artscapeレビュー

ヨーロピアン・モード

2014年06月01日号

会期:2014/02/07~2014/05/24

文化学園服飾博物館[東京都]

ヨーロッパ服飾史入門。ただ様式の変遷を時系列で追うばかりではなく、同時代の社会、技術、産業の変化やそのファッションへの影響をパネルやファッションプレートの展示で解説している。毎年恒例の企画で、これまでは18世紀後半から1970年代までの200年間のファッションの歴史と特集展示の組み合わせであったが、今年は期間を20世紀末までの約250年間に拡大している。これからファッションを学ぼうという学生たちにとって、20世紀ファッションはすでに自分たちが肌で経験していない「歴史」の領域である。それにもかかわらず、昨年までの展示では現代ファッションとつながるはずの30年ほどの歴史がすっぽりと抜けていたことになる。なので、扱う期間の拡大は必然であったと思う。ただし、時代が新しくなるほどファッションの変化は速く、かつ多様化していることを考えれば、その歴史的な文脈での評価はまだ難しいに違いない。他に今年は男性服と子供服の展示が加わった。ヨーロッパにおける子供の歴史といえば、フィリップ・アリエスの『〈子供〉の誕生』が思い出される★1。アリエスはヨーロッパにおける「子供の発見」は17世紀以降の出来事であり、中世において子供は大人たちと変わらない服装をしていたと述べている。また、坂井妙子氏の研究によれば、実際には子供が大人と異なる服装をするようになったのは1770年代以降のことであり、さらには子供専用の服が本格的に現われるのは、ヴィクトリア朝後期になってからであるという★2。今回の企画に出品されていた子供服の事例はそうした変容を語るにはかならずしも十分ではなかったが、子供服の誕生とその変化は服飾史のなかでもとても興味深い出来事であり、より掘り下げたテーマの企画を見てみたいと思う。[新川徳彦]

★1──フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生──アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(みすず書房、1980)
★2──坂井妙子『アリスの服が着たい──ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生』(勁草書房、2007)



展示風景1


展示風景2

2014/05/08(木)(SYNK)

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