artscapeレビュー

2015年11月01日号のレビュー/プレビュー

マカオのアズレージョ──ポルトガル生まれのタイルと石畳

会期:2015/09/04~2015/11/17

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

世界遺産/旧ポルトガル植民地・マカオの街並みの様子を写真・映像・実物タイル7組をとおして紹介する展覧会。小規模ながらも展示からは、ポルトガルと中国文化が混じり合う異国情緒を感じることができる。ポルトガルからもたらされた「アズレージョ」という装飾タイルと「カルサーダス」という石畳の文様。マカオの街に見える装飾は、東西文化の幸福な融合を示しているようだ。アズレージョは16世紀から制作され始めた多彩色のタイルだが、マカオでは白地に青色単彩が多いのは中国の好みによるそうだ。青花の染付を想起させる。石畳自体はヨーロッパで伝統的な道路舗装でもあるが、カルサーダスは19世紀にリスボンでつくられ始めた、白と黒の石灰岩を使って道路や広場にはめこんで文様をつくるもの。マカオの場合は、そこに中国独特のモチーフ(貨幣や漢字等)が使われていて面白い。展示されている実物のタイルは、17-19世紀にポルトガルで制作された多彩色と単色のもので、西洋の装飾文様の時代ごとの変遷をも見て取ることができる。例えば使用されている植物モチーフは、自然主義的な表現から抽象的な幾何学的表現に変化している。[竹内有子]

2015/10/17(土)(SYNK)

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杉田一弥×来田猛展「FLOWERS」

会期:2015/10/19~2015/10/24

ギャラリー白/ギャラリー白3[大阪府]

陶芸コレクターで華道家の杉田一弥が、自身が所蔵する器に花を生け、写真家の来田猛が撮影した写真作品として展示している。杉田は一昨年に同様の作品集『香玉』(青幻社)を出版しているが(写真家は木村羊一)、今回は写真家を来田猛に交代し新たなチャレンジを行なった。器の陶芸家は、鯉江良二、柳原睦夫、加藤委、熊倉順吉、滝口和男などで、杉田は彼らに挑むかのように斬新な花の造形を展開、来田は4×5の大判フィルムで撮影した後、高解像度でデジタルスキャンし、あえて大きなサイズでプリントしたものをアクリルマウントして見せている。実物より大きく引き伸ばされた作品は、その解像度と発色ゆえに新たな生命を吹き込まれており、生で見る生け花とは別種の感動があった。まさに器・花・写真が三位一体となった表現であり、きわめて上質なコラボレーションと言えるだろう。

2015/10/19(月)(小吹隆文)

プレビュー:学園前アートウィーク2015──イマ・ココ・カラ

会期:2015/11/07~2015/11/15

近鉄「学園前駅」南エリア[奈良県]

関西を代表するニュータウンで、高級住宅街としても知られる奈良・学園前で、地域アートのイベントが行なわれる。会場は、近鉄「学園前駅」南側の邸宅、学校、公民館、美術館、ギャラリーなど7カ所。出品作家は、安藤栄作、伊東宣明、稲垣智子、マリアーネ、三瀬夏之介など14組だ。また、帝塚山大学、東北芸術工科大学、奈良教育大学による共同制作、地域の歴史をテーマにした写真展も同時開催される。一見豊かな環境に見える学園前だが、じつは少子高齢化や空き家問題が静かに進行しつつあるという。そうした問題をあぶり出し、意識を共有するために現代アートを用いるのがこのイベントの主旨である。過疎地でも大都市でもなく、「郊外」をクローズアップした点に、これまでの地域アートイベントとは異なる目新しさを感じる。

公式サイト http://gakuenmae-art.jp/

2015/10/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:「咲くやこの花芸術祭2015」より、現代美術の瀧弘子と文楽のインスタレーション「曾根崎心中」天神森の段

会期:2015/11/27

大阪市中央公会堂[大阪府]

将来の大阪を担うべき概ね40歳以下の芸術家に贈られる「咲くやこの花賞」。対象ジャンルは、「美術」「音楽」「演劇・舞踊」「大衆芸能」「文芸その他」の5部門で、これまでの受賞者は160組を超える。その受賞者たちが受賞翌年に成果を披露するのが「咲くやこの花芸術祭」だ。筆者が注目しているのは「美術」の瀧弘子。彼女は2012年に成安造形大学を卒業したばかりの新鋭だが、すでに多くの活動歴を持ち、美術関係者からの評価も高い。同祭では、絵画、映像、鏡などを駆使してポートレイト作品を投影する《写身(うつしみ)》を館内の特別室など各所に展示する(11/27~29)ほか、11月27日には文楽と共演して「曾根崎心中」より天神森の段を上演する。特に文楽との共演は、彼女にとって飛躍の契機となるだろう。どのような舞台を見せてくれるのか、期待が大きく膨らむ。

「咲くやこの花芸術祭2015」公式サイト http://www.sakuya-konohana.com/sakuya2015/

2015/10/20(火)(小吹隆文)

琳派400年記念 植物園 de RIMPA「PANTHEON──神々の饗宴」

会期:2015/07/25~2015/10/25

京都府立植物園[京都府]

琳派400年記念展として、京都府立植物園の観覧温室「鏡池」を会場に開かれた本展。会期前の5月26日からはじまった序章「雷神──黒い太陽」をかわきりに、7月25日からは1章「フローラ降臨」が、8月13日からは3章「風神の塔」が、そして9月から最終章「New Generation Plant」がはじまりいよいよクライマックスをむかえた。9月27日から10月11日の期間にはライティングと音楽を交えた光の饗宴が催され、展覧会のフィナーレを飾った。
鏡池という舞台上、むかって左には放電パフォーマンスをする《雷神》、右には頭上の風車の発電によって水を吸って吐きだす《風神の塔》、そして中央には静かに微笑む《フローラ》。巨大な3体のオブジェはヤノベケンジの手による。そして、フローラを囲んで水面から突きだして伸びる植物のようなオブジェは増田セバスチャンの作品《New Generation Plant》である。最終章の夜間のライトアップは高橋匡太が担当した。3人のアーティストの共演である。
植物園は、日中、市民の憩いの場である。来園者が散歩や写生、写真撮影など思い思いに過ごすなかで、3メートル以上もの高さはあろうかと思われる巨大オブジェたちはどことなく場違いで落ち着かないように見える。しかし、夜間のライトアップでは一転。街灯すらおぼつかない暗闇の園内を進むと、ライトに照らされた木々が現われ、さらに進むと赤、緑、青などのカラフルな光、「ひかりの実」3,000個が木々に灯ってファンタジックな世界を演出している。そしてメインステージの鏡池では、ぼんやりと光に浮かぶ観覧温室を背景にオブジェたちは音楽に合わせてライトアップされ、雷神はバチバチと放電し、水面の植物には光の花が開き、フローラのドレスはカラフルに輝いている。音楽が佳境に入ると、なんとフローラは立ち上がってそれまで閉じていた目を開くのである。5月から5カ月間をかけて盛り上がってきた本展もこのエレクトリカル・ショーをもって幕を閉じ、冬の植物園が静けさを取り戻すのかと思うと少々名残惜しいような気がした。[平光睦子]


ヤノベケンジ《フローラ》と増田セバスチャン《New Generation Plant》(手前)、ヤノベケンジ《風神の塔》(奥)


夜間ライトアップ

2015/10/20(火)(SYNK)

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2015年11月01日号の
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