2020年11月15日号
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artscapeレビュー

2013年08月01日号のレビュー/プレビュー

グラフィックトライアル2013──燦(さん)

会期:2013/05/18~2013/08/04

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

グラフィックデザインとオフセット印刷の組み合わせにより新たな表現の可能性を求めるプロジェクト。8回目の今年は「燦(さん)」を共通のテーマに、佐藤晃一、成田久、髙谷廉、阿部拓也のグラフィックデザイナー4氏と凸版印刷のプリンティング・ディレクターが協働した。佐藤晃一のトライアルは、「蛍光インキによるパステル表現の可能性」。原画を淡くぼかして蛍光インキで刷られた「きいちのぬりえ」にシャープな墨版を重ねることで、和菓子の練り切りのような透明感のある、それでいてざらざらとした不思議な質感を表現する。成田久は「パッチワーク印刷でドキドキがいっぱい」。さまざまな色や紙の組み合わせで刷られた成田自身の顔のパッチワークは、同じ写真をモチーフに用いていても、印刷によって多彩な表情が生み出せることを示している。髙谷廉のトライアルは「色によるハレーション効果の追求」。たとえば補色関係にある色彩が並ぶと眼がチカチカするようなハレーション効果が生じる。通常は嫌われがちな現象であるが、色彩の組み合わせや色面の形態の相違による効果の違いを追求し、これを表現の手段にする試みである。阿部拓也は「暗闇のなかに輝く光を」。インクやニスの重ね刷りと印刷用紙の組み合わせによって多様な「黒」を追求すると同時に、暗闇のなかに輝く光の表現を探る。いずれのトライアルも、印刷技術とデザインの組み合わせがもたらす輝き、きらめくような視覚効果、すなわち「燦」なのである。[新川徳彦]

関連レビュー

オフセット印刷で探るグラフィック表現の可能性──グラフィックトライアル2011|SYNK・新川徳彦
グラフィックトライアル2012──おいしい印刷|SYNK・新川徳彦

2013/07/18(木)(SYNK)

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大竹伸朗 展「ニューニュー」「憶速」「女根/めこん」

[香川県]

ニューニュー:2013/07/13~11/04(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)
憶速:2013/07/17~2013/09/01(高松市美術館)
女根/めこん:2013/07/20~2013/09/01、2013/10/05~2013/11/04(女木島)

大竹伸朗の展覧会が、香川県の3カ所で同時開催されている。これだけ大規模な機会は「全景」展(2006年、東京都現代美術館)以来だ。3つの会場は以下のように性格分けされている。女木島の《女根/めこん》(画像)は「瀬戸内国際芸術祭2013」の出品物であり、すでに春から展示されている。しかし、その後も大竹が手を入れ続け、春とはすっかり異なる様相になってしまった。この作品は永遠に未完成と言っても差し支えなく、今後も変化し続けるであろう。丸亀の個展は2010年以降の作品を集めた近作・新作展で、2012年の「ドクメンタ」に出品した《モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋》や、1階エントランスの巨大なボーリングピンの立体《時憶/美唄》をはじめとする立体と、大量のドローイングやコラージュで構成されている。以上2展が大竹のいまと近年を表わしているのに対し、高松の「憶速」展は、大竹の過去を「記憶」と「速度」をキーワードに再編したものだ。出品数は534点。ジャンルやシリーズではなく、キーワードに準じて作品選定を行なっているのが興味深い。また、1977年から現在までのスケッチブック96冊を一挙に展示しており、非常に見応えがあった。今年は大竹が宇和島に移住して25周年にあたる。また、高松市美の開館、瀬戸大橋の開通も25周年であり、奇しき縁が大竹と香川を結びつけたと言えるだろう。3会場とも驚くべき密度とテンションに貫かれており、この夏見ておくべき展覧会である。

2013/07/18(金)(小吹隆文)

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大竹夏紀 個展6

会期:2013/07/15~2013/07/27

GALLERY b. TOKYO[東京都]

