだが、特徴は横尾忠則作品だけで構成されていることと、彼の作品のうち動物を描いたものを対象としていることだ。動物がキーになったのは思い付きではなく、美術館の向かいに王子動物園があることと関係がある。展示室では横尾の作品と、動物園から提供を受けた動物剥製(白熊、カモシカ、ペンギン、狸、鳥類など)のユニークな共演が楽しめるのだ。これなら美術館に不慣れな子どもでも飽きることなく展示を楽しむことができるだろう。地の利を生かして親子向け企画に新風を吹き込んだ本展。美術館と動物園双方に相乗効果をもたらすことが期待される。
2013/07/12(金)(小吹隆文)
ヱヴァンゲリヲンと日本刀
会期:2013/07/03~2013/09/16
大阪歴史博物館[大阪府]
「エヴァンゲリオン」は1995年にテレビ放映されたアニメで大きな反響を呼んだのだが、その後も劇場版として映画化されるなど多くの固定ファンを持っている。本展は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開(2012年11月)にあわせて企画されたもので、現代の刀匠たちが「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の世界からインスピレーションを受けて制作した作品(日本刀)を紹介するもの。斬新な形や色をした作品が目をひく。ヱヴァンゲリヲンのファン、または日本刀のファンにはたまらないイベントかもしれない。[金相美]
2013/07/14(日)(SYNK)
プレビュー:フランス国立クリュニー中世美術館所蔵「貴婦人と一角獣」
会期:2013/07/27~2013/10/20
国立国際美術館[大阪府]
門外不出といわれる、フランス国立クリュニー中世美術館のタピスリー《貴婦人と一角獣》が、東京・国立新美術館に続き、大阪・国立国際美術館でも展覧される。この6面の連作のタピスリー(1500年頃の作とされる/いずれも3メートルを超える大作)がそろって、日本で公開されるのは初めて。同作に用いられたモティーフに関連する彫刻・装身具・ステンドグラスなどを含め、約40点が出品される。タピスリーの5面は、人間の五感「触覚」(旗を掲げて、一角獣の角に触れている貴婦人)、「味覚」(貴婦人の左手に止まった鳥がお菓子をついばんでいる)、「嗅覚」(花輪を編む貴婦人の後ろに、花の香をかぐ猿がいる)、「聴覚」(オルガンを弾く貴婦人)、「視覚」(貴婦人の鏡に映った自分の姿に見入る一角獣)を表わしているが、残る1面「我が唯一の望み」(青い天幕の前で宝石を手にする貴婦人)の意味するところは未だに明らかにされていないという。とりわけ中世に流行したタピスリーは、部屋にたんに飾られただけでなく、上流階級が領地を移動する際に富や威信のしるしとして持ち運ばれた。館内の隙間風を防ぐ役目もあった。タピスリーに精緻に織られた中世の物語(それが挿話や空想、戯れや恋愛、なんであれ)を、自分なりに読み解く喜び。めったに貸し出されることのない作品と対面するのが楽しみな展覧会である。[竹内有子]
2013/07/17(水)(SYNK)
LIFE 永井一正ポスター展
会期:2013/07/09~2013/08/30
dddギャラリー[大阪府]
グラフィックデザイナー永井一正の「LIFE」シリーズを中心に、動植物をモチーフとしたシリーズ・ポスターを紹介する展覧会。これらの作品群は、永井が1980年代後半からライフワークとして取り組んでいるシリーズで、かけがえのない命や自然への強いメッセージを発信している。1929年に大阪で生まれた永井は、東京藝術大学の彫刻科に進学したものの眼底出血の発病により中退し帰郷する。彫刻家の夢を断念し失意のまま家で過ごしていたある日、父親が働いていた大和紡績から声がかかり宣伝部で働くことになる。こうして永井のデザイナー人生は始まった。永井はデザイン学校に通うなどの正規的なデザイン教育は受けなかったが、日本デザインセンターの創設に関わり、また数々の革新的なポスターを発表し続けるなど、日本のデザイン界のみならず、時代を牽引してきた人物である。初期は「アサヒスタイニー」や「ニコン」のポスターなど幾何学的な造形美を表現し、中期には写真と細かい線による平面的な構成やモンタージュ手法を用いた抽象的な作品を発表した。今回の動植物をモチーフとしたシリーズは永井の作風としては後期ともいえるもので、手描きによる有機的な形態をした、無邪気で時には幻想的にも見える生き物たちが登場する。大きな目でこちらを見つめる動物たちを見ていると、切実な訴えが聞こえてくるような気がする。「あなたたち人間は快適さと便利さを求め環境を破壊し続けてきました。そして私たちの小さな住処までを奪ってしまいました。いま地球は、弱い命たちは、悲鳴をあげているのです」と。生きること、そして共に生きることについて改めて考えさせられる。
生きものの形を描きながら、
生きとし生けるものたちとの
共生の意義を考えたい。
出典=永井一正『つくることば いきることば』(六耀社、2012)58頁
[金相美]
2013/07/18(木)(SYNK)
介護とデザイン
会期:2013/07/17~2013/08/12
松屋銀座7階・デザインギャラリー1953[東京都]
介護の場で求められるものはなにか。デザインにできることはなにか。本展は長年介護ロボットの開発を手がけてきたデザイナー喜多俊之による二つの事例を手掛かりに、高齢化社会と介護環境におけるデザインによる問題解決の行方を探る企画である。提案のひとつは「ROBOHELPER SASUKE」(マッスル株式会社)。要介護者のベッドから車椅子などへの移乗を支援するロボットである。もうひとつは、「wakamaru」(三菱重工業株式会社)。これは物理的な支援を行なうのではなく、コミュニケーションを目的としたロボットである。医療や介護の現場ではさまざまなかたちで機械化の試みが行なわれてきている。産業における機械化との違いは、対象が形態や重量などの点で非常に多様性がある「人間」を扱わなければならないという点であろう。もちろん物理的な問題だけであれば解決は比較的容易であるが、人間には心がある。そのために、フォークリフトで荷物を運ぶような解決で済ませるわけにはいかない。背後に機械が存在したとしても、インターフェースがより重要になる。通常であれば機械のインターフェースは操作者を対象とすればよい。しかし、福祉機器の場合は操作者と同時に操作の対象(=人間)に対するインターフェースがより重要になる。それでは、人対人の関係に機械が介在するとき、いったいどのようなインターフェースであれば、機械の向こう側にいる人間をお互いに感じることができるのであろうか。「ROBOHELPER SASUKE」は要介護者の側では、専用シートに差し込まれるアームが人間の腕が人を抱き上げるのに似た操作を実現する。操作者の側では力覚センサが操作者の意図を関知して動作を「支援」する、パワーアシスト型の機構となっている。「自動化」ではなく「支援」が、このインターフェースのキーである。「wakamaru」は造作、大きさ、色、動きなどの点でより望ましいインターフェースを探る試みと言えよう。介護の現場にどのように機械が導入されるかは、最終的には人と機械の相対的なコストの問題であると思われるが、コストの問題がクリアされたとき、デザインで先行する福祉機器メーカーには、より大きなビジネスチャンスが訪れるに違いない。[新川徳彦]
2013/07/18(木)(SYNK)