三野新《Prepared for FILM》:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
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三野新《Prepared for FILM》

2018年08月01日号

会期:2018/06/01~2018/07/16

京都芸術センター[京都府]

京都芸術センター「Tips」展に出品された本作は劇作家サミュエル・ベケットの映画『フィルム』(1965)を元にしたインスタレーション。同時に、同タイトルのパフォーマンス(2014)を再構成したものでもある(ちなみに筆者はパフォーマンス版にドラマトゥルクとして参加していた)。

『フィルム』は逃げるように街路をゆく男の後ろ姿から始まる。男はある部屋に逃げ込むとカーテンを閉め、犬や猫を追い出し、鳥かごや金魚鉢に覆いをかけていく。他者の視線を排除し、安心した男がまどろみ始めると、カメラがゆっくりと男の正面へと回り込む。ハッと目覚めた男が目にするのは自らと瓜二つの男の姿だ。他者の視線をいかに排除しようと、自身の知覚から逃れることはできない──。

パフォーマンス版は犬や鳥かごなど映画に登場する要素を撮影した写真を展示したギャラリーで、それらの写真を使って『フィルム』を撮影する様子を観客に見せるというもの。インスタレーション版はパフォーマンスで使用した写真や上演台本、記録映像に加え、上演空間のジオラマと、そのジオラマを使った指人形によるパフォーマンスの「再演」映像によって構成されている。

インスタレーション版では、来場者の鑑賞行為そのものが元となったパフォーマンスの一部、視線の運動を再現することになる。そもそものパフォーマンス版自体が展示空間で写真を見ていく様子を要素として組み込んでいたからこその手法だが、指人形を使った「再演」映像とジオラマによるサイズ感の操作も効いている。鑑賞行為自体をキーにするという手法は、そのままの形で保存・再生することができないパフォーマンスをいかにアーカイヴするかという問いに対するひとつの応答であり、『フィルム』の脚本冒頭に掲げられた哲学者バークリーの言葉「存在することは知覚されることである」を体現するものでもあるだろう。作品に内在する運動は文字通り、鑑賞されることによって立ち上がる。

[撮影:Arata Mino]

公式ページ:https://www.aratamino.com/
三野新「Prepared for FILM」初演劇評:http://www.wonderlands.jp/archives/26131/

2018/07/08(山﨑健太)

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