artscapeレビュー

2011年12月15日号のレビュー/プレビュー

石川真生『日の丸を視る目』

発行所:未來社

発行日:2011年9月30日

2011年の写真集の大きな収穫のひとつといえる。今年のさがみはら写真賞をプロの部で受賞するなど、石川真生のドキュメンタリーの評価が高まってきている。この新作写真集も渾身の力作シリーズである。
1993年に、87年の沖縄海邦国体会場の日の丸を引きずりおろして焼いたことで逮捕された知花昌一が、家にあった日の丸の旗を持っている写真を撮影したのをきっかけに、この「日の丸を視る目」のシリーズが構想された。「日の丸の旗を持たせて、その人自身を、日本人を、日本の国を表現させる」というコンセプトで99年までに100組を撮影して『週刊現代』に発表、その後も撮り続けて2011年までに184組に達した。本書にはそのうち100組のパフォーマンスがおさめられている。
その間に撮影地は日本だけでなく、韓国、台湾、ロンドン、パリまで広がる。左翼からごりごりの右翼まで、部落解放同盟の運動家からアイヌ人まで、主婦もいれば高校生も性同一性障害者もいる。その被写体の広がり具合に、石川の意図がはっきりと表われている。あくまでも公平に、だがどんな過激な行為でも許容していくことで、これまた驚くべき広がりを持つパフォーマンスが記録されていった。韓国人や台湾人の反応にしても、予想されるような憎悪や反撥だけではない。なかには日本への親近感を語り、「がんばれ日本」と記す者もいる。「やってみなければわからない」パフォーマンス・フォトの面白さが、とてもよく発揮されたシリーズではないかと思う。
ラストは写真家本人のセルフポートレート。直腸癌の手術後に体に付けられた真っ赤な人工肛門を日の丸の中央から覗かせて、こちらをぐっと見据えている。気迫あふれるメッセージが伝わってくるいい写真だ。

2011/11/28(月)(飯沢耕太郎)

南相馬市プロジェクト「塔と壁画のある仮設集会所」ワークショップ

会期:2011/11/27~2011/11/28

南相馬市[福島県]

南相馬市の仮設住宅地にて、ワークショップとゼミ合宿を行なった。彦坂尚嘉による巨大壁画のある集会所の基本設計を、東北大の五十嵐研が担当したが、引き続き、学生らが大工の協力を得て、ベンチを制作した。2つのタイプがあり、ひとつは「南相馬市民のうた」のサビの楽譜を取り込んだもの、もうひとつは6個で1ユニットとなり、台形のピースをつなぐと、六角形になるタイプである。また塔を建てるプロジェクトも動きだし、その部材の運び込みと塗装を行なった。12月中に塔も完成する予定である。

2011/11/28(月)(五十嵐太郎)

TAMA VIVANT II 2011 ただいま検索中

会期:2011/11/25~2011/12/04

パルテノン多摩[東京都]

パルテノン多摩に行く途中、たまたま新宿駅地下でやっていた古本市で、ラグーザ玉を特集した『彷書月刊』を発見。ラグーサ玉を読みながらパルテノン多摩に向かう……。つまらないシャレに走ってしまうのは、あまり書く気が起きないときだ。多摩美芸術学科の学生が企画・運営するアニュアル展で、富田菜摘、下平千夏、海老塚耕一、今村遼佑ら7人が出品。会場が閑散としていたせいもあるかもしれないが、作品はともかく展示全体に工夫というか熱が感じられず、なにか冷ややかな空気が流れていた。だいたい会場の中央に「あそびじゅつ」のコーナーがあるのが解せない。先日見た「ドロップ・ミー!」も同じく多摩美芸術学科の学外展だったが、まず場所に対する意識の違いで負けている。唯一の収穫は、コンクリートブロックの穴に小さな明かりを灯した今村の小さな作品。

2011/11/28(月)(村田真)

三木俊治教授退職記念展「111111──終わりのない行列」

会期:2011/11/11~2011/11/30

東京造形大学付属美術館[東京都]

三木さんとは1987年、ロンドンのテートギャラリーの前で「どこかで見たことのある顔だ」とお互い思ったのか、どちらともなく声をかけて知り合った。聞くと、同じ東京造形大の出身だが、ぼくが入ったときにはもう卒業されていたという。しかしその後も大学に残られたので、やはりお会いしていたのかもしれない。ともあれ彫刻家としての三木さんは、行列する人々の群像で知られている。群像といっても、一人ひとりを見るとたしかに手足は認められるものの大ざっぱには鉄の破片にすぎず、それらが横に連なったシルエットが行列に見えるといういわば現象としての彫刻なのだ。いいかえれば「不特定多数」という概念を彫刻化したような作品。そのせいか彫刻なのに平面的で、重量を感じさせない。美術館を一巡してなにか物足りなさを感じたのは、作品に重量感がないからではなく、学内のふたつのギャラリーでも展示しているのを見逃したからだった。ガーン。

2011/11/28(月)(村田真)

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清川あさみ「美/女/採/集」

会期:2011/11/03~2012/01/22

水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]

文化服装学院在学中からモデルとして活動しながら、現代美術、絵本、広告、衣裳などさまざまな分野の作品を発表して注目された清川あさみの、はじめての大型個展。水戸芸術館の会場をいっぱいに使って、有名女優、歌手、宝塚歌劇団の男役スターまでを「採集」して動物に見立てた「美女採集」のシリーズをはじめとして、華麗で派手な作品が並んでいた。写真に刺繍やスパンコールで装飾を施していくという手法は目新しいものではないが、細やかな手技と携帯電話やペデキュアの模様を思わせるちょっとキッチュで可愛い感覚がうまくマッチしている。今をときめく「AKB48」をはじめ、これだけのモデルたちをコントロールしていくアイディアの豊富さと企画力も、なかなかのものといえるだろう。
ただ、どうも気になるのは、装飾を施していくベースになる「写真」が、古くさくセンスが悪いものに見えてしまうことだ。清川自身が撮影しているのか、誰かがアシスタントとしてサポートしているのかはわからないが、スタジオ撮りされた写真のテイストが、1970~80年代くらいで止まっている。かといって中国や韓国のウェディング・フォトのような、過剰なエネルギーを感じさせる俗悪なイメージにも成りきれていない。これはもったいないと思う。アーヴィング・ペンと三宅一生とまではいかないにしても、むしろ力のある写真家とコラボレーションして、持ち前の創造性をもっとのびのびと発揮すればいいのではないだろうか。

2011/11/29(火)(飯沢耕太郎)

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