2018年11月15日号
次回12月3日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

大竹省二「ある写真家のアンソロジー」

会期:2018/08/29~2018/09/22

Kiyoyuki Kuwahara AG[東京都]

大竹省二(1920~2015)は1945年に中国から帰国後、連合軍総司令部(GHQ)報道部の嘱託となり、写真家としての活動を再開する。女性写真や世界の音楽家たちを撮影したポートレートで、たちまち頭角を現して人気写真家となった。1953年には、秋山庄太郎、林忠彦らと二科会写真部を創設し、2003年からは同写真部理事長を務めた。

大竹のロマンティックで上品な写真作品は、つねに写真雑誌の口絵ページを飾り続けていたが、その制作活動のバックグラウンドとして、写真撮影やプリントの技術に対する真摯な取り組みがあったことは見落とされがちだ。特にカメラのレンズへの関心の深さは驚くべきもので、各種のレンズの特性を知って使い分けることで、クオリティの高い作品につなげている。それがよくわかるのは、『アサヒカメラ』(1995年1月号~2008年3月号)に掲載されたコラム「レンズ観相学」である。「タンバール90ミリF2.2」から「キヤノンEF35~70ミリF3.5~4.5」まで、158回続いたこの連載で、大竹は作例写真を掲載するとともに各レンズに対する愛情のこもったコメントを書き記している。

今回のKiyoyuki Kuwahara AGの個展では、「レンズ観相学」に「Mロッコール28ミリF2.8」の作例として掲載された「さすらい」をはじめとして、主に海外で女性モデルを撮影した写真、約20点が並んでいた。プリントは長女の大竹あゆみによるもので、大竹所蔵のレンズ13本も特別出品されている。1960年代から2000年代まで、かなり長い期間に撮影された写真群だが、的確な画面構成と光と影の微妙な移ろいを捉える能力の高さは、さすがとしか言いようがない。没後3年を経て、遺作の整理もだいぶ進んでいるようなので、そろそろ大規模な回顧展を実現してほしいものだ。

2018/09/14(飯沢耕太郎)

山元彩香「We are Made of Grass, Soil, and Trees」

会期:2018/08/25~2018/09/29

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでの山元彩香の個展は4年ぶりだという。その展示を見て、彼女の写真のたたずまいが微妙に変わってきているように感じた。

異国の地で出会った少女たちをモデルにしたポートレートという、基本的な写真のあり方は同じである。だが今回、ラトビア、ロシア、ウクライナ、ブルガリア、ルーマニアなどで行なわれた撮影では、被写体を突き放すのではなく、より細やかにコミュニケーションをとっているように感じる。以前は、互いに言葉がわからないので意思疎通が図れないという状況を逆手にとって、あえて自分とモデルたちとの意識のズレを可視化するような作品が多かったのだが、今回の撮影は「対面する相手の名前の意味や見た夢など、その人の本質に迫るヒントを求めて質問を投げかけながら」行なわれたのだという。結果として、以前よりポートレートとしての精度と深みが増してきているのではないだろうか。

また、展示作品のなかには、純粋なポートレートではなく、女性が写っている白黒写真を画面に配した静物写真も1点だけ含まれていた。この試みも、今後の彼女の写真の新たな方向性を示唆している。ポートレートと静物、風景などを組み合わせることで、より多層的な世界を取り込むことができるのではないだろうか。今回の展示をひとつの区切りとして、さらなるな可能性を模索していってほしい。なお、写真展の開催に合わせて、T&M Projectsから同名の写真集が刊行されている。

2018/09/12(飯沢耕太郎)

濱田祐史「RGB」

会期:2018/09/07~2018/10/27

PGI[東京都]

濱田祐史が2014年にPGIで発表した「C/M/Y」は、写真を色の三原色であるCMYに分解し、画像を再構築する試みだった。今回の「RGB」はその続編というべきシリーズで、光の三原色(RGB)をテーマとして制作された。以前は、被写体を実体として写し込んでいたのだが、本作ではより抽象度が強まり、「白をバックに影を被写体として、R(赤)G(緑)B(青)のフィルターを使用し、多重露光で」撮影している。結果として、1920~30年代の実験的なフォトグラム作品のカラー版といった趣の作品になった。使用したフィルムがどのように三原色を再現しているのかを確認するため、それぞれの作品のタイトルは各フィルムの名前になっている。

