artscapeレビュー
うつゆみこ『Wunderkammer』
2023年11月15日号
発行所:ふげん社
発行日:2023/10/10
2006年に第26回写真「ひとつぼ展」でグランプリを受賞し、翌年、ガーディアン・ガーデンで受賞記念展を開催した頃から、展覧会や作品集の形でうつゆみこの作品を見続けてきた。その過剰な創作エネルギーには、いつでも圧倒される。展覧会の会場には、ひしめくように作品が並び、同時期に何冊ものzineが刊行される。作品をプリントしたTシャツなども売られている。ある種の強迫観念の産物のような作品群をみるたびに、この人の制作行為のモチベーションは何なのだろうと思っていたのだが、今回ふげん社から刊行された写真集『Wunderkammer』に目を通して、その秘密を少しは理解できるような気がしてきた。
写真集は「yaoyorozoo」「増殖」「いかして ころして あたえて うばって」の三部構成で、全部で170点以上の作品がおさめられている。それらを見ると、初期作品も含む「yaoyorozoo」や「増殖」のパートを経て、近作が中心の「いかして ころして あたえて うばって」に至る過程で、うつの作品制作のあり方が大きく変わってきたように感じた。さまざまな場所で購入・蒐集した印刷物、オブジェ、キャラクター・グッズなどのコレクションを、構想と妄想のおもむくままに構築した「yaoyorozoo」や「増殖」のコラージュ作品は、たしかにめくるめくようなイメージ空間を形成している。ところが、その「Wunderkammer=驚異の部屋」は、二人の娘をはじめ、うつと同居する生き物たちが次々に登場してくる「いかして ころして あたえて うばって」のパートになると、むしろ彼女自身の生そのものと、見分けがたく同化してきているように見えてくる。自宅のアトリエでの創作活動こそが日常であり、社会的な営みの方が非日常化するという逆転現象が生じてきているのだ。結果として、一個一個の作品から立ち上がる切実なリアリティはただならぬものになりつつある。
この作品集が、うつゆみこの作家活動のひとつの区切りとなることは間違いないだろう。日本国内だけでなく、海外の写真関係者がどんな反応を示すのかが楽しみだ。
うつゆみこ『Wunderkammer』:https://fugensha-shop.stores.jp/items/6513bd2a5d2d4e002facecc0
2023/10/16(月)(飯沢耕太郎)