artscapeレビュー
志村ふくみ──母衣への回帰
2016年03月01日号
会期:2016/02/02~2016/03/21
京都国立近代美術館[京都府]
染織家、志村ふくみの展覧会。志村ふくみは1990年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されて以降、数々の賞を受賞してきた。本展は2015年の文化勲章受章を記念した展覧会である。
「貧しくて糸をかえない主婦が、夫や子供のためにのこり糸を繋いで、繋いで織ったものを屑織、ぼろ織という。その裂の天然の美しさに魅了されたのが柳宗悦であり、その弟子とも言える母や私である」(志村ふくみ「母衣への回帰」、『志村ふくみ──母衣への回帰』京都国立博物館、2016、16頁)。作家自身がこう語るように、展覧会のタイトルにある母衣の「母」とは、家族のために布を織る母親であり、志村に機織を教えた母、小野豊であり、その母と志村を民藝へと導いた柳宗悦である。この展覧会は、90歳をこえた志村が自らの源流を、織物の源流をたどり、その思いを表わした展覧会なのだ。会場は現在から過去へと構成されている。入り口付近に展示された、三部作(2015年)と無地のシリーズ(2015年)には、志村が活動の拠点としている琵琶湖岸の風景が鮮やかに描き出され、芳醇な色彩が自然から得たそのままに表わされている。染めと織りという日々の営みのなかで培われた感性は、混じりけがなく純粋で、瑞々しさや華やぎさえ備えている。かつて民藝が発見したのは民衆の生活のなかに息づく素朴な美であったが、朴訥とした素朴さからはじまった志村の表現は、いまや、存在をそのまま映した素の境地とでもいうべきところに至っているのではないだろうか。近作から初期の作品まで、日々のたゆまぬ研鑽に触れる展覧会であった。[平光睦子]
2016/02/16(火)(SYNK)