濱田の「フィルムに露光された光の色自体を見てみたくなった」という作品制作の動機はよく理解できる。コンセプトを形にしていく手続きも細部まできちんと目配りされ、ロジカルに組み上げられている。また、マット系の印画紙の選択や額装の仕方などにも、濱田らしい繊細なこだわりがうかがえた。だが、このような作品は、純粋性を追い求めていけばいくほど、色面のパターン処理以上のものではなくなってしまう。痩せ細ったミニマリズムに陥る危険性を、うまく回避しながら仕事を進めていってほしいものだ。そう考えると、2017年にPGIで発表した「Broken Chord」のような、より具象性が強いシリーズとの合体という方向性もありそうだ。

2018/09/12(飯沢耕太郎)

中里和人「Night in Earth」

会期:2018/09/03~2018/09/15

巷房ギャラリー[東京都]

中里和人が東京・銀座のギャラリー巷房の3つのスペース(3階、地下、階段下)全部を使って意欲的な展覧会を開催した。火山列島、日本の海岸線を、夜に月の光で撮影する「Night in Earth」のシリーズは、2016年の同ギャラリーでの個展「惑星 Night in Earth」に続いて2度目だが、今回は撮影範囲が紀伊半島から四国、九州、日本海へと広がり、よりスケールアップした展示になっていた。

会場に掲げられていたコメントによれば、中里は夜の海と岩場を撮影しているうちに「空と陸と海とわたしとが一体化し、自然の中に包摂されてしまう開放感」を味わったのだという。さらにそこには、「地球のはじまりを想起させる惑星としての原風景」が出現していたと続ける。たしかに月の光に照らし出された海岸線の光景には、そんな魔術的な力が備わっているのではないかと納得できるものがあった。階段下のスペースでは、写真と同時に撮影された映像(動画)作品が上映されていたが、これも面白い試みだと思う。むしろ、静止画像と動画を渾然一体とした、体験型のインスタレーションも考えられるのではないだろうか。

なお、展示に合わせて蒼穹舎から同名の写真集も刊行された。この「Night in Earth」のシリーズも一応の区切りを迎えたということだが、まだ終わらせるのはもったいない気がする。撮影場所や視点の取り方を広げていけば、さらなる展開も考えられそうだ。

2018/09/07(飯沢耕太郎)

有元伸也「ariphoto vol.32」

会期:2018/09/04~2018/09/16

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

今年(2018)の夏は異様なほどの暑さで記憶に残っていくだろう。有元伸也が、新宿界隈を6×6判で撮影したスナップショットを、「ariphoto」と題して展示するのも32回目になるのだが、今回はとりわけそこに写っている人物たちの熱量が半端でないように感じる。今回展示された写真は、今年の6~8月に撮影されたとのことだが、異様な風体、只ならぬ振る舞いの人物たちがひしめいているのは、あの狂ったような暑さとどこか関係があるように思えてならない。別な見方をすれば、有元がそれだけ皮膚感覚を鋭敏に研ぎ澄ませて、シャッターを切り続けているということでもある。

有元は仲間たちとともに運営する新宿・四谷のTOTEM POLE PHOTO GALLERYで「ariphoto」の写真群を発表しながら、2010年から年一冊のペースでA3判変型の大判写真集『ariphoto selection』シリーズを刊行し続けてきた。今回の展示にあわせて、そのvol.9とvol.10が出たのだが、残念なことにこの写真集シリーズはこれで打ち止めということになりそうだ。最大の理由は、郵送料が当初の4倍近くにアップしていることだという。判型が大きく、かさばる写真集をどう配本していくかは、以前から大きな問題だったのだが、状況はかなり厳しくなっているようだ。

『ariphoto selection vol.9』は、2001年に大阪から上京してきた頃に集中して撮影した、カラー写真のスナップショットをまとめたもので、どこか不安げな初々しい眼差しが印象的だ。『ariphoto selection vol.10』は今回展示されたハードコアな新宿のスナップ写真で構成され、最後に腕を伸ばして撮影したセルフポートレートで〆ている。『ariphoto selection』をこれ以上見られなくなるのは残念だが、昨年林忠彦賞と日本写真協会作家賞をダブル受賞した写真集『TOKYO CIRCULATION』(Zen Foto Gallery)のように、また別な形で再編集版を刊行してほしいものだ。

2018/09/07(飯沢耕太郎)

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