ろうけつ染めを駆使した染織絵画で知られる大竹夏紀の個展。
きらびやかな少女をモチーフとしながら、それらの図像を支持体から切り出して壁面に直接貼りつける方法はこれまでと変わらないが、アイドルたちを彩る造形や色彩はこれまで以上に過剰になっていたように見受けられた。全身を収めた構図ではなく、頭部を中心に構成された作品が多かったせいか、顔の周りに装飾された花や星、宝石などの描写も、色彩のグラデーションも、目眩を催すほど、非常に細かい。
華美な装飾性はアイドルに必要不可欠である。ところが、大竹の作品が面白いのは、デコラティヴな方向性を極限化することによって、装飾されえない少女の本質的なところを浮き彫りにする逆説を生んでいるからだ。装飾が過剰になればなるほど、少女たちの白い地が際立つと言ってもいい。実際、見る者がその色彩と造形に目を奪われることは事実だが、絶え間ない視線運動がどこに行き着くかというと、それは顔面の中央、すなわち何物にも染まっていない絹の下地なのだ。
そこに何が隠されているのか、ほんとうのところはわからない。けれども、その空白に視線が誘われることの意味は大きい。装飾や化粧の本質を突いているからではない。描くことの意義が描かないことに置かれているからだ。

2013/07/19(金)(福住廉)

薄井一議 写真展「Showa88/昭和88年」

会期:2013/06/15~2013/08/08

写大ギャラリー[東京都]

「マカロニキリシタン」で知られる薄井一議の写真展。タイトルは、元号としての昭和が継続していたら今年が「昭和88年」になるということ。その架空の時間軸を設定したうえで、大阪の飛田新地や京都の五条楽園、千葉の栄町などで撮影した写真作品18点を展示した。
「昭和」という語感にすでに哀愁が漂っているように、その写真といえば陰りや汚れ、そして湿度が付き物だった。私たちが想像する「昭和」のイメージも、おおむねそのようなものになりつつある。ところが薄井の写真には、そうした暗鬱とした空気感は一切見られない。むしろ明るく、色彩豊かで、きれいに乾いている。大半の写真に出現している鮮やかな桜色は、薄井にとっての「昭和」が決してノスタルジーの対象ではないことを如実に物語っている。
もちろん、「昭和」を象徴する記号がないわけではない。キャバレー、時代劇のポスター、大衆演劇の役者、そして雪駄を履いたスキンヘッドのチンピラたち。とはいえ、刀を握りしめた彼らが身にまとうシャツは、いずれもピンクや赤でけばけばしい。「昭和」が続いていたら、つまり「平成」が訪れていなかったら、造形は変わらずとも、このように色彩が激変していたに違いないということなのだろう。
とはいえ、それだけではなかった。最後に展示されていた一枚は、被災地の写真。画面の中央には、破壊された街並みを貫く一本の車道が写されている。周囲の痛ましい傷跡とは対照的に、きれいに片付けられたその車道がやけに眩しい。チリひとつ落ちていない清潔な路面は、復興の必要であると同時に、おそらく現代都市生活の象徴でもあるのだろう。そう考えると、薄井の写真に表われている明るい色彩も、現在の都市社会に欠かすことのできない構成要素であることに気づく。
そう、「昭和88年」というプロジェクトは、たんなるフィクションではなく、かといってノスタルジーでもなく、あくまでも現在を逆照するために仮設された装置なのだ。だからこそ薄井は、このようにいかにも今日的な明るい写真で撮ったのだ。だとすれば、その装置からは明度の高い色彩や除菌的潔癖性のほかにも、さまざまな要素が導き出されるのではないだろうか。「昭和」をとおした現在の表現には、あらゆる可能性が潜在しているに違いない。

2013/07/19(金)(福住廉)

ART OSAKA 2013

会期:2013/07/20~2013/07/21

ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]

関西を代表する現代美術のアートフェアとして知られる「ART OSAKA」。今年は国内外の52画廊が参加し、例年どおりビギナーからコレクターまでをフォローする過不足のない仕上がりとなった。また今年は、具体美術協会の第2世代の作家たちに迫るグループ展や、フランスの歴史ある公募展から選抜された若手作家のグループ展、ホテルグランヴィア大阪と京都市立芸術大学によるプロジェクトなどの企画展も充実しており、催しに深みを持たせることにも成功していた。こうした積極的な展開は、実行委員の世代交代(若返り)が上手く機能している何よりの証拠であろう。関西のアートマーケットは首都圏に比べると小さいが、国内でアートフェアが成立する数少ない地域のひとつである。地元の芸術文化の灯を絶やさぬためにも、「ART OSAKA」には今後も励んでほしい。

2013/07/20(土)(小吹隆文)

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