artscapeレビュー

平林達也「白い花(Desire is cause of all thing)」

2018年08月01日号

会期:2018/07/18~2018/07/24

銀座ニコンサロン[東京都]

1961年、東京生まれの平林達也の新作「白い花」も、「ピクトリアリズム」の美意識を取り込んだ作品である。こちらは、大正から昭和初期にかけて、日本の「芸術写真」の主流となった「ベス単派」の再現というべき写真が並ぶ。大正初年から日本に輸入された単玉レンズ付きのヴェスト・ポケット・コダック・カメラは、比較的値段が安かったのと、絞りを開放にするとソフトフォーカスの画面になることで、当時のアマチュア写真家たちが「芸術写真」を制作するのに好んで使用した。高山正隆、山本牧彦、渡辺淳、塩谷定好らの作品は、彼らの理論的な指導者であった中島謙吉が「情緒、気分、想念、さうした抽象的の感覚」と称した高度な作画意識を繊細なテクニックで実現しており、近年、国内外で再評価の機運が高まっている。

平林は、その「ベス単派」へのオマージュをこめて、キヨハラ製のソフトフォーカスレンズを使った作品を構想した。花、森、女性、水などの被写体もほぼ共通しているのだが、単なる懐古趣味や絵空事に終わらないリアリティを感じる。それは、もともと平林の関心が、「あらゆる生命の根本的な命題」である「欲望と環境」に向けられているからだろう。つまり「ベス単派」の作品よりも、より生々しい、切実さを感じさせる写真が並んでいるのだ。平林は東海大学卒業後の1984年にドイに入社し、2003年には銀塩写真のプリントに定評があるフォトグラファーズ・ラボラトリーを設立した。銀塩写真の暗室作業は、その意味で、彼にとってほかに代えがたい作品制作のプロセスといえる。特に今回の展示作品には、黒の締まりと光の滲みとを両立させるために、高度なプリントのテクニックが活用されていた。

なお、展覧会にあわせてUI出版から同名の写真集(装丁・長尾敦子)が刊行された。本展は8月23日~8月29日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2018/07/18(水)(飯沢耕太郎)

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