artscapeレビュー

2011年12月15日号のレビュー/プレビュー

土木デザイン設計競技「景観開花。8」公開最終審査会

会期:2011/11/26

東北大学川内北キャンパスA講義棟200教室[宮城県]

街路をテーマにした「景観開花。」の公開最終審査会が行なわれた。一次審査のときからこれが一位になるのかなと思っていた松本亜味らの「ほねまち─津波に強い平野のまち─」がやはり最優秀賞だった。魚の骨型に土を盛って、仙台の平野部に緊急時の避難路を設けるというもの。2位はすり鉢の細やかな地形を重視した早稲田チームである。敢闘賞には、林匡宏の神話的な渋谷川の方舟の提案が選ばれた。今回、最後は無理がない自然体のプロジェクトに投票した。

2011/11/26(土)(五十嵐太郎)

山田優アントニ展

会期:2011/11/15~2011/11/26

ギャラリー16 APERTO[京都府]

画面に描かれている人物の姿形はさまざまなのだが、すべて作家自身の記憶、感情、経験を投影した“自画像”だという肖像画が並んでいた。どれもどこか奇妙な印象を受けるもので、得体の知れないと言うと失礼かもしれないが、悪い意味ではなく、むしろ清々しさを覚える不思議な魅力を感じてひっかかった。微妙な顔の表情もさることながら、描かれた洋服、帽子など、中世ヨーロッパを想起させる服装にも違和感がある。透明感が感じられる画面なのだが、近づいてみると絵の具が何度も塗り重ねられ、厚く層を成しているのがわかる。奥行きや色彩の表情が複雑に表われ、視線がつい誘い込まれるようなのだが、モチーフも含め、全体に調和していない雰囲気が気持ちを引き摺らせる作品だ。作家は愛知県立芸術大学の大学院生で、絵を描くようになったのは肖像画家の父の影響が大きいとコメントにあった。そのバックグラウンドからいろいろな想像も広がる。だが、それを知ることは特に重要というわけではない、そんな才気が感じられる作家だった。

2011/11/26(土)(酒井千穂)

高岡美岐 展

会期:2011/11/22~2011/11/27

アートスペース虹[京都府]

自分が目にした風景を携帯のカメラで撮影し、それを水彩ドローイングに起こし、そしてさらにそれらからタブローに展開していくという作品制作を続けている高岡。その膨大な数の写真、ドローイングの量、そこに費やす時間を想像してみるといつも興味深い。おもに川縁や水辺の光景を描いたものが発表された今展には、3年前にも訪れたという同じ場所の、過去と現在の風景を一枚の絵画にした作品も展示されていた。力強さやスピードがうかがえるさまざまな筆致と鮮やかな色彩は、途切れない時間のなかで変化していく周囲の存在や景色への連想も掻き立てるのだが、ただ感傷的な情緒というものではなく、はじめて目にする風景のような新鮮な印象もある。解説なしで見る者を惹きつける力がもっと上がっていきそう。

2011/11/26(土)(酒井千穂)

MIT×100

会期:2011/11/19~2011/12/04

art project room ARTZONE[京都府]

若い表現者たちによって立ち上げられたカルティベーション・パートナーズというグループは「つながり/たがやす」というテーマをもって展覧会やアートイベントなどを積極的に行なっている。今展のタイトル、MIT(ミット)には、ドイツ語で「~と一緒に」という意味があるそうで、昨年もドイツ、ハンブルグの若手作家とともに合同展覧会を開催していた。その第2回目。6カ国31作家と昨年よりも参加国、参加作家の数も増え、絵画、マンガ、イラスト、立体と、さまざまなジャンルの作品が展示された今展。ドローイングや小さな作品が多いのだが、展示作品数は100点以上、色とりどりの賑やかな会場であった。私が訪れたときは、出展アーティスト達による作品の公開プレゼンテーションの最中。人数も多いため、そのなかで展示を見て回るのは気後れするような気分だったが、率直な感想や意見が遠慮なく作品制作者にぶつけられるその場はなかなか面白かった。ただ楽しい内輪だけの盛り上がりにならない(ように努力している)彼らの態度がうかがえて好感が持てる。ぜひ第3回へと続けてほしい。

2011/11/26(土)(酒井千穂)

「日本のかたち展」ミラノサローネ帰国展と京文化フォーラム

会期:2011/11/19~2011/11/27

有斐斎 弘道館[京都府]

今年の「ミラノサローネ」で展示された作品の帰国展として開催された展覧会。「日本の伝統的なかたち、美意識、感性を現代のインテリア空間や生活スタイルに、新しく機能する室礼として提案する」というテーマがあり、イタリアのデザイナーも含め、年令や性別もさまざまな20名のアーティストの作品が展示された。「日本」「伝統」というキーワードのせいなのか、たしかに美しいデザインは多いのだが、新しさを感じるというほどのものはほとんどなかった。けれど、そんななかで抜群に素敵だったのが、陶板画家で陶磁器デザイナーでもある河原尚子の2点の器。ひとつは蝶と亀、もうひとつには鳳凰と波の文様が描かれているのだが、これらにはそれぞれに物語も設定されていた。どちらの器も華やかな色彩で、装飾的な絵柄や文様に目を奪われるようであったのだが、特に感動したのはひとつの器に、欠けた箇所を漆で継ぐ「漆継」という技法があえて施されていたこと。それは、修復技術としての伝統を示すものでもありながら、物語世界の時間を表わすものでもあった。磁器という限られたマチエールのなかで、連想とイメージを自由に展開する河原の豊かな想像力とセンスが見事に発揮されていた。

2011/11/27(日)(酒井千穂)

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