artscapeレビュー

開館15周年記念 サッカー展、イメージのゆくえ。

2014年06月01日号

会期:2014/04/26~2014/06/22

うらわ美術館[埼玉県]

サッカー・ワールドカップが開催される年であり、浦和で開催されている展覧会だからといって「サッカーファンのための企画」と思って訪れたならば、きっと肩すかしを食らうに違いない。なにしろ、ポスター・チラシのデザインにあたっては、デザイナーにあえて赤(浦和レッドダイヤモンズのシンボルカラー)とオレンジ(大宮アルディージャのシンボルカラー)の使用は避けるようにと指示したというのだから★1。本展の主旨は、さまざまなメディアを通じて現われる表象としてのサッカーである。取り上げられている内容は多岐にわたる。第一は、「足」と「球」。アート作品としてのボールや靴があるのは想定の内であるが、足を描いた絵画や彫刻、あるいは白髪一雄の足で描いた絵画まで見ることができる。ここでは、身体のなかでもどちらかといえば知性とは反対の存在としてイメージされがちな足と、サッカーボールによって、サッカーというゲームが表象する身体を考える。第二は「サッカー以前」。近代的なルールによるサッカー以前に行なわれていた多様なフットボールと民衆との関わりが資料で紹介されている。第三は、明治以降の日本におけるサッカーの導入と受容。学校教育への導入が入門書や児童書などのメディアによって行なわれてきた様や、オリンピックにおける競技やその映像記録に現われた身体に注目する。第四は戦後の日本。ワールドカップのアートポスターや天皇杯のプログラム表紙のイメージ(女子サッカー選手権のプログラム表紙を通じてジェンダーの問題にも触れられている)、情報誌『ぴあ』の表紙に見られるサッカー選手の肖像、そして圧巻は膨大な数のサッカーマンガ。150余のタイトルと1,000冊に上るサッカーマンガの表紙が壁面を飾っているのだ! メディアへの露出の拡大は、Jリーグ発足によって拡大した人々のサッカーに対する認知と関心を極めて直接的に反映している。最後は日比野克彦・小沢剛・倉重迅・金氏徹平らによるサッカーをモチーフとした現代アート。サッカーに関連する文化や、ゲームの構造がアートに展開されている事例である。
 この展覧会では、サッカーやスポーツとその表象に関するあらゆるテーマが挙げられているといえよう。欠けているとすれば、商業化の歴史とその帰結ぐらいであろうか。そして多様なテーマを包括するものとして、これらの表象が書籍や雑誌などの印刷物や映画といった複製メディアが主な舞台となっている点が指摘されている。サッカーは世界のもっとも多くの国・地域で行なわれ、もっとも競技人口が多いスポーツと言われている。それはただ楽しむためのゲームであるばかりではなく、近代的な教育や規律を形成する手段であったり、国威発揚の舞台であったり、スポーツ用品メーカーがしのぎを削る場であったり、メディアが発達するきっかけであったり、時には紛争の火種となったりもする。スポーツ、そしてサッカーは、それ自体が同時代の社会の表象であり、その表象はメディアを通じて私たちのスポーツに対するイメージを形成し、形成されたイメージは今度はゲームのルールや場に影響を与えていくのである。[新川徳彦]

★1──関連展示として、さいたま市の少年サッカーと二つのJ1チームのコーナーが設けられている。



展示風景1


展示風景2

2014/05/14(水)(SYNK)

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