2017年11月15日号
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artscapeレビュー

2010年02月15日号のレビュー/プレビュー

フィリップ・フォレスト、澤田直・小黒昌文訳『荒木経惟 つひのはてに』

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発行所:白水社

発行日:2009年12月10日

フィリップ・フォレストは1962年生まれのフランスの批評家、作家。シュルレアリスムや「テル・ケル派」についての研究で知られていたが、娘の病死をきっかけに書いた『永遠の子ども』(1997年)で小説にも手を染め、高い評価を受けるようになる。とはいえ、静謐で端正な文体の彼の小説は、散文詩と哲学的エッセイのアマルガムとでもいうべきもので、一般的な「ロマン」とはほど遠い。フォレストは日本の近代文学にも造詣が深く、特に「私小説」の伝統に関心を寄せてきた。荒木経惟の31枚の写真を31章の断章で読み解く本書も、その文脈から構想されたものである。なお、2008年に白水社から刊行された彼の前著『さりながら』にも、小林一茶、夏目漱石とともに原爆投下直後の長崎を撮影した写真家、山端庸介が取りあげられており、彼が写真という表現媒体にも強く惹かれていることがわかる。
本書を通読して感じたのは、荒木のような日本の社会・文化の状況と深くかかわりながら仕事をしている写真家の作品を読み解く時に、むしろ日本人には盲点になる所があるのではないかということである。最も大きな衝撃を受けたのは、あの『センチメンタルな旅』(1971年)におさめられた、小舟の中に横たわる陽子の写真についての彼の解釈だ。陽子は資生堂化粧品の包み紙に頭を載せて眠っている。ロゴの一部が隠れていて、「SHI」という文字だけが目に入ってくる。つまり彼女は「SHI=死」の上に横たわっているのだ。僕たちはつい特徴的なロゴを見て、それが資生堂化粧品の包み紙だということだけで納得してしまう。「SHI」が死であることに気がついたのは、フォレストがフランス人だからともいえる。逆にこのユニークな荒木論には、誤解や曲解もかなり多くある。そのあたりをうまくクロスさせていけば、このような異文化の眼差しの交流は、実りの多い成果をもたらすのではないだろうか。

2010/01/03(日)(飯沢耕太郎)

『la ville franchisée』

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発行所:Edition de la Villette

発行日:2004年

ダヴィッド・マンジャンによる現代都市論。マンジャンは、SEURAの代表であり、レ・アールの再開発コンペで、OMA、アトリエ・ジャン・ヌーヴェル、MVRDVらに勝った、フランスで注目の都市計画家、建築家である。スプロール化しつつ郊外に広がるフランスのメトロポリスは、都市でも田舎でもない新しいハイブリッドな領域をつくり出している。本書は、都市の形態に注目しながら、そのようなフランスの都市的状況の背後にあるメカニズムを明らかにしている。マンジャンは、都市周辺部のいたるところで、道路網インフラ、戸建住宅地、郊外型ショッピングセンターという三つの組み合わせがあることに注目する。そして、ヨーロッパの都市だけではなく、アジア、アメリカ、アフリカの都市とも比較しつつ、それらが組み合わされた効果を検証する。特に都市形態に注目している点では、フィリップ・パヌレらによる名著”Formes urbaines de l' lot la barre”(邦訳『住環境の都市形態』)を意識しているといえるであろう。本書はフランスにおける都市論の新しい必携本になるかもしれない。

2010/01/04(月)(松田達)

まばゆい、がらんどう

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会期:2010/01/06~2010/01/20

東京藝術大学大学美術館 展示室1[東京都]

「絵画、彫刻、写真、映像、音響、インスタレーションなど、さまざまな手法を横断する作家による尖鋭な作品を紹介し、“アート”とテクノロジーの可能性を探る」という趣旨で、東京藝術大学写真センターの椎木静寧が企画・構成した現代美術のグループ展。出品作家は、志水児王、鷹野隆大、高嶺格、谷山恭子、玉井健司、平野治朗、森弘治の7人である。
志水のレーザー光線を使った繊細な光のインスタレーション、谷山の柔らかに伸び広がっていく有機的なオブジェの構成など、面白い作品もあるのだが、あまりにも手法、テーマがバラバラ過ぎて展覧会全体の輪郭がうまく像を結ばなかった。「まばゆい、がらんどう」というなかなかいいタイトルも、あまりぴったりフィットしているとは思えない。出品作家の中で唯一の写真家である鷹野隆大は《男の乗り方》シリーズと《ヨコたわるラフ》シリーズから、ロールサイズに大きく引き伸ばしたモノクローム・プリントを出品していた。これも技術的な問題のためなのか、いつもののびのびとした展示の効果が充分に発揮されているようには見えなかったのが残念だ。鷹野はこの所、息を継ぐ間もなく展覧会や写真集の出版が続いている。小休止が必要な時期に来ているのかもしれない。

2010/01/06(水)(飯沢耕太郎)

アイヌの美──カムイと創造する世界

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会期:2009/11.23~2010/01/11

京都文化博物館[京都府]

ロシア民族学博物館が所蔵するアイヌ民族の資料から215点を展示。衣類や木製道具などの模様や図柄の「美」に焦点を当てた展覧会。衣服の刺繍や、小刀などの道具に彫られたさまざまな模様の美しさもさることながら、丁寧に時間をかけてつくられ、大切に扱われてきたことがうかがえる資料群には圧倒的な魅力と迫力がある。魔除けやお守り、儀式でシャーマンが用いるかぶり物などもあったが、トナカイの足、セイウチや鮭の皮など見たこともない素材にも目を見張った。厳しい自然の環境で暮らす人々の切実な祈りが込められた知恵と工夫の塊であることがどの資料からも伝わってきてとにかく凄い。日本初公開というアイヌ絵12点の展示も見応えがある。江戸時代から明治のはじめに活躍した絵師・平沢屏山の作品なのだが、《種痘図》《熊送り図》など、実際に蝦夷地に住みながら描いたというアイヌの生活は、なんとも生々しい臨場感だ。会場の解説は雑なものに感じられたが、かえって展示資料の用途や使用場面など詳細が知りたくなってカタログも購入。素晴らしい内容だった。

2010/01/06(水)

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アイヌの美──カムイと創造する世界

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会期:2009/11.23~2010/01/11

京都文化博物館[京都府]

ロシア民族学博物館が所蔵するアイヌ民族の資料から215点を展示。衣類や木製道具などの模様や図柄の「美」に焦点を当てた展覧会。衣服の刺繍や、小刀などの道具に彫られたさまざまな模様の美しさもさることながら、丁寧に時間をかけてつくられ、大切に扱われてきたことがうかがえる資料群には圧倒的な魅力と迫力がある。魔除けやお守り、儀式でシャーマンが用いるかぶり物などもあったが、トナカイの足、セイウチや鮭の皮など見たこともない素材にも目を見張った。厳しい自然の環境で暮らす人々の切実な祈りが込められた知恵と工夫の塊であることがどの資料からも伝わってきてとにかく凄い。日本初公開というアイヌ絵12点の展示も見応えがある。江戸時代から明治のはじめに活躍した絵師・平沢屏山の作品なのだが、《種痘図》《熊送り図》など、実際に蝦夷地に住みながら描いたというアイヌの生活は、なんとも生々しい臨場感だ。会場の解説は雑なものに感じられたが、かえって展示資料の用途や使用場面など詳細が知りたくなってカタログも購入。素晴らしい内容だった。

2010/01/06(水)(酒井千穂)

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